第16話 二度目の告白と策士友梨香
「僕のために泣いてくれてありがとうございます。聡介さん、こんな僕だけど、男として愛してもらえますか?」
そう真っ直ぐに私の瞳を見つめながら、珠樹くんが聞いてくる。
「何度でも言うよ、男でも女でも構わない、私は珠樹くんという一人の人間が好きだから、君とずっと一緒にいたい、元々、私は鈍感で君のこと男としか思ってなかったし、男としての珠樹くんを好きになったんだから、これからも男としての珠樹くんを愛し続けるよ」
私も真っ直ぐな気持ちを彼に返した。
そして、私は、夕闇につつまれ、ちらちらと雪がふりはじめたクリスマスの公園で、手をひろげて、「おいで」って笑顔で彼に言った。
珠樹くんも、満面の笑みで手を広げると、「はい」って言って私に近づいてきて……。
そして、私たちは、抱きしめ合った。もう絶対に繋がった心を離さない、そうお互いに思い合って。二人の周りには、新しい恋人たちを祝福する紙吹雪のように、雪が舞っていた。
「おめでとう、お二人さん。これでアタシも本当にお婿さん探さないとね」
「友梨香さん、ありがとうございました。ずっと隠し事したまま、色々相談に乗ってもらって、本当に助かってました」
「いいってことよ。だけど、聡介の絵の独占契約権への協力の約束は譲れないからね?」
「そんな約束してたのかい?」
「はい、ごめんなさい。でも友梨香さんは、聡介さんの絵のお手伝いが出来る人だと思うから……」
「なに?聡介は不満なの?」
「いや、こんな私のこと、ずっと信じてくれてありがとう。きちんと契約書作ってくれ、不備がないなら、サインするから」
私はこれまでの感謝を込めてそう返事をした。
「後は、先生のこと、きっちりケリをつけないとね、後腐れがあっても面倒だし、ふふふ」
何だか友梨香が不穏な事を言い始める。
「珠樹くん、自分で何とかと思ってたと思うんだけど、その首と痕の事考えたら、聡介と一緒に話に行くべきだと思うわ」
「そうだね、私も心配だし、これからは私がきちんと寄り添いますからって、一緒に話しに行こう」
「私も気になるので近くで見ている事にするわ」
「お二人とも、僕のためにご迷惑かけてすみません。本来僕が何とかすべきことなのに……」
「いいのよ、友達でしょ? 私達、それに聡介はパートナーになるんでしょ? あと、まあこれは珠樹くんの気持ち次第だけど、二人なら法的には何の問題もなく籍も入れられちゃう訳じゃない? ニコイチで良いのよ」
「籍……? 結婚!」
意味に気づいた珠樹くんが、大声をあげる。
びっくりしている珠樹くんに、私と友梨香も笑顔になり、笑いながら歩く三人は、駐車場にたどり着いた。
友梨香が車を発進させ、私たち二人はシートベルトをする。
「とにかく、早いうちに先生にアポ取っちゃって、決着つけちゃいましょう。年末年始のお休み中が都合が良いわね」
とどんどん話を進めていく友梨香。
「あと、今夜は二人はどうするの? 聡介の家で泊まるならこのまま送ってくけど。でも、珠樹くん、帰らないとお家うるさいよね、きっと」
「あ、はい、そうですけど、何で友梨香さんがそんな事を?」
「〇〇の今居社長、うちのお得意様だもの。私、納品でお家お伺いした事あるのよ。で、このあいだ、家の近くまで送ったでしょ? 社長さん、よく娘自慢をしてたの。高校生の時、娘がピアノコンクールで優勝したことがあるとかさ」
「もしかして、ピアノの話振った時にはもう僕の素性もわかってて、誰かいない?って聞いてたんですか?」
「御名答! 今居珠樹、ピアノコンクールで検索したら受章履歴見つかったわ。〇〇女子高2年ってね」
「じゃあ、性別の事もとっくにご存知だったんですね」
「ちゃんとそのうち聡介にも話すだろうし私は黙ってようってね」
「ありがとうございます」
