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幼馴染の裏切りと完璧すぎた復讐〜お前が泣いても、もう俺の心は動かない〜  作者: ledled


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第二話 因果応報の連鎖〜お前たちが望んだ地獄へようこそ〜

離婚の話し合いから一週間が経った。柊家のリビングは、かつての温かさを失っていた。梢は毎日泣き続け、透耶に許しを請うたが、彼の決意は揺るがなかった。


「透耶、お願い。もう一度だけチャンスをちょうだい。私が悪かった。全部私が悪かったから」

「梢、何度言ってもわからないのか。俺の中でお前への愛情はもう死んだんだ」


透耶は書類に目を通しながら冷たく答えた。


「子供たちは?子供たちはどうなるの?」

「紬と蒼汰は俺についてくる。二人とももう決めている」

「そんな……私は母親なのよ?」

「母親?八年間、子供たちを置いて男と会っていた女が、今更母親面するな」


透耶の言葉は容赦なかった。梢はその場に崩れ落ちた。同じ頃、樫原巧の人生も急速に崩壊していた。関連会社への出向は実質的な左遷だった。給料は三割削減され、地方の小さなオフィスに追いやられた。妻の弥生は弁護士を立て、慰謝料三百万円と養育費を要求。家も財産も全て失う覚悟をしなければならなくなった。


「巧さん、大変でしたね」


出向先の上司が同情的に声をかける。だが、その目には軽蔑の色が浮かんでいた。不倫で左遷された男。その噂はすでに社内に広まっていた。樫原は梢に連絡を取ろうとした。だが、梢の番号はすでに変わっていた。透耶が妻の携帯を解約させたのだ。


「くそ……」


樫原は一人、安アパートの部屋で頭を抱えた。妻に出て行かれ、子供たちにも会えなくなった。職も地位も失った。そして、愛していると思っていた梢とも連絡が取れない。彼が頼れるものは、もう何も残っていなかった。


一方、透耶は弁護士と共に、着々と手続きを進めていた。


「柊さん、相手方から和解の申し出がありました。慰謝料を三百万に減額してほしいと」

「断ってください。五百万、一円も譲りません」


透耶の声に迷いはなかった。


「わかりました。それと、樫原氏への請求も準備が整いました。こちらも五百万円で進めます」

「お願いします」


弁護士は透耶の表情を見て、少し躊躇いながら言った。


「柊さん、本当にこれでいいんですか?奥様、相当追い詰められているようですが」

「構いません。自業自得です」


透耶は冷たく言い放った。その週末、透耶は子供たちと三人で外出した。久しぶりの家族だけの時間。ただし、そこに梢の姿はなかった。蒼汰が聞く。


「パパ、ママは?」

「ママは今日は来られない」

「そっか……」


蒼汰は少し寂しそうだったが、すぐに気を取り直した。子供は順応が早い。紬は何も言わなかった。彼女は母親の裏切りを知り、複雑な感情を抱いていた。母親を憎むべきか、それとも哀れむべきか。答えは出ていなかった。


