第20話 お見合い狂想曲
そして、お見合い当日となり、私と友梨香は、目立たないように、地味なスーツとワンピース姿でお見合いの会場となるホテルに来ていた。
少し離れた席から様子を伺う。
見合い相手らしい若くて精悍な、いかにもやり手のビジネスマンというスーツの似合う、……まぁ、いい男が、彼の向かいの席に座っている。
「ありゃ、こりゃイケメンねぇ、顔だけなら絶対負けるわね」
と友梨香がそう容赦のない台詞を突きつけてくる。
「まぁ、それよりもよ。珠樹くん、可愛い顔してるとは思ってたけど、化けたわねぇ。女装も似合う。ちょっと憂いを感じる表情が美少女っぷりを上げているわね」
今度は、彼に対するコメント。
今日の彼は、女装をしている、まぁ見合いなんだし、それはそうだろうと思う。こないだ嫌がっていた振り袖。かなりいいものなのだろうなという事は遠目からでもわかる。
短髪なのはどうしようもないので、花のかんざしで飾っている。これを見て男だと思う人間は、いないだろう。私以外には。
「あれは、憂いなんていいものじゃない、単に嫌な女の着物を着せられて、機嫌が悪いだけだよ」
「さすが、恋人の事はなんでもお見通し?」
「珠樹が、嫌な思いをしてるのが、辛いだけだよ」
と、私がいうと、友梨香はため息をつく。
「そうねぇ、しんどいよね、あの子。そうだ聡介、あんたさっさとプロポーズして、結婚しちゃいなさいよ?」
「は?」
突然のプロポーズという言葉に思考が一瞬停止する。
「ば、ばか、そんな簡単にいくかよ。お嬢様だしなぁ」
「あれには、かなわないにせよ、あんたも一応有名デザイン会社勤務だし、年も7歳差ならまぁ一般的に許容範囲じゃない?」
あれといいながら、スーツ男に視線を送った友梨香はそんな事を言う。
「ああ、あれが珠樹くんの言ってたオバさんかなぁ? 確かにおせっかいそうね、だいぶ話に割り込んでるし、珠樹くん、ほとんど話してないわね」
「それに比べると向こうのスーツ男はかなり話をして、自分を売り込んでいるわね、プレゼンがうまいという話だから、会話はお手のものなんでしょうね」
「おい、その情報どこから仕入れたんだ?」
「情報源は秘匿する義務がございまして」
「まぁ、危ない事とかしてなきゃ、何でもいいけどな」
と私たちがそんな話をしていると、スーツ男が、女装中の珠樹くんを、エスコートして外の中庭に向かった。
「これは、あれね、あとは若い者同士でってやつね。追いかけるわよ」
「おまえ、探偵とかも出来そうだなぁ」
と私は呆れながら、友梨香に言うのだった。
スーツ男と珠樹が、中庭を歩いている。スーツ男が前を歩いて、少し後をため息をつきながら、珠樹がついていっている。
男が、珠樹の耳元に近づいて何か囁いている。まさか、口説いているのか?
そう考えた瞬間に、私の足は勝手に動いていた。
「ちょ、ちょっと聡介、これ以上近づいたら見つかるって」
友梨香が小声で引き留めるが、私はそれを気にもとめなかった。
私は珠樹の手をとると、二人の間に割り込むように入って、スーツ男との間に立ち塞がる。
「そ、聡介さん、どうしてここに」
「ごめんね、どうしても気になって、気付いたら飛び出してた」
「もう、こなくて大丈夫って言ってたでしょ、それに、こんな格好してるとこ……聡介さんには見られたくなかったよ」
「格好なんて関係ないだろ、珠樹は珠樹なんだから、どんな格好をしてたって私の気持ちは変わらないさ」
「聡介さん……」
周りを完全に無視して見つめ合う二人。聡介を追いかけて傍まで来た友梨香はそれを見て、「あちゃー」と頭を抱えて俯く。
忘れられたように立っていたスーツの男が話しかけて来た。
「ええと……珠樹さん。察するところ、そちらは、恋人さんですよね?」
「あ、はい……ごめんなさい、そうなんです」
「先ほどは、耳元で、義理で参加されているのですよね、お互い付き合いは大変ですね、こちらからお断りを入れさせていただきますから、安心してくださいね、と言いましたけど。あらためて、そうさせてもらいますね」
「藤堂さん、こんな事になって本当にごめんなさい、こちらからも正式にお断りの返事させていただきますので」
と、そう丁寧に言う珠樹。
「わかりました、お互いにお断りをいれる事で、あとに響かないようにしましょう。私は、藤堂浩一と申します。よろしくお願いします。で、こちらのお嬢さんは?」
と、友梨香を見る。
「わ、私? 私はこの二人の保護者みたいなもので……」
と、答えに窮する友梨香、珍しいものを見たなと思った。
「墨田聡介といいます。突然、割り込んで、申し訳ありませんでした。つい夢中になってしまって」
「香坂友梨香よ。お邪魔してごめんなさいね」
すると藤堂さんは、私たちに向かってこう言った。
「聡介さんと、珠樹さんはお二人で帰られますか?」
私たちは顔を見合わすと二人でうなずく。
「実は、私、話が弾んだ時に備えて、この傍のお店を二人分で予約していまして、まぁ、最悪は二人前一人で食べればいいかと思って予約してたんですけれど、ただそれするとそのあとオーバーしたカロリー分ジムに行かないといけなくて、大変なんですよ」
「は、はぁ? それがどうか?」
私が聞き返すと、藤堂は友梨香の方を向いて言った。
「友梨香さん、よかったら、夕飯ご一緒しませんか? どうせなら美人と一緒の方が私も美味しく食べられますし」
突然、自分に話が来た友梨香は、一瞬固まったあと、ものすごい営業スマイルを浮かべて言った。
「お邪魔した責任もありますしね、美人と言われてお断りするのも何ですので、食事くらいなら付き合いますわ」
「ありがとうございます。それじゃあ、それぞれ解散しましょうか。私、とりあえず連れの者に話してきますから、十五分後に玄関ロビーで、待ち合わせしましょう」
そう言って、藤堂はホテルの館内へ向かって歩いていった。
「友梨香、なんかすまない」
と私が言うと、
「いいわよ、ひとつ貸しだから、まあ作品で返してくれればいいわよ。それに……イケメンとディナーも悪くないでしょ。少なくとも顔はいいんだし、中身もよかったらいいけどね」
と軽く返事をしてくれる友梨香に、私たち二人は、頭を下げてお礼を言った。
その後、珠樹は叔母さんに断りの話をして、そのあと着替えるから待っててと言われてロビーに座って私は彼の戻りを待つ。
「お待たせ、聡介さん」
すっかりいつもの男装に戻った私の彼が、そこにいた。
「やっぱり、珠樹にはそれが似合うね」
「ありがとう、ところで、お見合いをぶち壊しに来てくれたってことは……そういう事でいいんだよね? 僕、期待するよ?」
「ああ、そのつもりだよ。今日まで心配しどうしで、こんな思いするくらいなら、正面突破した方がましだな」
「まし、とかじゃいやだよ?」
「珠樹、私と結婚して、一緒に暮らしてほしい」
「はい、こんな僕を受け入れてくれて、ありがとう。僕も一緒に暮らしたいです」
なし崩し的ではあったが、こうして、私はプロポーズを済ませたのだった。
不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。
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