「私こそ、おかげで、コンサートもうまくいったわ、ありがとうね」
そう言って珠樹くんに深々と頭を下げた後、私の方を友梨香は向いて言った。
「聡介、あんた頑張りなさいよ。珠樹くん家では箱入り娘だからさ。さっさと連れ出して、男でいられる時間増やしてあげなさいよ」
「そうだね、私も珠樹くんと居られる時間が増えるのは嬉しいなぁ」
「二人とも、あんまり僕を驚かさないでください。幸せだなって思うことに慣れてないんです。あまり良い事とかあった記憶少ないので」
「これからは、私がずっと良いことを届け続けるから、覚悟してね」
「お幸せにね、お二人さん。さぁーって、私もイイ男探すかぁ。とりあえずコンサートの成功と二人の将来を、祝って今夜は飲みましょう。車、車庫に入れに行くからね」
そう言って友梨香は車を自分の車庫に戻して、三人で祝杯をあけに出かけた。
場所は最初に三人で飲んだ居酒屋の個室。
料理と酒を楽しむ三人……だったはずなのだが、いつもと趣が違う。友梨香の飲むペースが速い、最初に気付いたのは聡介だった。
「おい、友梨香ちょっと飲み過ぎじゃないのか?」
「なによぉ、めでたいんだから、いいじゃない……だいたい、聡介、あんたがはっきりしないから、あたしがいろいろ苦労してきたんじゃない、だいたいねぇ……」
聡介の耳元に顔をよせて珠樹がひそひそと話す。
「あの、聡介さん、友梨香さん、かなり悪酔いされてます?」
「ああ、こんな友梨香初めて見る」
「こら、そこ二人、付き合ったからってそんなくっついていちゃつかない!」
と、そう言って友梨香は、ふらっと立ち上がって、私達を指さして、こう言い放った。
「そうだ、あんた達、せっかくつきあったんだから、キスでもしなさいよ。それでこんどこそ、わたしが安心して次にいけるように、ふたりともわたしに感謝して、わたしを応援するのよ、わかったわね?」
そう言ってこちらをにらみつけてくる。
珠樹くんは酔っ払いになれてないのだろう、どうしていいかわからない顔でこちらを不安気に見てくる。
色々と諦めた私は、「色気なくてごめんな」と言うと、そのまま珠樹くんの唇を奪う。
最初は目を白黒させてた珠樹くんだったが、そのまま身体から力が抜け、私はその身体を抱きしめると、そのまま初めての長いキスを続けた。最初の出会いから、これまでの色んなことを思い出しながら、この人を大切にしたい、そう思いながら……。
「うわーん、よかったねぇ、あなたたち」
突然、友梨香の泣き声がして、私達は唇を離した。
「友梨香さん大丈夫ですか?」
「わーん、珠樹くんよかったねぇ」
いつもしっかりしている友梨香が完全に泣き上戸とかして、泣きながら珠樹くんに抱きついて、すすり泣く声がだんだん弱くなり、ついには泣き疲れたのか、寝落ちてしまった。
「こんな友梨香さん、はじめてみました」
「私も、はじめてだよ」
「友梨香さん、ごめんなさい。本当に聡介さんのこと、取ってしまいました。友梨香さんは聡介さんのこと、本当に大切に思っていらっしゃったのに」と珠樹くんが、寝落ちてしまった友梨香に謝っている。
「珠樹くんが謝ることじゃないさ、すまんな私が、なかなか絵に生きる覚悟を決められなくて。でも、そうなったらそれで、おまえは応援するだけで、一緒に生きるというよりは、結局ビジネスパートナーにしかなれなかったと思ってる」
私たちは、タクシーを呼んで友梨香を家まで送り届けて、そのあと、二人で夜道を歩いていた。過去にこうして一緒に歩いた時とは違う、本当に心の通じ合ったもの同士にしかない、時間が流れていた。
不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。
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