「紬、お前はどう思ってる?」


透耶が娘に聞いた。


「わかんない。ママのことは嫌いになれない。でも、パパを裏切ったことは許せない」

「そうか」


透耶は娘の頭を撫でた。


「お前たちが混乱するのは当然だ。でも、お父さんはお前たちを必ず守る。それだけは信じてくれ」

「うん」


紬は涙を浮かべながら頷いた。その夜、透耶が帰宅すると、梢が玄関で待っていた。


「透耶、話を聞いて」

「聞くことは何もない」


透耶は梢を無視して家に入ろうとした。だが、梢は必死にしがみついた。


「お願い、最後に一つだけ聞いて。私、本当に反省してる。巧とはもう終わった。連絡も取ってない。だから、もう一度……」

「梢」


透耶は梢の手を振りほどき、彼女の目を真っ直ぐ見た。


「お前は何を勘違いしている?今更謝って、俺が許すとでも思ってるのか?」

「でも……」

「お前は八年間、俺を騙し続けた。俺が家族のために必死で働いている間、お前は他の男と体を重ねていた。その事実は何をしても消えない」


梢は言葉を失った。


「それに、お前が今謝っているのは、本当に反省しているからか?それとも、失うものの大きさに気づいたからか?」

「それは……」

「わかりきってる。お前は巧が職を失い、連絡が取れなくなって初めて焦ったんだ。居場所を失うのが怖くなったんだ。俺への愛情なんて、最初からなかっただろう」


透耶の言葉は容赦なく梢を抉った。


「違う……違うの……」


梢は床に座り込み、声を上げて泣いた。だが、透耶はもう振り返らなかった。翌週、正式に離婚調停が始まった。弁護士同士の話し合いの場で、梢側の弁護士が言った。


「親権については、やはり母親に優先権があると思いますが」


だが、透耶側の弁護士は冷静に反論した。


「不貞行為を八年間継続し、しかも配偶者の財産を無断で流用していた人物に、親権を与えるべきではありません。子供たち本人も父親との生活を希望しています」

「しかし……」

「それに、こちらには子供たちの意見書もあります。十三歳の長女は自分の意志を明確に表明できる年齢です」


紬が書いた意見書には、こう記されていた。「私は父と暮らしたいです。母は私たちを裏切りました。もう信じられません」調停委員はその意見書を見て、深く頷いた。


「お子さんの意志は尊重されるべきですね」


梢側の弁護士は何も言えなくなった。慰謝料についても、透耶側の主張が通った。五百万円の支払い、そして無断で移動させた三百万円の返還。合計八百万円。梢にとっては途方もない金額だった。


「そんな金額、払えるわけないでしょう!」


梢が叫んだ。


「それはあなたの問題です。分割払いでも構いませんが、支払い義務は消えません」


弁護士が淡々と告げた。調停が終わり、透耶が裁判所を出ると、梢が追いかけてきた。


「透耶、待って!」

「何だ」

「本当に、本当にこれで終わりなの?二十年間一緒にいたのに、全部無駄だったの?」


梢の目は泣き腫らして真っ赤だった。だが、透耶の心は動かなかった。


「無駄にしたのはお前だ。俺じゃない」

「でも……」

「もう話すことはない。弁護士を通してくれ」


透耶はそう言い残し、その場を去った。梢は裁判所の前で立ち尽くし、やがて力なく膝をついた。通りを行く人々が彼女を見たが、誰も声をかける者はいなかった。


その後、梢は実家に戻ることになった。両親は娘の不倫を知り、激怒した。父親が怒鳴る。


「お前は何てことをしたんだ!透耶君はあんなにいい人だったのに!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


梢はただ謝ることしかできなかった。


「謝って済む問題か!孫たちにも会えなくなって、お前、それでいいのか!」

「会いたい……紬にも蒼汰にも会いたい……」

「自業自得だ」


母親も冷たく言い放った。梢は自分の部屋に閉じこもり、毎日泣いて過ごした。かつて持っていた全てを失った。夫、子供、家、そして尊厳。彼女のスマホには、樫原からの着信履歴が何度も残っていた。だが、梢は一度も出なかった。あの男と話したところで、何も変わらない。むしろ、全ての元凶はあの男だ。


ある日、梢は思い切って樫原の番号にかけ直した。


「もしもし、梢か!」


樫原の声は焦っていた。


「何の用?」


梢の声は冷たかった。


「お前、どうなってるんだ?俺、会社クビになりそうだし、嫁にも離婚されて……全部お前のせいだぞ!」

「私のせい?」


梢は信じられないという表情になった。


「そうだよ!お前が旦那にバレたから、俺まで巻き込まれたんだ!」

「あなた、何言ってるの?一緒にいたいって言ったのはあなたでしょう?」

「それは……そういう雰囲気だっただけだ!本気にしてたのか?」


梢は言葉を失った。


「お前、まさか本気で俺と一緒になれるとか思ってたわけ?お前みたいな遊び相手と結婚するわけないだろ」


樫原の言葉は容赦なかった。梢の手からスマホが滑り落ちた。遊び相手。八年間、自分は何をしていたのか。家族を裏切り、夫を裏切り、子供たちを裏切り、全てを失って、最後に残ったのは「遊び相手」という烙印だけだった。梢は床に座り込み、声も出せずに泣いた。


一方、樫原もまた地獄を味わっていた。出向先での仕事は単調で、かつての華やかな営業の日々とは程遠かった。周囲の目は冷たく、誰も彼と親しくしようとはしなかった。妻との離婚は正式に成立し、養育費と慰謝料の支払いで毎月の収入はほとんど残らなくなった。そして、透耶からの慰謝料請求五百万円が追い打ちをかけた。


