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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第6話 共同出展での再会

 開場の時間になり、客が入ってくる。


 私達のブースにも、猫好きのお客さんがちらほらとやってきた。

 

「あの、この缶バッジのこの柄、気に入ったので、彼とペアでつけたいんだけど、同じ絵柄はないんですか?」

 

 お客でやってきた大学生くらいの男女のペアの女性が、缶バッジについて尋ねてきた。

 

「同じ絵柄はないんですよ、それ全部1枚1枚手描きしてるんですよ」

 

 接客していた珠樹くんが答えると、驚いたように、お客の女性が言った。

 

「じゃあ、これ全部一点モノなのね? こんな値段でいいの? お買い得ね。わかりました、じゃあ似た絵柄でこれとこれください。」

 

「はい、ありがとうございます。」と珠樹くんが軽やかに答えて、缶バッジが売れる。

 

 それを聞いていた側のお客さんが、缶バッジを物色し始める。

 

「いい感じですね、聡介さん」

 

「喜んでもらえるのが一番嬉しいね、描いたものとしては」

 

 などと話をする。缶バッジの作成はとりあえずお客さん達に受け入れられつつあるようで、少しほっとする。

 そうしているうちに、珠樹くんのアクセサリーのお客様もやってきて、私達の共同ブースはそれなりに賑やかな時間を過ごすことになった。

 

 

「ちょっとお手洗いに行ってくるから、しばらく頼むよ」

 

 そう言って私がトイレに向かった後のブースに、1人の女性がやって来る。その女性は、聡介の書いた絵を見て何か頷くと、珠樹に、話しかけた。

 

「すみません、これあなたが描かれてるの?」

 

 長い髪をポニーテールにまとめた、勝ち気そうなはっきりした顔の美人だった。彼女が歩いていれば多くの男性が振り返るだろう。苦手な女性の象徴のような相手に、少し気後れしながら珠樹は返事をする。

 

「いえ、僕じゃないです。僕はこちらのアクセサリーをやってて、共同出店してるもう1人がそちらの絵をやってるんですよ、今席を外してますけれど」

 

「そう、じゃああなたのアクセサリーひとつ戴きたいわね。ピアスに加工お願いして良いかしら?」

 

「はい、ありがとうございます。そこにお掛けください」

 

 そうして、珠樹はその女性と話を交えながら、ピアスの加工をするのだった。 

 

 

 トイレに行った私は、終了時間が近づき、なんとなく気だるい雰囲気の漂う会場内を、ゆっくりブースに戻って来る。珠樹くんはお客さんに加工中らしい。時間的にこれが最後のお客さんだな、などと思いながら、珠樹くんに声を掛ける。

 

「ただいま、留守番ありがとう」

 

 そう私が声を掛けると、珠樹くんの向かいの席から思いもかけない声が返ってくる。

 

「おかえり、やっぱり聡介だったのね」


 昔、散々聞き慣れた声に、ビクッとして、珠樹のお客を見る。

 

「友梨香か……」

 

「え?お知り合いだったんですか?」

 

 驚いて珠樹くんが尋ねる。

 

「ああ、美大の同級生だよ」

 

「はじめまして、香坂友梨香(こうさかゆりか)っていいます。聡介の彼女よ」

 

「おい、『元』が抜けてるだろ? 年単位で会ってない彼女がどこにいるか?」

 

 慌てて付け足す私を、面白そうに眺めながら友梨香が口を開く。

 

「あら、私、あなたから別れたいと聞いてないし、私も伝えてないわよ?まぁ、それはともかく、形はどうあれ、あなたがまた描いてること、嬉しいわ」


「一度は筆を置こうと思ったんだけどな、辞めれなかったよ。好きだからな、描くことが……」

 

 普段見ない私の様子と、友梨香の態度に呆気にとられながらも、ハッと気付いて珠樹くんも会話に混ざって来る。

 

「あの、聡介さんと共同出店してる、今居珠樹といいます。はじめまして」

 

「よろしくね。あ、ピアス、つづきお願いね」

 

「はい」

 

 作業に戻る珠樹くんだが、チラチラと私達2人を伺っている。


「言ったとおりになったわね、あなたが絵を描くのを辞めれるはずないって。でも私が何か言うと意固地になって絵筆から遠ざかって……ほんとによかった」

 

「あの頃はすまなかった。やけになってたんだな。今になればわかるよ」

 

「今は落ち着いたのね。あなたもちゃんと大人になったじゃない? それじゃあよりを戻す?」

 

 明らかに動揺した珠樹くんは細工する手を滑らせ、私も「なっ⁈」と変な声を出す。

 

「うふふ、冗談よ。私だって、あの頃とは違うんだから。それにしても、ふーん」

 

 ニヤニヤ笑いながら私と、珠樹くんの様子を見ている。こいつは本当に変わらないな面白そうと思ったらどんどん突っ込んで行く。

 

「さぁ、出来上がったぞ、開場時間もそろそろ終わりで、片付けに入るから、それもって帰ってくれ」と私が言うと、口をとがらせて言い返す。

 

「えー、冷たいなぁ。せっかく3年ぶりにあったんだし、一緒に飲みにでも行きましょうよ。あれ、それとも二人の間に私がいるとお邪魔かなぁ?」

 

「じゃ、邪魔なんかじゃないです!」


 何故か赤面しながら、珠樹くんが答える。


「じゃ決定。いいわね?聡介」

 

 言い出したら、絶対とまらない女だ。

 

 私は頭を抑えつつ、諦めて肯定するしかなかった。

 

「しょうがない、片付けするから、そこに座って待っててくれ」

 

 そう言って、二人で片付けを始める。なんだかんだで気の利く友梨香はさりげなく、二人の手伝いをしている。

 

「お手伝いありがとうございます。僕、事務所に撤収の連絡入れてきますね」

 

 そう言って、珠樹が去ると、友梨香は私の耳に顔を寄せてきて言った。

 

「ねぇ、こんな美人ふって、次は男の子に宗旨替えしたの?」

 

「な⁉」思わず言葉につまる。

 

「隠さなくていいわよ、どうみても付き合う寸前の空気よ、貴方たち。私の勘は間違いないんだから」

 

「そんなんじゃないさ、トモダチだよ」

 

「素直になってもいいんじゃない? あの子の方も絶対脈あるわよ? もちろん、私とやっぱりよりを戻したくなったって言うならそっちも歓迎するけどね」

 

「馬鹿なことを、今更……だろ」

 

「そうね……でも、私は貴方の絵が好きよ、今でもね。本気でやるならいつでも力貸すからね。」

 

 遠くから戻ってくる珠樹くんを見ると、すっと友梨香は距離をとる。本当に気の付き過ぎる女だよ、君は。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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