ニーナ④
最近、サラとリスタは妙に仲がいい。
そう感じたのは、リスタがサラのネックレスを拾ったあの日からだった。
それをきっかけに、二人の間には目に見えない糸が結ばれたかのようで、気づけばいつも互いの視線が交わっていた。
小さな仕草や、無言のやり取りさえ、二人だけの秘密の会話のように見える。
――でも、心のどこかで、私はその光景に胸をひどく締めつけられていた。
二人だけで出かけていく後ろ姿を見た時も、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
一週間後には帰ってくるというのに、どうしようもなく寂しかった。
心のどこかで、私はその後ろ姿を追いかけたいのに、足が動かない自分を感じていた。
私とサラは、境遇が似ていた。
両親を亡くし、アルミナ様に拾われたことも同じ。
だから私は、サラとは運命共同体だと勝手に思い込んでいた。
どんな苦しみも、どんな未来も、二人で歩むものだと。
お城での生活を支えてくれる人はたくさんいた。
けれど、その人たちはいつも必要最低限のことしか話してくれない。
酷い扱いを受けているわけではない。
むしろ、身寄りのない私たちにここまでよくしてくれることには、感謝の気持ちがある。
それでも――どこか心の奥には、距離を置かれていることが感じられた。
私たちがアルミナ様の近くにいるからか、誰もが少し怯えて私に接しているのだ。
サラがいないこの城で、私はひとりぼっちだった。
廊下を歩く音、石造りの壁に反響する自分の足音、冷たい空気。すべてが孤独を増幅させる。
心の奥で、誰かのぬくもりを求める自分を感じた。
パラドゥーラ国との戦争は、日に日に激しさを増していた。
サラたちは「一週間で帰る」と言っていたのに、もう十日も経っている。
国境の向こうでは、あの“爆発する弾”を発射する装置が至る所に設置され、
最前線の兵士たちは次々と負傷し、城に運び込まれる。
手足を失った者、全身に火傷を負った者――
布に包まれた身体の下から、うめき声だけが聞こえてくる。
私は怖くて、まともに見ることもできなかった。
死んだ兵士たちは国境付近に埋められ、娘の姿を確認できない親たちが、城の門をたずね、震える声で尋ねる。
「私の娘は……生きていますか?」
誰も答えられないまま、泣き声だけが石造りの廊下に反響する。
だが、戦って死んだ者や怪我をした者は、まだましなのかもしれない。
噂で聞いたことがある。
アストリアの女兵士たちは、捕らえられたあと、男たちの欲のはけ口にされる。
満足すれば、処分される。
パラドゥーラ国の奴隷市場には、アストリアの女性の姿が絶えないという。
彼女たちは、国を守るために戦場に向かったのに――
捕らえられ、待っていたのは名誉でも勝利でもない。
知らない土地で、奴隷として生きるしかない運命。
戦って死ぬことすらできない現実。
――この世界で、女性とは、いったい何なのだろう。
怖い。怖くてたまらない。
サラ!サラは一体どこにいるの?
そんなことを考えながらふと目を上げると、向かいのガラス窓に、自分の姿が映っていた。
その瞬間、息が止まる。
違和感。
左右で色の違う瞳。それが自分の特徴のはずだった。
けれど、ガラスの中の赤い瞳はどこか薄く、まるで色が抜けていくように淡くなっていた。
心臓がどくん、と大きく鳴る。
どういうこと……?
ガラスに映る自分から、目を逸らすことができなかった。
だが、その視線を奪うように、城の中がざわつき始める。
「リスタはどこだ!男手が足りない、あいつを前線に連れて行く!」
その大声は、リスタのお父さんのものだった。
その声に、はっとした。
ガラスに釘付けだった意識が、やっと現実に戻る。
リスタさんが……前線に?
こんなに戦況が激化している中で、前線に立つだなんて……
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
それは、つまり――死を意味することではないのか。
思わず手を握りしめ、冷たい石の廊下に立ち尽くす。
戦場の音は遠くにあるはずなのに、心臓の鼓動がその音に負けないくらい大きく響く。
恐怖と不安、孤独と焦燥。すべてが胸の中で混ざり合い、渦巻いている。
このままでは、気持ちが押し潰されそうだった。
――早く、サラ。早く戻ってきて。私を1人にしないで。




