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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第25話 魂のかたち

 あれから二年が経った。

 

 絵が表彰されて以来、聡介の務めるデザイン会社には、聡介を名指しした依頼が殺到する。聡介のこなせる仕事の量には限界があり、どうしても仕事を断る必要が出てくる。

 

 この断りは会社の名前で行われることになる。そのために発生した、会社の上層部からの悪印象や、他のデザイナーや会社の営業との軋轢を生み、結局聡介は会社を退職して、独立することになる。

 

 その時、友梨香の勧めもあり、会社をつくる事になった。

 

 株式会社アトリエ墨

 

 それが聡介のつくる会社の名前だった。そしてその代表取締役には、同じく会社を退職した珠樹が就任することになり、経理の知識を活かしていく事になる。

 

 株式の資本金は、聡介、珠樹、友梨香の三人で三分して出資することになり、友梨香は取締役兼営業として動くこととなる。

 

 対外的な事務所は、香坂画廊の一角を借りる事になり、客との打ち合わせなどはそこで行うが、基本的な二人の仕事場は、自宅のアトリエがそれに充てられていた。

 

 デザインでの仕事も順調に増え、ただし絵を描く時間も確保できるように、仕事量は友梨香がきちんと制限してくれている。

 

 画廊の方の仕事も大変そうだった友梨香であるが、先日婚約した藤堂さんが、今は支えてくれているらしい。

 

 そんな忙しい中のある日の休日、その日はどこにもいかず家で過ごしていた。

 

「うぅ、お腹痛い……」

 

 ソファに寝転んで毛布にくるまりながら、お腹を押さえている珠樹に、私は湯気の立ったマグカップを持って近づいていく。

 

「ホットココアを淹れたから、身体の中から温めて」

 

 そう言って、前のテーブルにマグカップを置く。

 

「ありがとう、聡介」

 

 と、最近はやっとさんがとれて、気軽に呼んでくれるようになった珠樹が返事をする。

 

「さて、いつもの月のものに効くツボのマッサージをしようか」

 

「いつもありがとう、それにしても毎月こんな酷い目になんで遭わなきゃいけないのかな、何度もとっちゃおうかと考えたりしてきたんだよね」


「それも一つの方法だと思うよ」

 

 と私はそう彼の言葉を肯定して、脚の生理痛を緩和するツボを押していく。

 

 しばらく、心地よさそうにしていた珠樹が、急に真顔にり、こちらに向いて声をかけてきた。

 

「あのね、聡介、僕、聡介との……赤ちゃんつくりたい。そうしたら、この毎月の苦しみにも意味があるんじゃないのかなって……」

 

「ばーか、そんな理由で子供欲しがったりするものじゃないよ、大変な想いを何ヶ月もするんだぞ?」


 そう、私が言うと、ブツブツと何か言ってる。

 

「はっきり聞こえないよ、話したいことはお互いなんでも話そうっていつも言ってるでしょ?」

 

 そう私が促すと、恥ずかしそうに彼は言った。

 

「大好きな人との子供が欲しいっていうのは、性別関係のない想いだよ。大変な思いをしたとしても、僕は、聡介との子供が欲しいよ」

 

「嫌でも、女である事を思い知らされる、十月十日(とつきとおか)になると思うよ、本当にそれでもやる?」


「うん、聡介の子供欲しい、聡介は僕との子供、欲しくない?」

 

「そりゃ、欲しいに決まってるけど、それよりも、珠樹が辛い想いをする方が私は嫌だよ」

 

「大丈夫、ちゃんと覚悟はしてる。だから僕は聡介の子供、産みたい」

 

「珠樹……」

 

「聡介……」


 二人は、見つめ合い、唇を重ねて、そして後日……いつもとは違う形で、愛し合う事となり、やがて……。

 

「ねぇ、見て、この線」

 

 妊娠検査薬をもってにこやかに微笑んだ珠樹がやってくる。

 

 私たちは、二人で産科に向かい、妊娠2ヶ月との診断を受けた。

 

 

 そして時が過ぎ、かなりお腹が大きくなった臨月に近い、珠樹が部屋で寝転がっている。

 

「なぁ、子供には何て呼ばせるつもり?」

 

「小さいうちは何もわからないんだし、他と一緒でママでいいよ」

 

「それでいいのか?」

 

「うん、あのね、聡介が僕の事をちゃんと理解して知っていてくれるから、聡介は僕の魂の(かたち)をちゃんと見ていてくれるから。僕はそれ以外の人からなんて呼ばれても、もう大丈夫だよ、産科の先生に奥さんって言われても、今はもう何とも思わなくなったんだよ、すごいでしょ?」

 

「ホントに?大丈夫なのか?それだとしたら、とてもすごいね」

 

「全部、聡介のおかげだよ。聡介が僕を強くしてくれた。捻れた僕の心を、ゆっくりとほどいて、ちゃんと真っ直ぐに僕の心を見てくれたんだよ。ありがとう、愛してる」

 

「珠樹……私も、愛してるよ」

 

「あ! 動いた、ああ、これ、お腹の中でしゃっくりしてるよ、聞いてみて」

 

 私は、珠樹の大きく膨らんだお腹に耳をあてて中の音を聞く。

 

 ひくっひくっと小さな振動と音が伝わってきた。

 

「頑張って動いてるね、こうやって肺を鍛えて、外に出たときの呼吸の練習をしてるって、本に書いてあったよ」

 

 私がそういうと、珠樹は言った。

 

「お腹の中の音、身体を通して聞こえてくるんだよ。自由に動けないし、食べたいものが食べられられなくなったり、大変なことも多かったけど、でも、後悔はぜんぜんしてない。はやくこの子に逢いたいな」

 

「私も早くこの子に逢いたいよ。パパとママなパパが待ってるから、元気に産まれて来いよ」

 

 私は珠樹のお腹に語りかけた。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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