第15話 聖夜の告解
そしてクリスマスの日がやってきた。
お子様にはちょっと刺激が強いのではないだろうか? というサンタコスの友梨香と茶色い全身タイツに、角と赤鼻をつけた私が並び、受付をしている。
伴奏のため、今日は燕尾服の珠樹くんが、傍で見守っている。
友梨香は、子供の来場者にはお菓子をプレゼントし、通り過ぎる人にチラシを渡してチャリティへの協力を募る。
私は来場者の寄付の受け取りと、名簿記入の誘導などの、受付の仕事をしていた。
入っていく子供に鼻を引っ張られたり、角を触られたりしながら、忙しい時を過ごしていた。
そして、チャリティの賛美歌コーラスが始まる時間になる。
「ここは、私が見ておくから、聡介は珠樹くんの応援に中に行ってあげて」
と友梨香は言って、私を会場の中に送り出してくれた。
中に入って、お客の邪魔にならないように隅のスペースで伴奏のピアノに座っている珠樹くんを見つめる。
緊張した面持ちで、開演を待っていた珠樹くんがふらっと視線を客席に向けて、そして私の方を見た。
私と目が合った瞬間、花が咲いたような笑顔を浮かべて、私を見つめる。
私も、笑顔を返す。赤い鼻をつけた妖しいおじさんだけれど、珠樹くんは嬉しそうに、そして緊張が取れた顔をしていたように思えた。
美しいピアノの音色が館内に響き、子供達特有の高い声のコーラスが聞こえてくる。
小天使たちを導いていく、可愛い私の天使の弾くピアノの音色が館内を満たしていく。
最後に館内は、満場の拍手で埋め尽くされて、無事にチャリティコンサートは終了したのでした。
控え室で、私たち三人は、友梨香の友人、志麻さんからお礼を言われていた。腕のギブスと包帯が痛々しい。
「今居さん、今日は本当にありがとう、助かったわ。それに友梨香と聡介さんもありがとうね」
「珠樹くん、外から聞いてただけだけど、とても良かったわよ」
「ああ素晴らしかった」
「子供たちが頑張って歌ってるから、僕も頑張らなきゃって夢中でした。最後拍手をいっぱいもらえて、ホッとしました」
子供たちとも挨拶をして教会を出ると、三人で友梨香の車の止めてある駐車場に向かう為、近くの公園の中を歩いて行く。
「さて、今日はこのあとどうしよっか?」
友梨香が二人に問いかける。
私は珠樹くんに、ふと気になることを聞いてみた。
「クリスマスだし、珠樹くんは先生と約束したりしてないの? 恋人なんだし」
そう私が言うと、珠樹くんがなんとも言えない困ったような顔になり、友梨香も目をそらしている。
「聡介さん、落ち着いて聞いてくださいね。こないだみたいに、興奮しないでください」
と神妙な声で、珠樹くんが私に頼んでくる。
「ああ、わかったよ、落ち着いて聞くから、話してみて」と私は肯定するしかなかった。
「先生は……既婚者で、お子さんもいるので、クリスマスは毎年家族で過ごすんです」
「な!……そ、それは、いいのか?それで」と思わず叫びそうになった私は、先ほどの約束を思い出し、何とか声を抑えて、聞き返した。
「なんで、そんな男と付き合ってるんだい? 恩人って言ってたけど……」
「それは、僕の秘密に関わる話をしないといけません。本当は先生と話をしてけじめをつけてからと思ってたんですけど、あれから先生は僕に会う機会を避けているみたいで……これ以上、聡介さんに黙ってるのも、不誠実だと思いますので、今聞いてください」
そこで友梨香が話に割り込む。
「ねぇ、私しばらく席外しておこうか?」
「いえ、友梨香さんも聞いてください。薄々気づかれているような気もしています。それに友梨香さんも僕の大事な友達ですから、一緒に聞いてください」
「うん、わかった。私は後は黙って聞いてるから、気にしないで」
「よし、じゃあ、話してくれるかな」
と私は珠樹くんを促した。
「はい、あれは大学に入って3年目の頃です、私は心と身体のバランスがとれなくて、鬱になってました。先生は僕のゼミの担当でした。休みがちになって単位の心配があったことで、呼び出されて、その時心が弱っていた私は、自暴自棄になって先生に私の心と身体の秘密を打ち明けたんです。先生はその秘密ごと、私を受け入れてくれたんです。」
「うん、で、その秘密……聞いてもいいかな?」
と、そう私はいよいよ核心について聞く。
「はい、僕は男だとお話していましたけど、僕は生物学上、戸籍上は、女性なんです」
「え?」っと私は何を言っているのか混乱してしまう。
「そう、やっぱり」と友梨香はわかってたかのようにうんうんと頷いていた。
「トランスジェンダーと言いますが、僕は男の心を持って生まれてきました。でも身体は女でした。普通ならば、成人して、男性に性転換して、女性を好きになって……というのが普通……というのもおかしいですが、男の心をもって生まれた女性女性の身体をもつ人ならならそうなるはずです。」
そう言って珠樹くんは、私の反応を怯えるように伺いながら見ている。
「うん、ここまでは大丈夫だよ、さ、続きを聞かせてくれるかな?」
そう私は、安心させるように無理して微笑んで言った。
「でも、僕はどうしても自分の女の身体が気持ち悪くて、嫌悪してしまって。それに僕は高校を女子校に通わされてまして、そこで見た女性だけの集団で見せる女性の姿、そして自分の身体に始まった女性の徴、生理を受け入れられなくて、どんどん女嫌いになってしまい、何故か僕は数少ない男の先生や、テレビでみる男優さんに恋心をいだくようになってしまっていました」
呆気にとられていて、なかなか頭に入ってこない、私は彼の言葉を反芻して、なんとか納得して、そして彼の方を見て、続きを促すようにうなずいた。
「男が好きな僕が性転換したところで、男が好きな男性に受け入れてもらうことなんかできないだろう、そんな絶望感を抱いた僕は、大学の3年生の頃には、ほんとにおかしくなってしまっていたんです」
珠樹くんは、悲しそうに当時を思い出しつつ、ゆっくり話を続けました。
「先生は、僕のそのことを知って、自分が男として、僕のことを愛してくれるって言ってくれたんです。どん底の気持ちでおかしくなっていた当時の僕には、先生の言葉は福音でした。先生に僕は依存して、先生を愛していました。たとえ愛人という形だとしても……」
「だが、それは……それじゃあ、珠樹くんが、寂しすぎるよ」
私は怒りの感情を約束したことで、何とか抑えきったが、悲しさは、抑えきることができず、ボロボロと涙がこぼれてきて、止まらなくなってしまった。
不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。
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