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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第23話 二人の旅

 翌週は聡介の実家に行くわけだが、近場にある珠樹の家と違って、聡介の家は、電車で何時間も揺られて山間部まで行かないといけない。自動的に泊まりとなるため、土曜の朝早くに一緒に出発し、日曜の午後帰るという日程になった。

 

 相手の家を訪ねるという事で、珠樹も外泊の許可を問題なくもらうことができた。

 

 土曜日早朝、ターミナル駅で待ち合わせをした二人は、キャリーケースを押して、急行列車に乗る。飲み物と軽い食事も用意し、電車に揺られる旅である。

 

 珠樹も私も移動が長いということでスーツとかはやめて普段着で行くことにした。その事は既に実家に話はしてある。

 遠くから来るんだから、楽な格好でおいでと、そう母は電話で言っていた。

 

「二人で旅行行くみたいですね、ちょっと緊張もするけど、楽しいです」

 

「すごい田舎だから、何にもない所だよ。山があるだけだから」

 

「それでも聡介さんが生まれ育った街なんですよね?」

 

「そうだね、中学まではそこで暮らしてたね。高校は、美術科が近くにないので、都会に出て寮暮らしだった。だから人生の半分くらいかな、あそこで暮らしたのは」

 


 二人きりで電車で揺られる旅もやがて終わり、私たちは急行列車を降り、さらに普通電車で揺られ、山間の小さな街にたどり着く。

 

 駅を降りると、そこに五〇代の陽に焼けて健康的な女性が待っていた。

 

「聡介、あんたはもう急に来るとか言って、もう……あ、ごめんなさい、そちらが?」

 

「ああ、話してた婚約者」

 

「はじめまして、今居珠樹です、今日はよろしくお願いします」

 

「はじめまして、聡介の母の佳子(よしこ)です。何にもないところだけど、ゆっくりしていってね」

 

 挨拶も終わり、三人は母の乗ってきた大きなハイエースに乗り込み、移動し、郵便局の前で止まった。

 

「ちょっとこれから後ろの荷物、街のお得意様に送るから、聡介、下ろすの手伝って」

 

「あ、あの、ぼ……私も手伝います」

 

「お客様は乗ってまっててね」

 

「いえ、手伝わせてください。こう見えて力はあるんです」

 

「そう?じゃあお願いしようかな」

 

 三人で、荷物を下ろす。大きさの割には軽い、それもそのはず中に入ってるのは炭だ。

 

 聡介の家は、ここの里山で代々炭焼きをしているのだった。

 

 運び終わって車が戻る間に、珠樹が私の耳に顔を寄せてひそひそと話しかけてきた。

 

「あの荷物の送り先、うちの街にある老舗の高級料亭でしたよ。父に一度だけ連れて言ってもらったことがあります」

 

「母さん、顧客と直接の取引とか始めたんだ?」

 

「ええ、仲卸の業者さんも少なくなってね、間に入ってた業者が潰れた時に、向こうから調べて連絡をくれてね。あとは佳枝が色々宣伝とかやってくれたから、インターネットでも注文受けてるのよ」

 

 こんな田舎町にも時代の波は押し寄せているのだなぁと驚いた。

 


 しばらく車に揺られて山に近いさらに奥まった地域に、聡介の実家はある。

 

 家の前に、二〇代後半の二人の男女が立っていて、とまった車に近寄ってくる。

 

「お兄ちゃん、お帰り」

 

「ああ、ただいま、隆くんも久しぶり、紹介するよ、私の妹の佳枝(よしえ)と旦那さんで、父の弟子の(たかし)くん」

 

「こっちが、私の婚約者だ」

 

「はじめまして、今居珠樹です。よろしくお願いします」

 

「んーと、可愛いけど、男の子?女の子?」

 

 ぶしつけに妹が尋ねてくる。

 

「どっちでもいいだろ、兄ちゃんが好きで結婚したいと思った相手だよ」

 

 私はそう強く答える。

 

「お兄ちゃんらしいわねぇ、頑固なとこは父さんそっくり」

 

「聡介さん、僕からちゃんと話していいですか?」

 

「大丈夫か? 私から話しても……」

 

「玄関先で、いつまでも話してても何だから、みんな中にはいりましょう」

 

 そう母親に促されて、みんなで中に入った。

 

 客間に家族が集まる、父の聡瑠(さとる)も待っていた。

 あらためて全員の自己紹介が終わり、時間的にちょうど昼時でもあったので、お昼ご飯を食べて、食後にあらためて全員で話すことになった。

 

「……というわけで、僕は身体は女ですが、男として聡介さんとお付き合いさせてもらってます。こんな変な人間が、聡介さんを好きになってしまってごめんなさい。私の事を全て受け入れた上で、好きになってくれた聡介さんと僕は一生を供に生きたいと思ったんです」

 

