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私の捻れた彼氏  作者: 國村城太郎


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13/22

第13話 ピアノとサンタとトナカイ

 そして、翌日の日曜日。聡介の家には、二人してやってきた珠樹と友梨香の姿があった。

 

「そういや、絵はできたの?」

 

「ん、大体はな。でも、多分、あれはまだ完成じゃない」

 

「そっか、あんたがそう言うなら、そうなんでしょうね。でも、二人をこれだけ心配させたんだから、見せなさいよ。アトリエよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「珠樹くん、運ぶの手伝ってくれる?」

 

「あ、はい」

 

 二人はアトリエに入っていき、イーゼルごと、絵をリビングに運んできた。

 

「うわぁ……すごい、僕こんなにかっこよく描いてもらって、すごい嬉しいです」

 

「うん、珠樹くんの力強さ、凛々しさがしっかり描けていると思うわ。でも、これでもまだ満足してないのね?」

 

「ああ、まだ、表現仕切れていない。珠樹くんの魅力は『強さ』と『凛々しさ』だけじゃない。これだけじゃまだ、表面的な強さしか表現しきれてない」

 

「あんたのその感覚、信じてるわ。ちゃんと出来たって思うまでしっかりやりなさい。でも、もう倒れるのは勘弁してよ」


 そう言いながら、微笑む友梨香。

 

「これで完成でないって僕にはわからないですけど、もうこんな心配かけるのはやめてくださいね」

 

 そう言って、口をとがらせる珠樹くん。

 

「二人とも、心配かけてごめん、あらためて、いろいろ世話になって、ありがとう」


 私は、二人にあらためて頭を下げた。

 

「さて、じゃあ、私はそろそろ用事すませに出掛けるわ。あとはお二人でしっぽりとやってね」

 

 そういって笑いながら出掛けていく友梨香。

 

「友梨香さん、しっぽりってそんな」

 

 と、顔を赤くして俯く珠樹くん。

 

「さっさといけ」

 

 と手をひらひらさせて追い出す私。三人の友達としてのよい空間があるのを、心地よく思っていた。

 

 午後は、珠樹くんと二人きりになった。もうほとんど回復したので、お昼は外に食べに行かないかという申し出は、まだ病み上がりだからという理由で却下されてしまい、さりとて、料理はできない珠樹くんでは、消去法で、出前を頼んでのランチタイムとなった。


 出前の料理を食べ終わって、珠樹くんがゴミの処理をしたり、昨日の洗濯物を浴室乾燥から取り出したりしている間、聡介はリビングのソファで何気なくテレビを見ている。


 

 用事が終わって珠樹が戻ってきて、おずおずとソファの離れたところにそっと腰をかけると、聡介は何気なく言う。

 

「そんな端っこじゃなくて、隣おいでよ、見づらいでしょ?」

 

 そういって、自らの隣を指出す。

 無自覚に距離感が近い聡介に、珠樹は緊張しながら隣に座る。

 しかし一緒にテレビを見ながら話をしているうちに、だんだん慣れて、素直に話せるようになっていく。

 

 そのうち、二人はソファでもたれあって、眠ってしまっていた。

 

 ピンポーンとインターホンが鳴るが、ぐっすりと眠ってた二人は気づかず、合鍵で部屋に戻ってきた友梨香は、仲良く眠ってる二人を発見して、ふぅっと大きく息を吐いて言った。

 

「まったく、仲よさそうに抱き合って寝ちゃってるわねぇ。あんたたち、さっさと付き合っちゃいなさいよ、もう」

 

 そう言う友梨香の瞳は、もの悲しさを抱えつつ、表情自体は、せいせいしたような、さっぱりした顔をしていた。


 そして友梨香は二人の肩を揺さぶる。

 

「はいはい、ふたりとも起きて」

 

「ん?おはよう」


「あれ?僕どうして」

 

「はいはい、二人とも仲いいのはわかったから、ちゃんと起きて」

 

 友梨香に指摘されて、二人で抱き合うように眠っていたのに気付いて、ばっと二人ともソファーの反対側に離れる。

 

「ごめんなさい、僕寝ちゃってて」

 

「いや、こちらこそ、完全に寝落ちてた」

 

 二人で頭を下げ合う。

 

「はいはい、もういいから。それより、ちょっと聞きたいんだけど、珠樹くん知り合いにピアノ得意な人っていない?」

 

 友梨香の話はこうであった。友梨香の友人が毎年教会で子供達とチャリティのコーラスコンサートの伴奏をしているんだが、腕を折ってしまい、出ることができなくなって代わりを探しているというのだ。


「ピアノですか?…………い、一応、僕できます。子供の時からずっと習ってたので」

 

「友梨香さんの頼みなら、僕やります。ちょっと練習がいると思いますが、一応家で練習はできますので」

 

「へー、家にピアノなんかあるんだ、すごいな」

 

 と感心して聡介はさらに言葉をつなげる。

 

「そうだ、珠樹くんのその手は、拳法のような力強さだけじゃなくて、創作をしたり、ピアノを引いたり、そんな繊細な手なんだよ。あの絵に足りないのはその視点かもしれないな」


「あら、完成させるためのインスピレーションがあったのかしら?」


 そう、友梨香が聡介に尋ねる。

 

「そうだね、じゃあどう表現するんだという課題は残ってるけど、一歩近づいたかな」

 

 そう言って、微笑むと、今度は珠樹くんの方を向いて言った。

 

「それにしても、子供の時からピアノ習ってたって、誰か身内にピアノしてる人とかいたたの? 女の子ならピアノの習い事とかよくきくけど」

 

 聞かれた珠樹は、困った様子で答える。

 

「いえ、特にそう言うわけじゃないですけど、何か見てやりたいって思ったんでしょうかね? 昔すぎてはっきり覚えてないんですけど……」とそう言って頭をかく。

 

「そんな小さい頃からやってるんだ、凄いね」とまた感心する聡介だが、そこに友梨香が割り込んで話し始める。

  

「感心してる場合じゃないわよ、ちゃんと聡介にも役割があるわよ」

 

 そうニヤニヤしながら友梨香がこちらを見ている。

 

「なんだ?まさか、サンタでもやらせようってか?」


「惜しい!でもサンタは私がやるの、聡介はトナカイね、全身タイツきて、角と赤い鼻つけてね」

 

「おい?」

 

「あはは、赤い鼻つけた聡介さん……あははは……」と珠樹くんは笑いの坪に入ったのか、想像して笑いが止まらなくなる。

 

 そんな珠樹くんにつられて、二人も笑いはじめ、結局全員で笑ってしまった。

 

 倒れたり大変なことをしてしまったけど、この週末で3人がしっかり打ち解けられて、友達として関係が深まった。そう思うと、倒れた事も悪くなかったんじゃないかな?

 などと無責任なことを聡介は考えていた。


『まぁ、話したら怒られるから、絶対言わないけど』

 

 と心の中で呟いていた。


不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。


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