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白昼夢  作者: こたつぬま
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Y字路

家に戻るとさっそくリサの日記に目を通した。リカちゃんは好きなアニメを観ているから、私1人でリサについて探る。リサはどうやら小学生1年生の時から日記をつけているみたいだ。古い日記はかさばらないようにスキャンしてデータをメモリーカードに入れている。最新のノートパソコンを借りて拝読する。私も小学生の頃はつけてたけど中学校にあがってやめてしまったなぁ。

リサの日記に小学3年生の頃、クッキーを焼いて好きな男の子に渡した日のことが書いてあった。私はハッとする。たしか私も好きな男の子のためにクッキーを焼いた記憶がある。やはりリサは私と同じリサなのか。そんな気はしていた。ここは成功している世界線の私がいる世界で運命の分岐点がどこかにあったんじゃないか。私はクッキーを焼いたけど好きな男の子に渡せなかった。まだちゃんと読んでないけど、こっちの世界のリサは渡しているみたいだ。クッキーを渡すか渡さないか。あれが運命のY字路だったのか。あの日、なにが起こったのか。私は懐かしき日の記憶を思い起こす。


2007年10月10日

私はクラスメイトで大好きなトオルくんのためにクッキーを焼いた。この日は河川敷のグラウンドで草野球をするという情報をつかんでいたので走って向かった。到着するとちょうど試合中でトオルくんがホームランを打ったところだ。かっこいい。おもわずジャンプしてしまう。熱狂するグラウンドを見つめていると声をかけられる。

「ごきげんようリサさん」

クラスメイトのエリカちゃんだ。とりまきの女の子が5人もいる。

「ごきげんよう。エリカちゃん。みんなもごきげんよう」

「ごきげんよう」

「あなたの姿を見つけたから来てみれば草野球の観戦かしら」

「うん」

「その手に持っているのはなに?」

「クッキーだよ。トオルくんにあげようと思って作ったの。えへへ」

エリカちゃんがけしきばむ。

「あなたのような女がいるから、いつまで経っても女性の地位は向上しないんですのよ。男にびを売るような真似はおよしなさい。あなたは女の恥よ」

「そーよそーよ」

私はびっくりした。

「好きな男の子にクッキー作っちゃだめなの?」

「だめよ。男にマウント取らせちゃだめなの。すぐ調子に乗るでしょ。女は男にプレゼントされる側なのです。大きなプレゼントをもらったらお返しに小さなクッキーぐらい買ってプレゼントしてあげてもいいですけれど。あなたトオルくんに何か貰ったの?貰ってないでしょ。まず貰うのが先よ。男女の支配関係はそこで決まるの」

「意味わかんない」

エリカの講釈がはじまる。

「よろしいですか?いまの日本は完全な男性優位な社会で女性は男にしいたげられているの。それもこれも女が必要以上に男に媚びてマウントを取らせるからよ。女はお菓子を作ったり料理なんかしなくていいの。掃除もしなくていい。そんなことをするからそれが当たり前だという認識が社会に生まれて女性は奴隷のように扱われてしまうの。自分で作らせるか料理人を雇うか宅配してもらえばいいのよ。掃除だってそう。自分でさせるかハウスキーパーを雇えばいいの」

「私は好きな人のお嫁さんになって家のこと全部してあげたいけどなぁ」

「完全に間違ってますわ!料理やお掃除、お洗濯なんてカッコ悪い!家事は女の仕事でそれができる女が可愛いって言うイメージは男が女を奴隷にして家に閉じ込めるためのイメージ戦略なのよ!これからの女は社会に出て働くべきなの!今までは差別や偏見で才能を発揮できなかった!時代は少しづつ変わって来てる!女性が活躍する社会こそ最高のユートピアなのですわ!」

エリカの迫力に気圧されて反論できない。エリカは続ける。

「お嫁さんなんて言葉すぐ化石になりますわ。キャリアウーマンこそ正しい女のありかたなのです。女性の政治家、社長、役員をみんなで増やしていきましょう。今まで奴隷にされて労働を搾取されていたぶんを男性から取り返すのです。男なんていくらでも替えが効くのだから馬車馬のように働かせて家事も育児も仕事もさせればよいのです。わたくしたちは男どもが女にひれ伏してひざまづいてあがたてまつるように教育しなくてはいけません」

エリカちゃんは両手を広げて狂気じみた笑みを浮かべている。取り巻きの女の子たちは祈るように手を合わせて恍惚の表情でエリカちゃんを見ていた。

威圧されながら考える。そういえばママも同じことを言っていた。これからの時代は女も社会に出て働く時代だ。専業主婦は時代遅れ。女性を家に閉じ込めるな。女性が出世して世の中を引っ張るべき。女性社長、女性役員、女性政治家、女性大統領、女性のリーダーをもっと増やすべき。だからあなたは勉強して東大に行って一流企業に入って出世して社長になりなさい、と。エリカちゃんとママはきれいで頭が良くて行動力があって世間の評判がすこぶるいい。2人の言ってることが正しいんだ。

「そうだね。男の子にコビを売るような真似はやめるよ。私、間違ってた」

エリカちゃんは微笑してパンと手を合わせる。

「エクセレントですわ!リサさん!ではこれからわたくしのおうちでみなさまと一緒にフェミニズム運動についてお勉強しましょう。私たち女性がスクラムを組まないとだめなのですわ。女性の権利を拡大していきましょう」

