表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

サラ①


 私は、美しいとよく言われる。

銀色の髪に、雪のように白い肌。

わずか十五にして、大人びた体つき。

この豊かな胸は男性の目を惹きつける。


「サラが同い年って知った時はびっくりしちゃった。ほんっと大人っぽいんだもん。私が男だったら絶対サラのこと好きになっちゃうよ」


ニーナはまっすぐな瞳でそう言った。


 アストリアでは、美しさは重要だ。

男が少ないこの国では、子を残すために男性の目に留まることが何よりも大切だった。


 だからこそ、少女たちは幼い頃から美しくあることを教え込まれる。

髪の手入れ、姿勢、言葉遣い、そして微笑み方まで——。

けれど、私には関係のないこと。

どうせ一度は死ぬはずだった命だ。

子孫を残したいとは思わない。


 私にとっての願いはただひとつ。

アルミナ様と、兄弟のように育ったニーナ——。

二人が笑っていられること。

二人の幸せが、私のすべてなのだ。


 私は十歳の頃に両親を失った。

優しい母と、寡黙だけれど家族を一番に想ってくれた父。

あの日のことを、今でもはっきり覚えている。


 外がいつもよりざわめいている。

そんな夜のことだった。

最初は風の音かと思った。

けれど、何人もの足音が砂を踏みしめる音が近づいてきて、次の瞬間、扉が乱暴に開かれた。


 冷たい夜気とともに、十人ほどの盗賊が雪崩れ込んでくる。

みな女。

荒んだ目をして、手には刃物や杖を持っていた。


「金を出せ」


低い声が響く。

うちは村の中でも少し裕福な家だった。

狙われる理由はそれで十分だった。


 父は母を庇うように前へ出た。

「女に負けるはずがない」——そんな思いが、あの人の中にあったのかもしれない。

でも、相手はただの女じゃなかった。

みな刃を持った、戦うことに慣れた盗賊だ。


 父が木の棒を手に立ち向かおうとしたその瞬間、青白い光が走った。

次の瞬間、父の胸が深く裂かれ、大量の血が流れ出た。


「あなた!」


母の叫びが響いた。

震える手で盗賊の一人に掴みかかる。

細い体で、どうにか父を守ろうとするように。

だがその腕を、冷たい刃があっさりと断ち切った。


 母の身体が赤く染まり、床に崩れ落ちる。

母の瞳から光が消えるまで、ほんの数秒だった。


 わたしは押入れの中に隠れていた。

父に「どんなことがあっても出てくるな」と言われていた。

戸の隙間から、すべてを見てしまった。


 母が倒れる瞬間、盗賊たちが笑いながら金品を奪う姿。

壁に散った血が、月明かりを受けて鈍く光っていた。


 声を出したら、わたしも殺される。

それはわかっていた。

けれど、震える唇の隙間から嗚咽が漏れそうになって、両手で口を押さえた。

息をするたびに胸が焼けるように痛かった。

涙が止まらず、膝の上にぽたぽたと落ちた。


 外では、盗賊たちが戦利品を笑いながら分け合っていた。

「男のくせに弱いもんだね」

そんな声が聞こえてきた。


 夜が明けるころには、家の中は静まり返っていた。

焦げた木の匂い、血の鉄のような匂いが混じって、息をするのもつらかった。


 押入れの戸をそっと開けたとき、父と母の身体はもう冷たくなっていた。


 あの夜を境に、わたしの世界は終わった。


 それからの数日は、まるで時間が止まったようだった。

何も食べず、何も考えず、ただ父と母の亡骸の前でぼんやりと座っていた。

夜が明けても、日が沈んでも、動く気力などなかった。


 そんなわたしを見つけてくれたのが、教会のシスターだった。

「もう大丈夫よ」と言いながら、冷たくなったわたしの手をそっと包みこんでくれた。

その手のぬくもりで、ようやく涙があふれた。

そしてわたしは教会の孤児院へ引き取られた。


 けれど、そこでも穏やかな日々は訪れなかった。


 私の瞳は、右が赤、左が緑。左右で異なる色をしている。

珍しいその瞳は、周囲の子供たちにとって、理解できないものだった。


「バケモノ」

「不幸の象徴だ」


そんな声が、どこにいても絶えず耳に入ってくる。

最初は少し胸が痛みはした。けれど、すぐに慣れた。

人は、自分と違うものを怖がる――それだけのことだと、私は理解していた。


 けれど、そんなわたしに初めて「その目は美しい」と言ってくれた人がいた。

 

 この国の女王、アルミナ様だ。


 あの日、孤児院に視察に訪れた女王様は、わたしの顔を見るなり微笑んだ。

 

「美しい目をもつ少女よ」

 

その声は優しく、けれどどこか寂しさを帯びていた。

 

「私のもとに来る気はないかい?」


 誰にも受け入れられなかったこの瞳が、初めて“美しい”と呼ばれたのだ。

その言葉が、まるで暗闇の中に射す光のように、わたしの心を照らした。


 わたしの右目と同じ、そして私の母とも同じ、深く燃えるような赤色の瞳を持つ女王様。

あの夜に失った大好きな母と重なるように見える。

優しく、けれどどこか悲しげに微笑むその横顔。


 終わったと思っていた世界が、また静かに動き出した。

冷たく止まっていた心臓が、もう一度鼓動を取り戻したようだった。


 ――アルミナ様。

私は、あなたに一生ついていきます。

どうかこの命に、意味を与えてください。

この世界に生まれた理由を、あなたのそばで見つけさせてください。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