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幼馴染の裏切りと完璧すぎた復讐〜お前が泣いても、もう俺の心は動かない〜  作者: ledled


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第一話 二十年の嘘が崩れた日〜妻の笑顔の裏にあった真実〜

十月の夜、柊透耶は自宅の書斎で膝に手を置き、じっとスマートフォンの画面を見つめていた。画面には妻・梢のメッセージアプリが表示されている。彼の手は微かに震えていたが、表情は驚くほど冷静だった。


事の発端は三日前だった。リビングのソファで娘の紬がそう声をかけたとき、透耶は何気なくテーブルの上の妻のスマホを見た。画面には「たくちゃん♡」という名前と共に、メッセージの一部が表示されていた。『明日も会えるよね?君に会えない日は』その先は見えなかった。だが、透耶の中で何かが引っかかった。たくちゃん。そんな呼び方をする知り合いが妻にいただろうか。ハートマークを名前につけるほどの。


「パパ、ママのスマホ鳴ってるよ」


その夜、透耶は眠れなかった。妻は隣で安らかな寝息を立てている。結婚して十四年。小学校から一緒だった幼馴染。互いを知り尽くしていると思っていた相手が、自分の知らない顔を持っているかもしれない。疑いたくなかった。だが、疑念は日に日に膨らんでいった。


翌日、透耶は会社で仕事が手につかなかった。IT企業の経営企画部マネージャーという立場上、様々な判断を下さなければならないのだが、頭の中は妻のスマホに表示されていたあのメッセージでいっぱいだった。部下の声で我に返る。


「柊さん、大丈夫ですか?」

「ああ、すまない。少し考え事をしていた」

「最近お疲れのようですね。無理なさらず」


透耶は苦笑した。疲れているのは確かだ。だが、その原因は仕事ではない。その日の夜、透耶は決断した。真実を知る必要がある。疑念を抱えたまま生きるのは耐えられない。彼は大学時代の友人に連絡を取った。相手はIT企業を経営しており、データ復元やセキュリティに詳しい。


「透耶、久しぶりだな。どうした?」

「実は、頼みがあるんだ」


透耶は状況を説明した。友人は少し黙った後、静かに答えた。


「わかった。力になる。ただし、本当に真実を知りたいのか?知ったら後戻りできないぞ」

「覚悟はできている」


その週末、透耶は家族で外出する予定をキャンセルし、一人で友人のオフィスを訪れた。妻には「急な会議が入った」と伝えた。梢は少し不満そうだったが、特に疑う様子もなく了承した。


「子供たち、楽しみにしてたのに」

「すまない。来週必ず埋め合わせする」

「わかった。じゃあ私と子供たちだけで出かけるね」


梢は明るく笑った。透耶はその笑顔を見て、胸が締め付けられる思いがした。もし自分の疑念が間違いなら、妻に申し訳ないことをしている。だが、もし正しかったなら――。


友人のオフィスで、透耶はバックアップデータから妻のスマホの中身を復元してもらった。友人が最後の確認をする。透耶は頷いた。そして、画面に表示された内容を見た瞬間、透耶の世界は音を立てて崩れ去った。


「これ、本当に見るのか?」


メッセージアプリには「たくちゃん♡」とのやり取りが、延々と記録されていた。最も古いものは八年前。息子の蒼汰が二歳の頃だ。『今日も会えて嬉しかった。君といると時間を忘れる』『私も。あなたと一緒にいる時間が一番幸せ』『旦那は今日も遅いのか?』『うん。最近残業ばっかり。正直、もう愛情なんてないのかも』透耶は息が詰まりそうになった。自分が家族のために必死で働いていた時間、妻は別の男と会っていた。しかも、自分のことをこんな風に語っていた。


さらに読み進めると、内容はどんどんエスカレートしていった。『ホテル、例の場所でいい?』『うん。あそこなら誰にも会わないし』『君の体、本当に綺麗だ。旦那は幸せ者だな』『やめてよ。あの人の話はしないで。今は二人だけの時間でしょ』透耶は吐き気を覚えた。だが、目を逸らすことができなかった。


そして、決定的なメッセージを見つけた。『ねえ、いつか本当に一緒になれないかな』『俺も本気でそう思ってる。でも今すぐは難しい。お互い子供もいるし』『わかってる。でも、いつかはね』『ああ。その時のために、少しずつ準備しておこう。お前、旦那名義の口座から少しずつ移せるか?』『できると思う。気づかれないように、少しずつね』透耶は画面を見つめたまま、声も出なかった。


