ニーナ②
サラと初めて会った日のことは、私は今でも鮮明に覚えている。
私の方が一ヶ月ほど早く、アルミナ様に引き取られていた。
「ニーナ、ご挨拶なさい。この子はサラよ。あなたの妹になるの」
そう言われて振り向いた瞬間、息を呑んだ。
サラは、私と同じ瞳をしていた。
赤と緑――二つの色を宿した、不思議な光を放つ瞳。
けれど、その美しさは私の比ではなかった。
透き通るような白い肌は、見る者すべてを惹きつける。
女性である私でさえ、思わず触れてみたいと思ったほどだ。
ただ、その表情には深い悲しみがあった。
あぁ、きっと彼女も……私と同じく、身寄りをなくしたのだ。
そのことを、私はすぐに察した。
私とサラは、何をするにも一緒だった。
読み書きの勉強も、剣の稽古も、食事の時間も。
いつの間にか、私たちは常に隣にいるのが当たり前になっていた。
食事のときは、アルミナ様と三人で並んで座ることが多かった。
最初のうちは、話すのはいつも私だけ。
アルミナ様は微笑みながら私の話を聞き、その向かいでサラは黙々と食事をしていた。
聞いているのか、ただ心を閉ざしているのか、分からないほどに無表情で。
けれど、少しずつ、サラは変わっていった。
最初は目を合わせるのもためらっていたのに、少しずつ言葉を交わすようになった。
私の話に小さく笑ったり、時には冗談を返してくれたりもする。
そのたび、アルミナ様は嬉しそうに目を細め、微笑んでいた。
気づけば、食卓にはいつも小さな笑い声が絶えなかった。
ごはんを分け合い、些細な話で笑い合う時間は、どんな豪華な宴よりも暖かく感じられた。
三人で過ごすひとときが、少しずつ「家族」という形を帯びていく。
「私、サラもアルミナ様もだーいすき!」
私の大きな声に、二人の笑顔が花のように咲く。
孤独だった日々が遠い記憶のように感じられた。
勉強や剣のお稽古は先生についてもらい、サラと2人で習っていた。
サラは勉強がとてもよくできた。
最初のうちは、お互い何も知らない同じ立場だったのに、あっという間に彼女は私を追い越していった。
教わることすべてを、まるで乾いた大地が雨を吸い込むように吸収していく。
「サラはすごいね。私は勉強は苦手だわ」
「えぇ、体を動かすほうが、私はずっと苦手よ。
勉強は……楽しいわ。知らないことを知れるのって、少しワクワクするでしょう?」
サラはふっと口元を緩め、微かに微笑んだ。
先生たちは皆厳しくて、私は何度も弱音を吐いた。
けれどサラはいつも背筋を伸ばし、真っ直ぐに言う。
「私は助けてくれたアルミナ様をお守りしたいの。平和な国を築きたいの。そのために、できる限りの知識を身につけたいわ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
本に顔を寄せ、真剣なまなざしで文字を追うサラの横顔を見つめながら、私は静かに思った。
――私も、同じ気持ちだ。
アルミナ様に恩返しがしたい。同じ瞳を持つサラと、同じ想いを抱いている。
私は勉強は得意ではない。
けれど、体を動かすことなら誰にも負けない。
だから、私の剣で、アルミナ様もサラも絶対に守ってみせる――。
そのためには、もっと強くならなければならない。
もっとたくさん訓練を重ねて、体を鍛え、技を磨き、力をつけなければ。
自分の腕と心で、二人を守る――その決意が、胸の奥で小さく燃え上がる。
いつか、この手で、私の大切なものすべてを守れる日が来ると信じて。




