表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/22

第4話 電話

「ご馳走様。とっても美味しかったです。」

 身体に似合わない健啖家の顔を、見せてくれた珠樹くんは、お腹をさすりながらそう言ってくれた。

 

「さて、この後ももうひと頑張りかな。とりあえず次回のイベント向けの30枚、頑張って描いてしまわないとだね。1枚15分くらいかかってるから、8時間くらいか、ちょうど1日の仕事分だね」

 

「とりあえず、今できている分、プレスして作ってみましょうか?」

 

 そう提案してくれる珠樹くんの案にのって、ひとまずここまでにできていた13枚を缶バッジにしてもらう事にした。

 

「ここにベースをおいて、描いた絵1枚をここに重ねて、更に透明なカバーをかけて……」彼がレバーをガチャッと押すと、私の絵が入ったメダルのようなものができる。

 

「さらに、これを台座にのせて……」と彼がもう一つのレバーをガチャッと押すと、無事猫の缶バッジのできあがりである。

 

 じゃあ、残りもやっていきますね。

 

 ガチャッ……ガチャッ……ガチャッ……。

 

「はい、できあがり。うわぁ、どれも可愛いですよ。全部違う絵なの、すごいですよ」

 

「普段は、かっこいいのが好きだけど、これは可愛いのが好きなの?」

 

 と何故か意地悪を言ってしまう。

 

「ええ、意地悪だなぁ……いいんですよ、猫なんだから、猫だけは可愛いが正義なんですよ」と、フンと鼻息を立てて大いばりで宣言する。こういうところがかっこいいじゃなくて、本人も可愛いんだよなぁ……などと思っていると。

 

「さぁさぁ、じゃあ午後の作業にとりかかりましょう。なんとか今日中に終わらせて、来週のイベント、一緒に頑張りましょう」

 

「ああ、わかったよ」

 

 そう言って丸い紙の前に座った私は、あっという間に、彼の事すら頭から消え、ただただ、愛猫の姿を描き続けるのでした。

 

「ふーっ。終わったぁ‼」

 

 大きな息を吐いて、終わった喜びを口にする私。

 

「僕の方も、終わりました。あとその最後1枚バッジにすれば準備終わりですね」

 

 ガチャッ……ガチャッ……

 

 最後の1枚が無事缶バッジに変わる。

 

「ありがとう、おかげて新しい絵がまた描けたよ」

 

「いいえ、僕の方こそありがとうございました。家じゃなかなか落ち着いて作業できないので、とても助かりました。」

 

「さて、少し遅くなってしまったし、駅前で夕飯でもご馳走しようか?」


「ああ、いいですねぇ……」

 

「プルルルルル」

 

 突然、珠樹くんの携帯が呼び出し音を鳴らした。

 

「あ、ごめんなさい、電話だ、ちょっと話してくるので、あちらの部屋を借りていいですか?」

 

「あ、それなら私が出ておくよ、話終わったら呼んで」と言うと、私は扉を閉めてリビングに出た。

 

 しばらくリビングで座って待っていると、ガチャリと扉があいて、珠樹くんが出てくる。

 

「あ、あのせっかく夕飯誘っていただいたんですけど、この後用事が出来てしまって、ごめんなさい聡介さん」

 

「いやいや、いいよ、家族とかかな?」

 

「……えっと。その……うん、ちゃんと話しておくべきだよね。あのこないだ彼女はいないって言ったんですけれど、今の電話、彼氏からなんです」

 

 そう珠樹くんが言った。『彼氏』というフレーズを一瞬、理解できずに、頭が混乱する。彼氏=男の恋人……。

 

「そうか、女性は苦手って言ってたけど、君は男性が好きなタイプの人なんだね」

 

 何故か、心の奥がズキンと痛んだ。それと同時に、嬉しいという感情も……その痛みは、嫉妬……そして、嬉しいという感情は、自分が彼の特別な好意の対象となる性別であるという事を理解した喜び……。

 

 そうか私は彼に恋をしていたのか、おそらくあの初めて会った日の帰り道の、華麗な動きに魅了されたその瞬間から。唐突にそれを理解した。   

「はい、黙っていてごめんなさい。もし気持ちが悪いとか思われるんでしたら、これっきりにしていただいてもかまいません」

 

「ちょっとびっくりはしたけど、大丈夫だよ。共同出店者として、改めてこれからもよろしくしたい、そう思ってるよ」と私は胸の痛みを押し殺して、彼に笑いかけた。

 

「あ、ありがとうございます。よかった……」と彼もそう言って笑いかけてくれた。

 

「とりあえず駅まで送ろう」

 

「あ、じゃあ、もしよかったら、あの機械こちらに置いておかせてもらっていいですか?荷物になるし、また今後もここで使わせてもらいたいし」

 

「ああ、構わないよ。どうせ場所はあるから」と返事をしながら、それが彼と私を今後も繋いでくれる細い糸のような気がして、また彼がここに来てくれるという約束のしるしのような気がして、心の奥に淀んだ喜びを感じていた。

 

 どちらからも話しかけることなく、朝と同じ道を二人で歩いて駅まで行った。

 

「聡介さん、今日はありがとうございました。それと、受け入れてくれてありがとうございます。」

 

「また、来週、一緒に。」

 

 そう言って、私は彼を見送った。

 彼が改札を越えて見えなくなっても、私の目には、彼の後ろ姿が、熾火のようにずっと見えている気がした。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


ブックマーク、評価、顔文字、感想、コメントなど反応いただければ、とても嬉しいです。

モチベーションアップの為に、よろしければ何かリアクションしていってくださるととても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