「私は珠樹と結婚するよ。できればみんなにも祝福してもらいたいと思っている。隠して戸籍上女なんだから、普通に挨拶に来る事もできたけど。できれば、ちゃんと彼を知ってもらって祝福してほしかったんだ」


 私と珠樹が必死に家族に訴える。

 

「俺は難しい事はわからん、だが、珠樹さん、あんたが、聡介の事を思ってくれているのはわかった、ならそれでええよ、どうかこのお絵描き馬鹿を、よろしく頼むね」

 

 と、父がとてもシンプルな言葉で、受け入れてくれた。珠樹の肩の力が抜ける。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言うのが精一杯で珠樹は目頭を押さえた。

 

「令和だからねぇ、男同士だって問題ない時代だし、それに、珠樹さんとお兄ちゃんなら、籍も普通に入れられるわけだし、何も問題ないね」

 

 そう言って妹の佳枝が笑う。

 

「さて、お話も終わったし、お茶入れましょうか。聡介が持ってきてくれた土産のお菓子を食べましょう」


 と母さんが言うと、申し訳なさそうに父が話す。

  

「すまないが、俺はそろそろ炭窯を見に行かないといけないから、ゆっくりしていってね、珠樹……くんでいいのか?」

 

「はい、僕はくんでもさんでも、細かい事はもう気にしてないです。聡介さんがきちんと僕を見てくれてますから、あ、あの、後で見に行っていいですか?」

 

「炭窯かい? 都会から来た人には珍しいものかな。隆、おやつ終わったら戻ってくる時に、珠樹くん連れてきてやってくれ」

 

「はい、オヤジさん」

 

 そうして父は先に出ていった。

 

「隆くんが、親父の後継いでくれそうでよかったよ」

 

 と私が言うと、佳枝が言う。

 

「いい人捕まえた私に感謝しなさいよね」

 

「佳枝どの、ありがとうございます」と私がおどけて、頭を下げたところで、お茶が運ばれ、みんなでお土産を食べる。

 

「じゃ、お兄さんも行きましょうか?」

 

 そう言って、三人で炭窯に案内してもらう。

 

「これがうちの炭窯です」

 

「おお、来たんだな。何にもないけど、まぁみていってくれ。火を落とせないので、先に出てきてすまなかったね」

 

 大きな土で固められた炭窯がそこにあった。開口部からは、炎がちらちらと見え、宙にむかって煙りが立ち上っている。暦のうえでは春だとはいえまだ肌寒い季節に、ここいら一帯は、暑いと感じられる熱気が、窯から溢れ出ていた。

 

 背後には、里山の緑が悠々と広がっていて、山の高い所にはうっすら雪も残ってはいるが。麓はすこしづつ春の訪れを感じさせている。

 

「聡介さんはここで育ったんですね」

 

「ああ、ずっと火の番ばかりさせられてさ、暇だから、ずっと炎を描いてたなぁ」

 

「炭窯の火は一度つけたら、出来るまで絶やせんからな。隆も今はだいぶ任せられるようになったから、火入れと、窯出しは流石にまだ任せられんけどな、途中はもう大丈夫だ」

 

「そうか隆くん、凄いな」

 

「絵ばっかり描いてなんも覚えんかったお前とは大違いだぞ」

 

「子供の手伝いと、修業を一緒にしないでくれよ」

 

「義兄さんが、炭に興味なくてよかったですよ、もし跡継ぎになってたら、僕は、佳枝と出会えてなかったでしょうし」

 

「素敵なご夫婦ですね、僕もそんな風になれるかなぁ?」

 

 と首をかしげながらつぶやく珠樹に私は笑ってこう言った。

 

「私たちは、私たちなりの仲良しな家族になればいいさ。人と比べなくていい」

 

「そうですね、こんな自然と優しい人たちに囲まれてたから、聡介さんは優しいんですねきっと」

 

 そんな会話が、里山の静けさの中に、たゆたっていた。

 

  

 和やかな夕飯や、交代で入る薪のお風呂を楽しんだりと、色々あって、そして夜になった。

 

 聡介の部屋など、もうこの家にはないので、聡介と珠樹は、客間に布団を並べて敷かれて、それぞれ床に入った。

 

「ねぇ、聡介さん、そっちの布団に行っていい?」

 

「断る理由はどこにもないなぁ、おいで」

 

「よいっしょ……ふふふ、とってもいい家族だね。自分の家にいるより落ちつくや」

 

 そう言って、珠樹が私に抱きついてくる。

 

 私は彼をそっと抱きしめて、こう言った。

 

「今日はしらふのまま、一緒に眠れるね」

 

「はやく、毎日、こうなれるといいね」

 

 と、珠樹がいずれくる日々を語る。

 

「今日は、ここでするわけにもいけないけれど、せめてキスくらいはいいよな?」

 

 と私が問いかけると、

 

「その先を我慢できるなら、いいですよ」

 

 と、彼はそう言って唇を突き出してきた。

 

 その顔があまりにも可愛くて、私はそのまま、唇を寄せて……長い長いキスをした。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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