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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第19話 肖像の完成

 ピピピピ、ピピピピ。と電子音がなる。


 早朝まで愛し合った身体が気怠い。

 

 あくまでも初詣でそのまま朝まで遊んだていなので、それほどゆっくり過ごす事は出来ない。

 珠樹……彼は、午後は家で親戚が集まったり色々あるとのことで、無理やり眠い目を熱いシャワーで起こす。


 それでも朝から一緒に朝食を食べるというのは、私たちにはまだ特別なイベントだった。

 

 食事自体はコンビニで買ってきたもので手早く準備するが、せめてコーヒーくらいは温かいものを飲んでほしいと、豆から挽いてコーヒーを淹れる。


 砂糖つぼを渡し合う。そんな当たり前の日常的なやり取りが、幸せを感じさせる。その時の私たちには、それはまだ特別の非日常だったのだ。


 駅まで、また、二人で歩いて見送った。

 

「いつか、こんな風に帰らなくていいように、今朝みたいなことが毎日続けられたらいいですね」

 

「ああ、そうだね、私もそう思うよ」 

 

「じゃ、またです、聡介さん」

 

「またね、珠樹くん」

 

「あ、ひとつお願いがあるんですけど……」

 

 と口ごもりながら彼が言ってきた。

 

「いいよ。何でも言ってごらん?」

 

「昨夜、耳元で言ってくれたみたいに、『珠樹』って呼び捨てで呼んでほしいです」

 

「あ、ああ。わかった。またね、珠樹」

 

「はい!」

 

 とそう、まるで美しい花が咲いたような優しい満面の笑顔で、彼は返事をすると、改札の中に消えていった。

 

 彼を見送った後、一人で同じ道を帰っていく。


 歩きながら昨夜の彼を思い出す。彼は自分にない欲しかった、男の器官への執着が強くて、たくさん愛してくれた。

 そんな歪んだところも、今は愛おしいと思った。


 部屋に戻ると、既に眠気は完全に抜けていて、私はアトリエに向かった。

 今ならあの絵を完成させることが出来るような気がしたのだ。

 

 強さと凛々しさ、繊細さ、その最後に優しさ。私が見た彼の姿を、キャンバスに再現しようとした。

 気がつくと、既に夜遅くなっていて、「できた」と、私はつぶやいた。



 二日は寝正月で過ごそうと寝ていたら、彼から電話が来て、話しているうちに、友梨香も含めて夕食会と絵のお披露目をすることになっていた。


 おせち料理のおすそわけがあるとのことなので、私はせっかくだからと、お雑煮を仕込んだ。

 具材もだしも冷蔵庫の残り物で、作ったから、不思議な組み合わせになったけど、味見すると、味は悪くなかった。


 夕方になって、彼と友梨香がやってきた。

 

「さぁ、見せなさい」


 と開口一番に友梨香が言ったので、アトリエに二人を連れていって、完成した絵を見せる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人とも無言で、絵を見つめている。

 

「どうした二人とも、押し黙って」

 

 そう言われると、友梨香はいきなり私の首根っこを掴んで、思いっきり腕を振り、私の身体を強く揺さぶりながら叫んだ。

 

「やっぱり私の目は狂ってなかった。あんたはやれる男だと信じてたのよ!」

 

 私は頭を揺さぶられ気持ち悪くなって、慌てて腕を振り払って言った。

 

「いい加減にしろ、気持ち悪い」

 

「これは、素晴らしすぎて言葉がでないです。これが僕なんて……嘘みたい」

 

 と、彼が照れながら言う。

 

「間違いなく、珠樹くんよ、ただし聡介から見たね。惚れた力ってはすごいわ」

 

 と、友梨香がちゃかす。

 

「とりあえず今できる私の全部詰め込んだ絵だ、あとは友梨香に任すから、好きにしてくれ」    


「任せて、これだけの出来なら必ず世にだせるわ」

 

 と、力強く友梨香が言う。

 

「これだけのものを見たら、他のが欲しいって人出てくると思うから、今はまだ情熱はきだしたばっかだから、難しいだろうけど。また描きたくなったら、どんどん描いてね」

 

「わかった、そうするよ」

 

「珠樹くんは、聡介のミューズだったのかしらね? ま、女神に例えられても嬉しくないかもしれないけれど」

 

「聡介さんに力をあげられたっていう意味でおっしゃってくださってると思うので、素直に喜んでおきますよ、ありがとうございます。友梨香さん」

 

「私からしたら、二人ともミューズだよ、くれた力はそれぞれ違うけどね」

 

 と私がそう言うと、

 

「ばかね、私なんかより珠樹くんだけ見て、次の作品さっさと描き上げてくれた方が、私は嬉しいわ」

 

 とそんな憎まれ口を叩きながらも、笑顔の友梨香だった。

 

 とそんな和やかな時を過ごしていた時に、また、彼の電話の呼び出し音が鳴る。


 過去の電話の記憶から、まさかまた先生?


 とそんな風に警戒しつつ、彼の様子を伺っていた。

 

「はい、もしもし、あ、お母さん。珍しい何ですか? はい、はい、はいぃぃぃぃっ!」


 と突然、彼が変な声をあげる。

 

 どうしたんだろうかと、私と友梨香が見守っている。

 

「見合いって、何で急に…………うん、ああ、あのおばさんかぁ…………、うん、わかった、来月の日曜日ね。いい? 義理で付き合うだけだからね? うん、わかった」

 

  電話を切ると、彼はこう言った。

  

「見合いすることになっちゃいましたぁ」

 

「うん、聞いてたよ」

 

 親戚の仲人が大好きな、お節介な伯母さんから紹介されて、母親が断り切れなかったらしい。

 

「聡介さん、ごめんなさい、こんなことになってしまって」

 

「付き合いだもんな、仕方ないよ。いいから、行っておいで」

 

「そういうオバサンってホントに面倒よね、うちもよく話は持ち込まれるわ、全部断ってるけど」

 

「とりあえず今回は義理で行ってきますね」

 

 そんな話があった後に、三人でおせちの残りや、私のつくった雑煮で夕飯をとった。

 しかし、私にはほとんど味など感じられる余裕もなく、彼のことばかりを考えてしまっていた。

 

 彼が帰ったあと、その場ではやせ我慢して、いいよって言っていた私の本音は、心配な気持ちでいっぱいだったのだ。 


 彼とは、普通のメッセージのやりとりをしていたが、裏で友梨香から、様々な報告が届いていた。

 

 相手は、28歳で一流企業勤務のエリートだとか、3男で実家が太いとか、課内でも、将来を嘱望されている幹部候補だとか、社内の独身女性がみんな狙ってるだとか、珠樹くんに聞いた話だけではないであろう、どこで仕入れたのか謎な話まで、聞かせてくる。

 

 返事で、「こんなこと教えてどうしたいんだ?」って聞いてみると、「面白いから」と、ふざけた返事が返ってきた。

 

 そのうち最終的には、お見合いの場所、時間と、昼食をとる同じレストランに予約をとったから、一緒に行くわよという約束まで、気がついたらとりつけられてしまっていた。

 

「いざとなったら、邪魔しにとびこんじゃいなさいよ」

 

 と言う友梨香に、私は、

 

「ばかなこと言ってるんじゃないよ」

 

 とそう反論していた、この時は。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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