第13話 ピアノとサンタとトナカイ
そして、翌日の日曜日。聡介の家には、二人してやってきた珠樹と友梨香の姿があった。
「そういや、絵はできたの?」
「ん、大体はな。でも、多分、あれはまだ完成じゃない」
「そっか、あんたがそう言うなら、そうなんでしょうね。でも、二人をこれだけ心配させたんだから、見せなさいよ。アトリエよね?」
「ああ、そうだ」
「珠樹くん、運ぶの手伝ってくれる?」
「あ、はい」
二人はアトリエに入っていき、イーゼルごと、絵をリビングに運んできた。
「うわぁ……すごい、僕こんなにかっこよく描いてもらって、すごい嬉しいです」
「うん、珠樹くんの力強さ、凛々しさがしっかり描けていると思うわ。でも、これでもまだ満足してないのね?」
「ああ、まだ、表現仕切れていない。珠樹くんの魅力は『強さ』と『凛々しさ』だけじゃない。これだけじゃまだ、表面的な強さしか表現しきれてない」
「あんたのその感覚、信じてるわ。ちゃんと出来たって思うまでしっかりやりなさい。でも、もう倒れるのは勘弁してよ」
そう言いながら、微笑む友梨香。
「これで完成でないって僕にはわからないですけど、もうこんな心配かけるのはやめてくださいね」
そう言って、口をとがらせる珠樹くん。
「二人とも、心配かけてごめん、あらためて、いろいろ世話になって、ありがとう」
私は、二人にあらためて頭を下げた。
「さて、じゃあ、私はそろそろ用事すませに出掛けるわ。あとはお二人でしっぽりとやってね」
そういって笑いながら出掛けていく友梨香。
「友梨香さん、しっぽりってそんな」
と、顔を赤くして俯く珠樹くん。
「さっさといけ」
と手をひらひらさせて追い出す私。三人の友達としてのよい空間があるのを、心地よく思っていた。
午後は、珠樹くんと二人きりになった。もうほとんど回復したので、お昼は外に食べに行かないかという申し出は、まだ病み上がりだからという理由で却下されてしまい、さりとて、料理はできない珠樹くんでは、消去法で、出前を頼んでのランチタイムとなった。
出前の料理を食べ終わって、珠樹くんがゴミの処理をしたり、昨日の洗濯物を浴室乾燥から取り出したりしている間、聡介はリビングのソファで何気なくテレビを見ている。
用事が終わって珠樹が戻ってきて、おずおずとソファの離れたところにそっと腰をかけると、聡介は何気なく言う。
「そんな端っこじゃなくて、隣おいでよ、見づらいでしょ?」
そういって、自らの隣を指出す。
無自覚に距離感が近い聡介に、珠樹は緊張しながら隣に座る。
しかし一緒にテレビを見ながら話をしているうちに、だんだん慣れて、素直に話せるようになっていく。
そのうち、二人はソファでもたれあって、眠ってしまっていた。
ピンポーンとインターホンが鳴るが、ぐっすりと眠ってた二人は気づかず、合鍵で部屋に戻ってきた友梨香は、仲良く眠ってる二人を発見して、ふぅっと大きく息を吐いて言った。
「まったく、仲よさそうに抱き合って寝ちゃってるわねぇ。あんたたち、さっさと付き合っちゃいなさいよ、もう」
そう言う友梨香の瞳は、もの悲しさを抱えつつ、表情自体は、せいせいしたような、さっぱりした顔をしていた。
そして友梨香は二人の肩を揺さぶる。
「はいはい、ふたりとも起きて」
「ん?おはよう」
「あれ?僕どうして」
「はいはい、二人とも仲いいのはわかったから、ちゃんと起きて」
友梨香に指摘されて、二人で抱き合うように眠っていたのに気付いて、ばっと二人ともソファーの反対側に離れる。
「ごめんなさい、僕寝ちゃってて」
「いや、こちらこそ、完全に寝落ちてた」
二人で頭を下げ合う。
「はいはい、もういいから。それより、ちょっと聞きたいんだけど、珠樹くん知り合いにピアノ得意な人っていない?」
友梨香の話はこうであった。友梨香の友人が毎年教会で子供達とチャリティのコーラスコンサートの伴奏をしているんだが、腕を折ってしまい、出ることができなくなって代わりを探しているというのだ。
「ピアノですか?…………い、一応、僕できます。子供の時からずっと習ってたので」
「友梨香さんの頼みなら、僕やります。ちょっと練習がいると思いますが、一応家で練習はできますので」
「へー、家にピアノなんかあるんだ、すごいな」
と感心して聡介はさらに言葉をつなげる。
「そうだ、珠樹くんのその手は、拳法のような力強さだけじゃなくて、創作をしたり、ピアノを引いたり、そんな繊細な手なんだよ。あの絵に足りないのはその視点かもしれないな」
「あら、完成させるためのインスピレーションがあったのかしら?」
そう、友梨香が聡介に尋ねる。
「そうだね、じゃあどう表現するんだという課題は残ってるけど、一歩近づいたかな」
そう言って、微笑むと、今度は珠樹くんの方を向いて言った。
「それにしても、子供の時からピアノ習ってたって、誰か身内にピアノしてる人とかいたたの? 女の子ならピアノの習い事とかよくきくけど」
聞かれた珠樹は、困った様子で答える。
「いえ、特にそう言うわけじゃないですけど、何か見てやりたいって思ったんでしょうかね? 昔すぎてはっきり覚えてないんですけど……」とそう言って頭をかく。
「そんな小さい頃からやってるんだ、凄いね」とまた感心する聡介だが、そこに友梨香が割り込んで話し始める。
「感心してる場合じゃないわよ、ちゃんと聡介にも役割があるわよ」
そうニヤニヤしながら友梨香がこちらを見ている。
「なんだ?まさか、サンタでもやらせようってか?」
「惜しい!でもサンタは私がやるの、聡介はトナカイね、全身タイツきて、角と赤い鼻つけてね」
「おい?」
「あはは、赤い鼻つけた聡介さん……あははは……」と珠樹くんは笑いの坪に入ったのか、想像して笑いが止まらなくなる。
そんな珠樹くんにつられて、二人も笑いはじめ、結局全員で笑ってしまった。
倒れたり大変なことをしてしまったけど、この週末で3人がしっかり打ち解けられて、友達として関係が深まった。そう思うと、倒れた事も悪くなかったんじゃないかな?
などと無責任なことを聡介は考えていた。
『まぁ、話したら怒られるから、絶対言わないけど』
と心の中で呟いていた。
不定期連載となりますが、完結までお付き合いください。
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