友人が心配そうに声をかける。


「透耶、大丈夫か?」

「ああ」


透耶の声は不思議なほど落ち着いていた。むしろ、怒りや悲しみを通り越して、妙な冷静さが彼を支配していた。


「このデータ、全部保存できるか?」

「もちろん。すでにバックアップは取ってある。それと、こいつの身元も調べた方がいいか?」

「頼む」


友人は数分後、一枚の紙を差し出した。


「樫原巧。四十二歳。中堅広告代理店の営業部長。既婚、子供二人」


透耶はその紙を受け取り、じっと見つめた。


「ありがとう。これ、誰にも言わないでくれ」

「当然だ。それで、これからどうするんだ?」


透耶は少し考えてから答えた。


「冷静に、確実に、対処する」


友人は透耶の表情を見て、何も言わなかった。ただ、肩を叩いて励ますだけだった。その夜、透耶が帰宅すると、妻と子供たちは楽しそうに夕食の準備をしていた。蒼汰が駆け寄ってくる。透耶は息子を抱き上げ、笑顔を作った。


「パパ、お帰りなさい!」

「ただいま。今日はどこに行ってきたんだ?」

「水族館!イルカのショー見たよ!」

「そうか、楽しかったか?」

「うん!」


紬もリビングから顔を出した。


「お父さん、会議はどうだった?」

「ああ、無事に終わったよ」


梢がエプロン姿で現れる。


「お疲れ様。今日は透耶の好きなハンバーグ作ったよ」

「ありがとう」


透耶は妻の顔を見た。変わらない笑顔。変わらない優しい声。だが、もうその全てが嘘に見えた。夕食の間、透耶は普段通りに振る舞った。子供たちの話を聞き、妻と他愛もない会話をする。誰も透耶の心の中で何が起きているのか気づかなかった。


子供たちが寝た後、透耶は書斎にこもった。そして、ノートパソコンを開き、これからの計画を練り始めた。感情的になってはいけない。今必要なのは冷静さと緻密な計画だ。透耶は翌日、探偵事務所に連絡を取った。そして、信頼できる離婚専門の弁護士にも相談の予約を入れた。さらに、妻の口座の動きを調べるため、銀行にも問い合わせた。案の定、透耶の知らない口座に定期的に少額ずつ送金されている記録があった。八年間で総額は三百万円を超えていた。


「これは横領に等しいな」


透耶は冷静にメモを取った。探偵からは一週間後、詳細な調査報告書が届いた。妻と樫原巧の密会の証拠写真、ホテルへの出入りの記録、車での移動履歴。全てが揃っていた。弁護士との相談では、親権と慰謝料について詳しく話を聞いた。


「これだけ証拠が揃っていれば、親権はまず間違いなく取れます。慰謝料も相当額請求できるでしょう。それに、勝手に口座から移した金額については返還請求も可能です」

「わかりました。それと、相手の男にも慰謝料請求したい」

「当然です。不貞行為の相手方にも責任がありますから」


透耶は全ての準備を整えた。証拠は完璧だ。法的にも何の問題もない。そして、計画の実行日を決めた。それは結婚記念日の一週間後。その日まで、透耶は何事もないように過ごした。妻との会話も、子供たちとの時間も、全て普段通り。ただ一つ違うのは、透耶の心の中で、妻への愛情が急速に冷えていったことだった。


