異世界人タチバナ
「ウ~ン。今日の天気は・・・雨。夕晴れる・・・。」
僕、タチバナは上司に伝える。
中務省の中は人もまばらだ。
しかも今日は日和が悪いので、多くの人が休んでいる。らしい。
『おいおい。それでOKって・・・。この世界の基準、甘過ぎじゃありませんかね~!』
僕は一人ツッコミをしてみる。
そう・・・。僕はこれよりもっと後、千年以上も後の時代からやってきた転移者なのだ。
『でも・・・。どうしてこんな事になったんだっけ?』
確か、僕は高校生で、図書館で本を読んでいたと思う。
タイトルは『君も陰陽師を目指さないか!』だった気がする。
これはマジで面白かった。思わず時がたつのも忘れて読みふけった。
しかし・・・。その後の記憶がない。
ただ・・・。本の中に大きな空洞が現れたのだけは覚えている。
「えっと・・・?」
そう・・・。気づいたときは、この世界に投げ出されていたのだ。
それから1年位だろうか・・・。
幸い、この時代の言葉、古語を勉強していたから、ある程度の読み書きは出来た。会話も問題なし。
しかも拾ってくれたのが、現神社の宮司様。
とても良い人で、路頭に迷っていた僕を拾って下さり、仕事まで斡旋してもらったのだ。
という訳で、現在に至る。
え?元の世界に帰りたいかって?
最初はそうだったけど、今はそうでもないかな?
確かにここは不便かもしれないけど、元の世界よりも自由なんだよな。
ただ、この世界でやりたい事は見つかっていないけど。
それが分かれば、こちらで暮らしてもいいかな?って思う。
ちなみに都合の良いチート能力・・・なんてものはない。
以上。
『まぁ陰陽師見習いとはいえ、仕事は天候の記載位なんだよな・・・。』
映画の陰陽師の様に式神を使役して、妖魔と戦うなんて訳はなく・・・。
そりゃ、後世の作り話だよなと思う。
『まぁこのまま残ってても仕方ない。僕も早々に退出しよう。』
とりあえず荷物を纏め、外に出る。
え?牛車とかないの?って。
大貴族でもないのにある訳ないっしょ!
と、脳内ツッコミをしながら家に向かって歩を進める。
しばらく大路を進んだ後・・・。
「何だアレは・・・。」
僕は固まってしまう。
「白い虎に乗った美少女?」
そう表現するしかない。
彼女の周りには、屍の数、累々?・・・ではなく。
「うぁぁぁぁ!化け物だぁぁぁぁ!」
「逃げろ!」
虎に投げられて転げまくっていたが、たちまち蜘蛛の巣を散らすように消えていくゴロツキの姿がある。
「・・・。フン。私に触れようなど百年早い!」
少女はその顔に似合わぬ、バリゾーゴンという言葉を吐きまくっている。
『・・・。ナンダ、アレハ・・・?』
僕の直感が激しくアラームを鳴らす。
『ヤバい!コイツは絶対ヤバい奴だ!』
そう判断するしかない。
しかし、帰るにしても回り道がない!
となれば、結論は一つ。
「うん。何もなかったように通り過ぎよう・・・。」
僕は極めてフツ~にその前を通り過ぎる。
そう・・・。関わらぬが一番、一番、と・・・。
チラ見すらせず・・・。
『よし!上手く言った!」
だが、そんな訳はなく・・・。
「おい!そこのお前!」
お前?私の事ではないな。先へ先へ。
「こら!無視するな。黒服の、荷物を持って歩いているそこのお前!」
不幸だ。周りに黒服の人はいない。
というか人の姿すらない。
「あのぅ・・・。なにか、御用でしょうか・・・。」
仕方なく、不本意だが・・・。
僕は出来るだけお役所スマイルで答える。
「ふむ。この辺りに櫻神社という場所がある筈だ。そこへ案内せよ。」
「はぁ・・・。何故?」
「そこは私を祀った神社と聞いた。私を祀るとは、中々見る目のある神社じゃ!暫く、私もそこに逗留させてもらおうと思ってな。」
彼女は僕の話は聞いていない。
しかし・・・。
「私を祀った神社・・・?」
この子は神?
まぁ変な虎連れてるし・・・。
でも待てよ、櫻神社って・・・。
「僕が住んでる場所じゃん!」
今更、気づいた。
「そうか。それならば都合がよい。私を速やかに案内せよ。」
再度、催促される。
しかし・・・。
「神・・・ねぇ?」
「ん?何じゃ、疑うのか?この国の者は我等の加護を受けている者ばかりだと言うに、何とも情けない奴等じゃ。そんな事じゃから、先程の様なうつけものが生まれるのじゃぞ。」
何という上から目線。
僕の元いた世界では絶対友達出来ねぇぞ!
まぁ顔だけは無駄に良さそうだが・・・。
正直、厄介ごとに巻き込まれたくはない・・・。
『しかし・・・。』
かなりの距離を開けて、野次馬が四方八方、事の推移をチラチラと眺めている。
はっきりいって、超恥ずかしい状況だ。
それにしても検非違使だったけ?
何故か一向に駆けつけてくる様子はないが・・・。
まさか・・・。遠目から見ているだけかい!
「あはは~。し、仕方ありませんねぇ~。神社までお連れします。トホホ・・・。」
結局・・・、僕は折れた。
「うむ。長生きしたな、下界人。もう少し返答が遅ければ、こやつの餌になってもらうところだったぞ!ハッハッハ!」
「はぁ・・・。そうですか・・・。」
高笑いする彼女を尻目に、僕はもう何も言い返す気力すらない。
『宮司様、何て言うかな?あまり御心痛はおかけしたくないのだけど・・・。』
僕は彼女と虎を伴い、櫻神社へ歩を進めながら、今日の事を思い出す。
『恐ろしきかな占い。確かに今日は碌な1日ではなかった。僕も神社で静かにしているべきだったな・・・。』
心の底から、そう思った。
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