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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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第18話 初詣と初めての夜

 12月31日夜。私と珠樹くん、友梨香の三人は、近場の大きな神社の最寄り駅で待ち合わせをしていた。

 

 三人そろうと、近くの神社に向かって歩き出す。他に駅に降りた人たちも、同じ目的なのだろう、みんなが同じ方向に向かって歩いている。

 

 人の波の中を、私たちは、はぐれないように気をつけながら、並んで歩いて行った。

 

 友梨香は着物、私と珠樹くんは洋装だ。

 

「珠樹くん、紋付きとか着ないの?」

 

 と友梨香が尋ねる。

 

「着てみたいですけど、さすがにそれはボーイッシュでは済まないので、無理ですねぇ。家で和服で初詣するとか言うと、祖母に晴れ着とか着させられますよ」


 そう言って、眉間にしわをよせて、渋い顔をする珠樹くんに、私はつい笑顔になってしまい、「何、笑っているんですか?」と怒られてしまう。

 

「私は、君がしたい格好をしているのを見ていたいな。だから紋付きで並ぶのも悪くないと思う。今は無理でも、いつかは二人で男物着物を着て、初詣にこようね」

 

「はい、聡介さん」

 

 そんな会話をしながら神社への道を歩いていくと、だんだん人が増えていった。

 

「人が多いからはぐれないように、二人は手を繋いでおきなさいよ。私は別に一人で大丈夫だけどさ」

 

 そんな言い方をしながら、友梨香は、珠樹くんと近づきすぎず離れすぎず、いつも私たちに気を遣ってくれるのがわかる。私は珠樹くんの手をギュッと握りしめると、

 

「いつも、気を遣ってくれて、ありがとうな、友梨香」

 

 と、そうお礼を言った。

 

 一瞬、きょとんとして、すぐに取り繕うように強気で話しかけてくる。

 

「ふっふっふ、私のありがたみを感じて、賽銭は、神様の代わりに私にくれてもいいわよ」


「友梨香さんは、僕の縁結びの神様みたいなものですから、お礼にお賽銭、奮発してもいいかもしれないです」

 

 そう、珠樹くんが笑いながら言うと、

 

「じょ、冗談よ、さ、そろそろ年があけそうよ、境内の方行きましょう」

 

 ごまかしながら、友梨香は奥を指さして歩いて行く。私たちも遅れないように境内へ向かった。

 

 境内に向かう沿道には、屋台も出ていて、この地域で一番大きな神社だけに、人通りもかなり多かった。

 

 はぐれないように、手を握って歩いていると、時折怪訝そうな目で見てくる人間もいるが、気にしないことにした。

 

 人目を気にして、大切な人と手を握るのを諦めるなんて、あまりに馬鹿馬鹿しいとしか思えない。

 

 途中でたこ焼きを買って、三人でつつき合って食べる。

 

「あっつ」と私が悲鳴をあげると、

 

「大丈夫? 舌、火傷してない? 口の中みせて」

 

 と、顔をよせてくる珠樹くん。

 

「いよ、熱いよ、ご両人」と茶々を入れてくる友梨香。

 

 喧噪の中を笑い合いながら、歩を進める。

 

 

 歩いている途中で、周りの人達が立ち止まりカウントダウンをはじめる。

 

「30……20……10……3、2、1、0。あけましておめでとう!」

 

 あちらこちらで、おめでとうの言葉が交わされる。

 

「あけましておめでとう、今年もよろしく」


「あけましておめでとうございます。どうぞよろしくお願いします。」

 

「あけましておめでとう。今年は賞狙うわよ、賞。がんばって完成させてよ、あの絵」

 

 と三者三様のお祝いの言葉が言祝がれて、私たちは行列に押し流されながら、初詣の参拝に向かった。

 

 行列の中、賽銭を投げ、二礼二拍手一礼の神様への挨拶とお願いごとをして、広い場所に移動して落ち着いた。

 

「ねぇ、何お願いした?」

 

 と友梨香が尋ねる。

 

「僕は、聡介さんと仲良く過ごせますようにと、友梨香さんが素敵な恋人と出会えますように、ですね」

 

「あ、私も同じだな…………。」

 

「まったく後半は、余計なお世話よ、まぁ、わたしもそれと同じようなこと頼んだけどね。あと、聡介の絵が受賞しますようにもちゃんとね」

 

 そして、神社の喧噪から外れて駅に向かい、私たちは友梨香と別方向に分かれる。

 

「じゃあね、お二人さん、今夜はお楽しみだね? おやすみ」

 

「うるさいぞ、おやすみ」

 

「おやすみなさい。」

 

 私たちはおやすみを言って、友梨香と別れた。

 

 珠樹くんはこれから私の家に来て、朝まで一緒に過ごすことになっている。私は緊張しながら、揺れる電車のシートに背中を預けていた。


 ふと触れた珠樹くんの手がやはり震えていて、私はその手をそっと握る。

 

 彼も緊張していることがわかって、少し落ちついてきた。

 

 夜中の電車は空いていて、私たちはやがて私の家の最寄り駅にたどり着き、駅前のコンビニで、いろいろと食料や飲み物を仕入れて、私のマンションに向かう。

 

 ほの暗い夜の道を、私たちはしっかり手を繋いで、並んで歩いて行く。

 

 これからもずっとこうして歩いて行こうと思って。きっと彼も同じようなことを思ってくれている。そう信じられることが、嬉しかった。

 

「こうして一緒に歩いているの、夢みたいです」

 

 と、珠樹くんが話す。

 

「夢じゃないよ」

 

 と、私が返事を返す。

 

「会う度に、どんどん、聡介さんに惹かれていきました」

 

「初めて会った時から、君を好きになってた。その事を会うたびに気付かされてきたよ」


「こんな風に何の障害もなく、好きな人と歩ける日が来るなんて、一ヶ月前の僕に言っても、信じてくれないですよ」

 

「今の君が信じていればいいよ。愛してるよ、珠樹くん」


「僕も愛してます。聡介さん」


 LED街灯で出来た濃い二つの影が、近づき、重なってさらに深い黒になった。



 部屋に戻ってコートを脱ぐと、どちらともなく身体を寄せ合い、抱きしめ合った。

 

 私は珠樹くんの柔らかい唇に、自分の唇を重ねた。優しいキスはそのまま激しく求め合うように、熱いものに変わっていった。

 

 しばらくして、珠樹くんは抱き合い密着した身体に、視線を落とすとそっと身体を離して、愛おしそうに言った。

 

「もう我慢できなくなりそうですね。このままベッドに行きたいところですけど、きちんと準備するので、先にシャワー使わせてもらいますね?」

 

 一瞬、私は「準備?」ときょとんとしたが、その意味に気付いて赤面してしまう。

 

「ごめんなさい、男同士が愛し合うには準備が必要なので……」

 

 そして交代で、シャワーを浴びて、私たちは、深く深く愛し合い、身も心も繋がった。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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