結婚記念日当日、梢は嬉しそうにケーキを用意していた。


「十四年だね。あっという間だった」

「そうだな」


透耶は淡々と答えた。


「これからもよろしくね」


梢が笑う。透耶はその笑顔を見て、何も感じなかった。かつてはこの笑顔を守るために全力を尽くしていた。だが今は、ただの嘘にしか見えない。


「ねえ、来週の土曜日、ちょっと美容院行ってきていい?」

「ああ、いいよ」


透耶は答えた。どうせまた樫原と会うのだろう。もう何もかもわかっている。その夜、透耶は子供たちと話をした。


「紬、蒼汰、二人に大事な話がある」

「何?お父さん」


紬が不思議そうに聞く。


「もしも、お父さんとお母さんが離れて暮らすことになったら、二人はどうしたい?」


紬の表情が変わった。


「お父さん、もしかして……」

「まだ何も決まっていない。ただ、可能性の話だ」


蒼汰が不安そうに聞く。


「パパとママ、離婚するの?」

「そうなるかもしれない。だから、二人の気持ちを聞いておきたいんだ」


紬はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「お父さんについていく。蒼汰も」

「どうして?」

「だって、お父さんはずっと家族のために頑張ってきたもん。お母さんは……最近、なんか変だった」


透耶は娘の言葉に驚いた。


「変って、どういうことだ?」

「よくわかんないけど、スマホばっかり見てニヤニヤしてたり、急に外出したり。お父さんが仕事で遅い日、嬉しそうにしてる時があった」


透耶は胸が痛んだ。娘は気づいていたのだ。


「そうか。わかった」

「お父さん、何があったの?」


紬が心配そうに聞く。透耶は娘の頭を撫でた。


「大丈夫だ。お父さんが全部何とかするから」


そして運命の日がやってきた。土曜日、梢は朝から浮き足立っていた。


「じゃあ、行ってくるね」

「気をつけて」


透耶は妻を見送った。そして、すぐに動き出した。探偵に連絡を取り、妻と樫原の行動を追跡してもらう。同時に、透耶は別の準備を進めた。樫原巧の勤務先である広告代理店の人事部に、匿名で一通の封筒を送った。中には樫原と梢の不倫の証拠写真、メッセージのやり取り、そして二人がホテルに出入りする動画のURLが記載されていた。さらに、樫原の妻・弥生にも同じ内容の封筒を送った。全ての駒を動かし終えた透耶は、自宅で静かに待った。


夕方、梢が帰ってきた。いつもより化粧が濃く、どこか上機嫌だ。


「ただいま。髪、切りすぎちゃったかな?」

「いや、似合ってるよ」


透耶は笑顔で答えた。これが最後の優しさだった。その夜、透耶のスマホに探偵から連絡が入った。


「本日も例のホテルに二人で入る姿を確認しました。写真と動画、送ります」

「ありがとうございます」


透耶は全ての証拠を保存し、弁護士に転送した。そして月曜日。樫原巧の会社では、人事部に届いた封筒が大きな波紋を呼んでいた。広告代理店という業界の特性上、社員の不祥事は会社のイメージに直結する。特に管理職である営業部長の不倫スキャンダルは、クライアントとの関係にも影響を及ぼしかねない。人事部長は即座に社長に報告した。


「樫原部長に不倫疑惑です。証拠写真も複数あります」


社長は顔をしかめた。


「本人を呼べ」


樫原が人事部長室に呼ばれたのは、午後のことだった。


「樫原君、これは何だね」


テーブルに並べられた写真を見て、樫原の顔から血の気が引いた。


「こ、これは……」

「言い訳は結構。事実かどうか聞いている」

「……事実です」


樫原は観念した。


「君には失望した。営業部長としての職務を解く。来週から関連会社への出向を命じる」

「そ、そんな……」

「これ以上の処分を望むのかね?」


樫原は何も言えなかった。同じ頃、樫原の自宅では妻の弥生が届いた封筒を開けていた。中身を見た瞬間、弥生は膝から崩れ落ちた。


「嘘……」


写真には、夫が見知らぬ女性と親密に歩く姿、ホテルに入る姿が映っていた。メッセージのやり取りも生々しく、二人が長期間関係を続けていたことは明白だった。弥生は震える手でスマホを取り出し、弁護士事務所に電話をかけた。その夜、樫原が帰宅すると、弁護士を伴った妻が待っていた。


「あなた、説明してもらえる?これ」


弥生が封筒を突きつける。樫原は言葉を失った。


「離婚します。慰謝料もきっちり払ってもらいます」


弁護士が淡々と告げた。樫原の人生が、音を立てて崩れていった。そして水曜日の夜。透耶は梢に告げた。


「梢、話がある」

「何?」


リビングのソファに座る梢に、透耶は一枚の紙を差し出した。


「離婚届だ」


梢の目が見開かれた。


「え……何、急に」

「急じゃない。俺はもう全部知ってる」


透耶はタブレット端末を取り出し、画面を梢に見せた。そこには梢と樫原のメッセージのやり取り、写真、動画が全て保存されていた。梢の顔から血の気が引いていく。


「と、透耶……これは……」

「言い訳は聞きたくない。八年間、俺が家族のために働いている間、お前は別の男と楽しんでいた。しかも俺の金を使ってな」


透耶の声は恐ろしいほど冷静だった。


「違う、これは……」

「何が違う?証拠は全部ここにある。お前が俺の口座から勝手に移した三百万円の記録もな」


梢は言葉を失った。


「親権は俺が取る。子供たちももう決めている。慰謝料は五百万。勝手に移した金も全額返してもらう。それと、樫原にも慰謝料請求する」

「待って、透耶、お願い。謝るから、やり直させて」


梢が泣きながら縋りつく。だが透耶は冷たく彼女を振り払った。


「二十年間、俺はお前だけを愛してきた。小学校からずっと一緒だった。お前を守ることが俺の人生だった。でもお前は俺を裏切り、笑い者にしていた。『旦那、チョロい』ってな」


梢は言葉も出なかった。


「もう遅いんだよ、梢。お前が俺への愛情を捨てた時点で、全ては終わってたんだ」


透耶は立ち上がり、書斎へと向かった。後に残された梢は、床に座り込んだまま、声を上げて泣いた。だが、その涙に応える者は、もう誰もいなかった。

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