「五百万なんて払えるわけないだろう!」


樫原は弁護士に食ってかかった。


「しかし、支払い義務は法的に発生しています。相手方は証拠も完璧に揃えており、裁判になれば確実に負けます」

「くそ……」


樫原は頭を抱えた。もう逃げ場はなかった。彼は借金をして慰謝料を支払うしかなかった。その結果、毎月の返済に追われる生活が始まった。かつての裕福な暮らしは夢のようで、今は狭いアパートで一人、カップ麺をすする日々だ。ある夜、樫原は酔った勢いで梢に電話をかけた。


「梢……助けてくれよ……」

「もう電話しないで」


梢の声は疲れ切っていた。


「お前、俺を見捨てるのか?一緒にいたいって言ったじゃないか」

「あなたが遊びだったって言ったんでしょう?もう関わらないで」


梢は電話を切った。樫原はスマホを壁に投げつけた。二人の「愛」は、失うものが出てきた途端に消え去った。残ったのは互いへの恨みと後悔だけだった。


数ヶ月後。透耶は子供たちと新しいマンションに引っ越した。以前より少し小さいが、三人で暮らすには十分な広さだ。紬が嬉しそうに聞く。


「パパ、この部屋、私の?」

「ああ、好きに使っていいぞ」

「やった!」


蒼汰も自分の部屋を見て喜んでいた。透耶はリビングのソファに座り、窓の外を見た。新しい生活が始まった。傷ついた心を抱えながらも、前を向いて歩いていくしかない。


「パパ、ご飯できたよ」


紬が呼びに来る。最近、彼女は料理を手伝うようになった。


「ありがとう。じゃあ、食べるか」


三人で食卓を囲む。梢がいた頃より質素な食事だが、不思議と温かい。蒼汰が聞く。


「ねえ、パパ。ママには会えないの?」


透耶は少し黙ってから答えた。


「会いたいか?」

「うーん……わかんない」


蒼汰は複雑な表情をした。


「いつか会える日が来るかもしれない。でも、今はまだその時じゃない」

「そっか」


蒼汰は納得したように頷いた。紬は何も言わずに食事を続けた。彼女の心の中では、まだ母親への複雑な感情が渦巻いていた。


その夜、透耶は一人、ベランダに出た。夜風が心地よい。スマホには、梢から何通ものメッセージが届いていた。『お願い、子供たちに会わせて』『私が悪かった。本当にごめんなさい』『せめて声だけでも聞かせて』透耶はそれらのメッセージを読んだが、返信はしなかった。彼の心の中では、確かにまだ梢への感情が残っていた。二十年間一緒にいた相手を、完全に忘れることなどできない。だが、それは愛情ではなかった。哀れみでもなかった。ただ、かつて愛した人への名残のようなものだ。


透耶は夜空を見上げた。星が綺麗だった。


「梢、お前は自分で選んだんだ。その結果を受け入れるしかない」


透耶は呟いた。もう戻ることはできない。時間は決して巻き戻らない。


梢は実家で、毎日をただ生きているだけの状態だった。仕事を探そうとしても、ブランクがあり、年齢も重ねており、なかなか見つからない。慰謝料の返済のため、やっとの思いで見つけたのは、スーパーのレジ打ちのパートだった。時給は最低賃金に近く、一日中立ちっぱなしの仕事は体に堪えた。職場の同僚たちは若い主婦が多く、彼女たちの幸せそうな家族の話を聞くたびに、梢の心は抉られた。


「昨日、旦那が結婚記念日にサプライズしてくれて」

「いいなあ。うちの旦那も見習ってほしい」


そんな会話が耳に入るたびに、梢は自分が失ったものの大きさを思い知った。ある日、スーパーで買い物をしていた客の中に、透耶と子供たちの姿を見つけた。梢は思わず声をかけようとした。だが、その瞬間、紬がこちらを見た。娘の目は冷たかった。そして、何も言わずに顔を背けた。梢は声が出なかった。ただ、遠くからその姿を見つめることしかできなかった。透耶は気づいていたのかもしれない。だが、彼は振り返らなかった。三人は楽しそうに買い物をして、やがて店を出て行った。


