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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第5話 共同出店へ向かう朝

 あれから毎晩、珠樹くんの夢をみるようになった。共同出店を控えた夜もまた、私は珠樹くんの夢をみた。

      

 街を歩いていると、向こうに珠樹くんの後ろ姿があった。私は走って彼の元に向かう。

 

 すぐ目の前に、彼の背中がと思った瞬間、大きな男の影が近付いて来て、珠樹くんの肩を抱く。呼びかけようと珠樹くんの名前を呼ぼうとするが、何故か声が出ない。脚も何かに絡みつかれて動かない。


 そのまま彼は影の背中と一緒に立ち去っていく。

 

「たまきくん‼︎」ガバッと上半身を起こして、ベッドの上で呆然とする。

 

「夢か……」もう涼しい季節だというのに、べったりと寝汗をかいていた。


 そもそもが、男同士、それをおいたとしても30過ぎた自分がまだ若い彼に対して、アピールできるような何かを持っているわけでもない。

 

「ははは、馬鹿だよなぁ。ずっと恋なんかしてこなかったのに、よりにもよって……」

 

 本来起きる時間にはまだだいぶあるが、早朝にシャワーを浴びることにする。

 

 熱いシャワーを頭からかぶり、汗と一緒にこのどろどろとした想いも流してしまいたい。そう思いながら、全身の泡を洗い流しながら、流しきれない想いに心を囚われる。

 この時間だと流石に肌寒い、そう思いながら急いで身体を拭いて、頭にドライヤーの風をあてていた。。

 

 彼からは、相変わらず定期的に親しくメッセージが届く。秘密をカミングアウトできた、大事な友人。それが今の私のポジションなのだろう。

 

 私は彼の求める友人であろうとして、返事を送る。今私が持っている思いなど、ただの横恋慕だ。口にしていいものではない。

 

 改めて今日持って行く荷物を確認する。とはいえ、いつもの扇子と小さい額の絵、そして44個の缶バッジ。結局、あれから、やりきれない気持ちを抱え、それを誤魔化すかのように、毎日2枚づつ、バッジ用の絵を追加してしまった。使い方はそれほど難しくなかったので、使う許可を珠樹くんに得て、自分でバッジに加工した。

 

 すっかり夏が去り、秋の空気しかない朝の空の下に出る。早朝の冷たい空気が頭を覚醒させてくれる。待ち合わせは会場の最寄り駅、それなりに大きな街なので、そこの駅前で、お店を探して朝食を取る事にして、とりあえず出掛ける事にしたのだ。

 

 じっとしていると余計な事ばかり考えて落ち着かない。

 

 最寄り駅から、電車で目的の駅へ向かう。休日の朝なので、ゆったり空いた車内で、のんびり座って窓の外を眺めていると、ブブブとスマホのバイブ音がなる。

 

 ジャケットの内ポケットからスマホを取り出して確認する。

 

『珠樹からメッセージ』という通知の文字に、自然と心が躍る。

 

 すぐさま、通知をタップして、生体認証で画面ロックを解除すると、メッセージアプリが立ち上がる。

 

「今日は共同出店、どうかよろしくお願いします。ご一緒できるのを楽しみにしています。」と、そう綴られた文字が、彼の声で私の頭の中で再生された。

 

「『楽しみにしています』か……こっちもだよ」と、そうポツリと口にして、誰かに聞かれなかっただろうかと、おびえるように周りを見回して安堵する。

 

 そんな馬鹿な事をやってるうちに、目的の駅の案内放送が、車内に流れて、慌てて荷物をまとめて、車外へ降りた。

 

 駅前にチェーンの喫茶店を見つけて、モーニングセットを頼み、待ち合わせ場所が見える席に陣取った。

 

 腹ごしらえをして、待ち合わせ時間が来るのを待っていると、まだ時刻は待ち合わせの40分以上前だというのに、見慣れた顔が、窓外に見えた。

 

 私は慌ててまた荷物をまとめると、店の外へ出て、待ち合わせ場所に真っ直ぐ向かう。

 

「おはようございます、今日も早いんだね」

 

「おはようございます。先に着いてる人に早いと言われても、そちらこそと、言い返すしかないですね」 


 そう言ってニコリと笑う笑顔に、内心では心を揺さぶられるが、努めて冷静を装って、返事をする。

 

「ゆっくり外で朝ご飯が食べたくてさ」

 

「あれ、早くついたから、ゆっくりできずに急かしてしまいましたか?」

 

「大丈夫、もう全部食べてたから」

 

「それじゃあ、やっぱり早く来たのは聡介さんの方ですね」

 

「あれ?そうなるのか?」

 

 テンポのよい言葉の応酬が楽しい。何気ない会話に、心が癒やされ、刺々しくなっていた心が、穏やかになる。


 笑い合いながら、現地へ並んで歩いて向かう。一緒に歩くという事に自然と足取りが軽くなる。なんて自分は単純な人間なんだろう、そう思う。

 

 そうこうしているうちに会場にたどり着き、ほとんど一番のりな私達は、キビキビと準備を始めたのだった。。

 

 私が缶バッジを並べていると、珠樹くんが声をかけてくる。

 

「随分、増えましたね、そんなにあれから描いたんですね。どれも可愛いですね。僕、聡介さんの絵、大好きですよ」

 

 ドキンと心が跳ねる。絵だ、大好きなのは絵だからと心をなんとか落ち着かせて、返事をする。

 

「ありがとう。そう言ってもらえるのはとても嬉しいよ。絵は私の子供みたいなものだから、自分を褒められたのと同じくらい嬉しいんだ」

 

 客観的に見て、これを喜ぶのは絵描きとして当たり前だから、そう理由を心の中で作って、満面の笑顔で、彼にお礼を言う。

 

「僕が、聡介さんの絵の一番のファンですね、記念に最初の一個、買わせてもらっていいですか?」

 

「いろいろお世話になっているし、あげるよ?」

 

「ダメです、推しは、ちゃんと推したいので、ちゃんとお金、払わせてください」


「わかったよ、ありがとう」

 

 そう言って代金を受け取り、私側の金庫にしまった。

 

「でも嬉しいし、何かお礼はしたいと思ってるんだよ、何か欲しいものある?」

 

 そう尋ねると、彼は少し考え込んで、こう言った。

 

「あの、ずうずうしいお願いだとはわかってるんですけど、もしよかったら、ちゃんと一枚の私の絵を描いていただけませんか?こないだのクロッキーじゃなくて。もちろん代金はお支払いしますから。今の僕の姿を、聡介さんの絵で残してほしいと思うんです。」

 

「うーん、代金をもらってたらお礼にならないんじゃないかと思うんだけど……」そう言いながら私はいいことを思いつく。

 

「じゃあ、姿絵の依頼は受けるけど、それとは別に、私の作品として絵のモデルをお願いできないかな? モデル料の代わりに、姿絵を贈るよ」

 

「モデルなんてちゃんとできるかわからないですけれど、とても嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 そう言って私に笑顔を見せてくれる君。私はこれで、2枚の絵の下書きができあがるまで、君を独占して見つめていられる。そんな不純な思いでこんなことを言い出しているんだよ。そう心の中で懺悔していた。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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