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変わらない日々

――――――きっと、変わることはないと思っていた。

勉強して、いい大学に入って、就職して、お金を稼いで……

そんな予測可能な未来が、僕にはつまらなく思えた。

いつか、心が躍る出来事が起きたらいいのに。

きっと、そう思いながら僕は生き続けるのだろう。 

なんて思っていた高3の春の話




「おまえら、軽く自己紹介してもらうぞ。って言っても大体の奴は顔見知りか。まあいい、今日は転校生が来ているんだ。入っていいぞ」


みんながそわそわしてきた。転校生が来るなんて話、だれも聞いていないからだ。みんな、どんな人が来るのだろうとわくわくしていた。


「!?」


扉を開けて入ってきたのは、とても綺麗な女の人だった。

白く長い髪がさらさらとゆれて、光に当たって輝いている。透き通った肌に金色の瞳。それはまるで……


「天使だ……」


クラスのみんながそう思った。


「初めまして。私の名前はハルです。つい先日この町に引っ越してきました。仲良くしてくれると嬉しいです」


ハルの席は一番後ろの窓際になった。

朝のHRが終わると、みんな一斉に彼女のもとへ行った。はじめは彼女も戸惑っていたようだったが、次第にみんなと打ち解けていった。


「なあヒスイ、あの子まじで天使だと思わねえ?綺麗だし所作も丁寧で。あれは、ファンクラブできちまうかもな」


友達のリョウが話しかけてきた。

たしかに、みんな彼女に夢中だ。きっと、この学園一の美女だろう。


そんなふうに始まった、高3の新学期。なんだか、心が躍った。




放課後、人の気配が少なくなった校舎。

進路面談を終えた僕は、将来のことで悩んでいた。このまま大学に進学して、就職するんだろうけど、本当に僕のやりたいことって何だろう。


「こんな時は、屋上にでも行こうかな」


この学園は、屋上への立ち入りが禁止されているが、僕はときどき人の目を盗んで屋上に行っている。


「本当に、屋上のカギが壊れててよかったよ」


今日も空を眺めて、ぼーっとしよう。そう思って扉を開けると、僕は信じられないものを見た。


「……てっ……天使だ」


目の前では、大きな翼を持った人が、屋上の柵の上に立っていた。

白く長い髪が風になびいてとても美しい。でも、その人はうちの学園の制服を着ていた。


「ハル……?」


彼女はこちらを振り返った。目が合うと、彼女の金色の瞳に吸い込まれそうだった。


「なぜここに人が!」


彼女は慌てていたが、しばらくすると僕に向き合った。


「見てわかると思うけど、私は天使なの。でも、このことは誰にも言わないでちょうだい」


僕は信じられなかった。まさかこの世界にそのような生き物が存在するなんて!

とても興奮した。これから、何かが始まりそうな予感がする。


僕はしばらく彼女と話した。天使が目の前にいるなんて驚きで、たくさん質問をしてしまったけれど。

正確に言うと、彼女は人間と天使のハーフらしい。母が人間で、父が天使なのだそうだ。訳あってこの町に来たそうだけれど、理由までは教えてくれなかった。


あまりたくさんは話せなかったけれど、太陽が沈んだので、そろそろ帰ることになった。別れ際、彼女は念押しをしてきた。


「私のこと、絶対誰にも言わないでね!!」


僕は約束して別れた。

なんだか夢にいるような感覚でとても面白い。明日からの学校が、少しだけ、いや、結構楽しみになった。



こんな風に始まった高校生活最後の年。

まさか、さらに信じられないことが起こるなんて、天使のことで頭がいっぱいだったこの時の僕はまだ夢にも思っていなかった。

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