梢はその場に立ち尽くしていた。涙が溢れて止まらなかった。同僚が心配そうに声をかける。


「お客様、大丈夫ですか?」

「大丈夫です……すみません……」


梢は慌てて涙を拭いた。だが、心の中の空虚さは埋まらなかった。夜、実家に戻った梢は、自分の部屋で一人、かつての家族写真を見つめた。笑顔の透耶、幼い紬と蒼汰、そして自分。あの頃は確かに幸せだった。なぜ、あれだけでは満足できなかったのか。なぜ、樫原などに心を許してしまったのか。答えは出なかった。ただ、後悔だけが心を支配した。


「透耶……ごめんなさい……」


梢は写真を抱きしめて泣いた。だが、その涙に応える者は、もう誰もいなかった。


そして一年が経った。透耶は子供たちと共に、新しい日常を築いていた。傷は完全には癒えていないが、少しずつ前に進んでいた。ある日、会社の同僚から食事に誘われた。


「柊さん、たまには息抜きしましょうよ」

「ああ、ありがとう」


久しぶりの大人だけの時間。透耶は少しずつ、社会との繋がりを取り戻していた。家に帰ると、紬と蒼汰が夕食の準備をしていた。


「お帰りなさい、お父さん」

「ただいま。今日は何作ってるんだ?」

「カレー!」


三人で食卓を囲む。以前より料理の腕も上がり、生活は安定してきた。紬が言った。


「ねえ、お父さん」

「何だ?」

「私、もうお母さんのこと、許してもいいかなって思うようになった」


透耶は驚いて娘を見た。


「どうしてそう思ったんだ?」

「お母さんがしたことは許せない。でも、ずっと恨んでいても、自分が苦しいだけだから」


紬は大人びた表情で言った。


「そうか。お前がそう思うなら、それでいいと思う」


透耶は娘の成長を感じた。


「でも、一緒に暮らしたいとは思わない。お父さんと蒼汰と、三人がいい」

「わかった」


透耶は娘の頭を撫でた。


一方、梢は相変わらずパートの仕事を続けていた。慰謝料の返済はまだ続いており、生活は楽ではない。だが、彼女も少しずつ変わり始めていた。自分のしたことの重さを、毎日毎日噛み締めながら生きている。かつての傲慢さは消え、ただ静かに日々を過ごしている。いつか、子供たちに謝れる日が来るだろうか。いつか、透耶に許してもらえる日が来るだろうか。梢にはわからなかった。ただ、今は自分が犯した罪を償うことしかできない。


樫原巧は、もう誰も彼のことを気にかける者はいなかった。仕事は単調で、収入は少なく、借金の返済に追われる日々。元妻からは養育費の督促が来て、透耶への慰謝料も払い続けている。彼の人生は完全に破綻していた。かつて持っていた全てを失った男は、今、誰にも顧みられることなく、ただ生きているだけの存在となっていた。


そして、ある冬の夜。透耶は子供たちが寝静まった後、一人リビングで紅茶を飲んでいた。スマホには、梢からのメッセージが一通届いていた。『紬が十四歳の誕生日を迎えますね。おめでとうと伝えてください。私からのプレゼントは受け取ってもらえないと思うので、あなたから何か買ってあげてください』そして、振込の通知。梢が少ない給料の中から、娘のためにお金を送ってきたのだ。透耶は少し考えてから、返信した。


『受け取った。紬に伝える』


それだけの短い返信。だが、それは透耶が一年ぶりに梢に送った言葉だった。梢はそのメッセージを見て、涙を流した。許されたわけではない。でも、完全に拒絶されたわけでもない。それだけで、梢には十分だった。


透耶は窓の外を見た。雪が降り始めていた。彼の心の中には、まだ梢への複雑な感情が残っていた。憎しみ、悲しみ、そして僅かな哀れみ。だが、もう愛情ではなかった。


「これでよかったんだ」


透耶は呟いた。彼は前を向いて生きていく。子供たちと共に、新しい人生を歩んでいく。失ったものは大きかった。だが、守るべきものも残っている。そして、裏切った者たちには、それぞれの因果応報が訪れた。樫原は孤独の中で、失ったものの重さに潰されそうになりながら生きている。梢は毎日、自分の犯した罪を噛み締めながら、わずかな希望にすがって生きている。二人が望んだ未来は、決して訪れることはなかった。代わりに訪れたのは、自分たちが蒔いた種が実った、苦い現実だけだった。


透耶は子供たちの寝顔を見に行った。二人とも安らかに眠っている。


「お前たちを絶対に守る」


透耶は静かに誓った。そして、新しい一日が始まる。雪は静かに降り続けていた。

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