「うん。クッキーはみんなで食べよう」

「紅茶をお出ししますわ」

私はグラウンドを離れてエリカちゃんのおうちに行った。

エリカちゃんはお嬢さまで豪邸に住んでいる。メイドさんもいる。いわゆる勝ち組だ。上流階級の人が言ってることが間違ってるわけない。私の選択は正しいんだ。そう思い込んだ。疑問はあったけど考えることは放棄した。その結果、私の人生は行き詰まった。回想をやめた私はリサの日記に戻る。トオルくんにクッキーを渡すルートの詳細を知りたい。

あの時、私は威圧を跳ねのけてエリカに反論していた。

「私は好きな男の子を支えるのが好きだし、料理も裁縫もお掃除もお洗濯も子どもと一緒に遊ぶのも好き。ぜんぜん苦痛にならない。主婦が向いてると思う。勉強嫌いだし貧血で体力もないから家にずっといたいし家が好き。なんでムリやり家から外に出そうとするの?へんだよ。外で働くのが好きな女の子だけが外に出て働けばいいでしょ」

エリカはムッとする。

「あなたのような考えの女性がいるからダメなのよ。男によって支配されている世界を変えるには女性が外に出て働くしかないの。社会的な地位を向上させて男社会をぶっ壊して女性が支配する世界を創るのよ」

「男女どっちかが支配する社会なんてディストピアにしかならないよ。子供でもわかることじゃん」

「男が女に冷たいのがいけないんですのよ!女が罪を犯すのもぜんぶ男が悪いの!」

「そうかな?ドッジボールの時、トオルくんは守ってくれた。守られてうれしかったよ。守られてばかりじゃダメって言うけど、女の子を守るのが好きな男の子もいる。女の子に支えてもらいたい男の子もいっぱいいる。守られる側、支える側に女が回っちゃいけないって言うけど、なんでなの?守りたい、支えてもらいたいって言う男の子がいるんだから需要はあるわけだし、そういう女の子たちは放っておけばいいじゃん。支えるのが苦手な女性は戦えばいい。守ってもらうのが嫌なら一緒に戦ったり男の子を守る側にまわればいい。でも、守られたい支えたいっていう女の子は放っておいてよ。そういうけなげで控えめな女の子が好きって言う男子もいるし、事実そういう女の子のほうがモテるじゃないか。

女性の社会進出なんて低賃金で働く社畜が減ったから政府が大企業の声に応えて叫び出しただけだよ。低賃金で雇える女性を家から引きずりだしたんだ。株主に大きな配当を出すために社員の給料を減らして妻も外で働かないといけなくなったから国民に文句を言われないように女性の社会進出の時代だって言い出した背景もある。昭和は専業主婦ばかりでみんな幸せだったのにそうじゃなくなった。気配りの得意な女性が支える力や子供を育てる能力が男性より優れているのも事実でしょ。そうじゃない人もいるけど、とにかく私の好きを否定しないで。ムリやり向いてもない世界で戦わせようとしないで!死んじゃうよ!」

「ぐむむ、口に減らない女ね」

「どっちがだよ」

私とエリカちゃんはお互いに前傾姿勢をとりおでこがくっつくぐらいの距離でにらみ合う。

「どうした?ケンカか」

試合が終わったのかトオルくんが近づいて来た。

「ちがいますわ。健全なディベートです」

「ふーん」

私はクッキーを差し出す。顔はきっと赤い。

「トオルくんのためにクッキー作って来た

「まじか。ありがとな」

トオルくんはその場で食べる。

「うめえ」

「うれしい♩」

「リサをいじめるやつはオレがぶんなぐってやるからな」

「暴力はダメだよ」

トオルはエリカちゃんたちを見つめる。

「多勢に無勢。そういう卑怯なのは嫌いだな。お前らの顔全員覚えたぜ」

「卑怯とかじゃありませんわ。リサさんの意見に賛同する人間がゼロだっただけです」

エリカは腕組みをしてみせる。1人の女の子がぴょんっとリサのほうに飛ぶ。

「わたしはリサちゃんが正しいと思うな」

続けて取り巻きの女の子たちは全員リサ側に移動する。

「わたしもリサちゃん派だよ」

「あなたたち裏切りますの?」

エリカは眉を吊り上げる。

「だって〜トオルくんに嫌われたくないんだもん」

「頼もしくてかっこいい男子に嫌われたくないって女子ならふつうだよ。こびてるとかじゃないし」

「リサちゃん。わたしにもクッキーの焼きかた教えて」

「いいよ」

「覚えてなさい。リサ」

「復讐は何も生まないよ。仲良くやろうよ」

「ふん」

エリカは拳を握りしめて大股で去っていく。背中に敗北感が漂っている。

その日はその場で解散になった。後日、私はエリカちゃんとも仲直りして一緒にケーキを作っている。

日記から目を離してフーッとため息をつく。

私は本棚を眺めた。リサの著作が並んでる。「支えるチカラ」「守られる技術」「簡単かたづけ術」「おそうじマイスター」「ほっぺの落ちるヘルシーおいしー料理」「初心者からはじめる裁縫」「楽しい育児のススメ」など。リサが家庭の達人であることがわかる。私は頭を抱えた。私の才能は家事育児だったのだ。リサはそれに気づき勉強を捨てて家庭的な能力をあげることに全ツッパした。大胆で勇気のある選択だ。他人の意見には一切耳を傾けなかったのだろう。自分を信じられなかった私は負け犬だ。ベッドにダイブして転がりもだえているとリカちゃんが入って来た。

「ママ。パパが夕飯はホテルのレストランだって」

「・・・はい」

「服とアクセサリー選んであげるね」

「かたじけない」

私はベッドの上で正座して手を合わせた。



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