サラ①
私は、美しいとよく言われる。
銀色の髪に、雪のように白い肌。
わずか十五にして、大人びた体つき。
この豊かな胸は男性の目を惹きつける。
「サラが同い年って知った時はびっくりしちゃった。ほんっと大人っぽいんだもん。私が男だったら絶対サラのこと好きになっちゃうよ」
ニーナはまっすぐな瞳でそう言った。
アストリアでは、美しさは重要だ。
男が少ないこの国では、子を残すために男性の目に留まることが何よりも大切だった。
だからこそ、少女たちは幼い頃から美しくあることを教え込まれる。
髪の手入れ、姿勢、言葉遣い、そして微笑み方まで——。
けれど、私には関係のないこと。
どうせ一度は死ぬはずだった命だ。
子孫を残したいとは思わない。
私にとっての願いはただひとつ。
アルミナ様と、兄弟のように育ったニーナ——。
二人が笑っていられること。
二人の幸せが、私のすべてなのだ。
私は十歳の頃に両親を失った。
優しい母と、寡黙だけれど家族を一番に想ってくれた父。
あの日のことを、今でもはっきり覚えている。
外がいつもよりざわめいている。
そんな夜のことだった。
最初は風の音かと思った。
けれど、何人もの足音が砂を踏みしめる音が近づいてきて、次の瞬間、扉が乱暴に開かれた。
冷たい夜気とともに、十人ほどの盗賊が雪崩れ込んでくる。
みな女。
荒んだ目をして、手には刃物や杖を持っていた。
「金を出せ」
低い声が響く。
うちは村の中でも少し裕福な家だった。
狙われる理由はそれで十分だった。
父は母を庇うように前へ出た。
「女に負けるはずがない」——そんな思いが、あの人の中にあったのかもしれない。
でも、相手はただの女じゃなかった。
みな刃を持った、戦うことに慣れた盗賊だ。
父が木の棒を手に立ち向かおうとしたその瞬間、青白い光が走った。
次の瞬間、父の胸が深く裂かれ、大量の血が流れ出た。
「あなた!」
母の叫びが響いた。
震える手で盗賊の一人に掴みかかる。
細い体で、どうにか父を守ろうとするように。
だがその腕を、冷たい刃があっさりと断ち切った。
母の身体が赤く染まり、床に崩れ落ちる。
母の瞳から光が消えるまで、ほんの数秒だった。
わたしは押入れの中に隠れていた。
父に「どんなことがあっても出てくるな」と言われていた。
戸の隙間から、すべてを見てしまった。
母が倒れる瞬間、盗賊たちが笑いながら金品を奪う姿。
壁に散った血が、月明かりを受けて鈍く光っていた。
声を出したら、わたしも殺される。
それはわかっていた。
けれど、震える唇の隙間から嗚咽が漏れそうになって、両手で口を押さえた。
息をするたびに胸が焼けるように痛かった。
涙が止まらず、膝の上にぽたぽたと落ちた。
外では、盗賊たちが戦利品を笑いながら分け合っていた。
「男のくせに弱いもんだね」
そんな声が聞こえてきた。
夜が明けるころには、家の中は静まり返っていた。
焦げた木の匂い、血の鉄のような匂いが混じって、息をするのもつらかった。
押入れの戸をそっと開けたとき、父と母の身体はもう冷たくなっていた。
あの夜を境に、わたしの世界は終わった。
それからの数日は、まるで時間が止まったようだった。
何も食べず、何も考えず、ただ父と母の亡骸の前でぼんやりと座っていた。
夜が明けても、日が沈んでも、動く気力などなかった。
そんなわたしを見つけてくれたのが、教会のシスターだった。
「もう大丈夫よ」と言いながら、冷たくなったわたしの手をそっと包みこんでくれた。
その手のぬくもりで、ようやく涙があふれた。
そしてわたしは教会の孤児院へ引き取られた。
けれど、そこでも穏やかな日々は訪れなかった。
私の瞳は、右が赤、左が緑。左右で異なる色をしている。
珍しいその瞳は、周囲の子供たちにとって、理解できないものだった。
「バケモノ」
「不幸の象徴だ」
そんな声が、どこにいても絶えず耳に入ってくる。
最初は少し胸が痛みはした。けれど、すぐに慣れた。
人は、自分と違うものを怖がる――それだけのことだと、私は理解していた。
けれど、そんなわたしに初めて「その目は美しい」と言ってくれた人がいた。
この国の女王、アルミナ様だ。
あの日、孤児院に視察に訪れた女王様は、わたしの顔を見るなり微笑んだ。
「美しい目をもつ少女よ」
その声は優しく、けれどどこか寂しさを帯びていた。
「私のもとに来る気はないかい?」
誰にも受け入れられなかったこの瞳が、初めて“美しい”と呼ばれたのだ。
その言葉が、まるで暗闇の中に射す光のように、わたしの心を照らした。
わたしの右目と同じ、そして私の母とも同じ、深く燃えるような赤色の瞳を持つ女王様。
あの夜に失った大好きな母と重なるように見える。
優しく、けれどどこか悲しげに微笑むその横顔。
終わったと思っていた世界が、また静かに動き出した。
冷たく止まっていた心臓が、もう一度鼓動を取り戻したようだった。
――アルミナ様。
私は、あなたに一生ついていきます。
どうかこの命に、意味を与えてください。
この世界に生まれた理由を、あなたのそばで見つけさせてください。




