7:拾われた先で2
「昨日の夜から、父さんと母さんが君の家族を探してくれてる。だから、家族が見つかるまでは、ここにいればいいよ」
「……うん。ありがとう」
本当は捨てられたなんて、言えなかった。
それに、心のどこかでまだ、「気が変わった両親が、自分を迎えに来てくれるかもしれない」と、期待している。
(おうちに、かえりたい……)
ぐすぐすと嗚咽がこみ上げてきて、目の前の景色がにじんだ。
泣き出したリロを見て、ロバートが慌てている。
すると、部屋に新たな人物が入ってきた。
黒髪に黒い瞳、黒い耳に黒い尻尾の、ほっそりした綺麗な女性だ。
彼女は、ベッドの上で涙を流すリロに優しく話しかける。
「あらあら、目が覚めたのね。泣いちゃったの?」
「母さん!」
助けを求めるように、ロバートが女性に駆け寄る。彼女は彼の母親らしい。
「あのさ、この子、ハシノ村っていうところから来たんだって」
「ハシノ村? たしか、森のすぐ向こう側にある、人間の村だわ。あなた、お名前は?」
「……リロ」
「そう、リロというのね。気分はどう? 体は痛くない?」
問われたリロはこくりと頷く。この女性もリロを傷つける相手ではないようだ。
「薬が効いてよかったわ」
ロバートの母親がそう言ったのと同時に、また別の人物が部屋に入ってきた。
おっとりと歩くその男性は、ロバートと同じ髪と目、耳と尻尾の色をしている。
きっと彼の父親だろう。
「おお、場所がわかったのか。ハシノ村なら、人口も少ないはずだ。すぐに、その子の身元がわかると思うよ。まあとにかく、意識が戻ってよかった。怪我も全部、薬で消えたみたいだしなぁ」
にっこり微笑んだ男性が、お盆に載った食事をベッドの傍のテーブルに置く。
「それじゃ、僕は、その子とハシノ村について、知らせてくるよ」
彼の言葉に、ロバートの母親が頷いた。
「よろしくね。この子の名前はリロよ」
「リロか。了解」
そうして、ロバートの父親は、きびすを返して部屋を出て行ってしまう。
ロバートと彼の母親は、リロに向かって「よかったね」と言って微笑んだ。
(よかった……の……?)
わからない。
(捨てられたのに、戻っていいの?)
いや、きっと駄目だ。家に帰っても、また同じことの繰り返しになるだけ。
今度こそ、助からないかもしれない。
(でも……)
他に行くところがない。
青い顔で俯いていると、ロバートの母親が話しかけてきた。
「大丈夫? まだ本調子じゃないのかしら。今日はここで、ゆっくり過ごすといいわ」
「……ありがとう」
リロはお礼を言うと、ロバートたちは部屋の外へ出て行った。
残されたリロは、置かれた食事に手を伸ばす。
(ごはん……たくさん……)
盆に置かれた皿の上には、焼きたてのパンと生野菜に、香ばしい鶏肉が少し。カップには赤い豆のスープ、小さなボウルには果物が入っていた。
村で食べていた質素な食事とは比べものにならないほど、量と種類が多い。
(せんぶ、食べられるかな)
それでも、リロはお腹をすかせていた。
最近は食事を抜かれることも増えていて、かろうじて死なない程度の、最低限しか食べることができていなかった。
本能の赴くまま、木のスプーンを手に取る。
まずは、まだ温かいスープを口へ運んだ。
(……おいしい)
できたてのスープは、トマトと豆の優しい味がした。
量が加減されていたおかげで、リロは全てを食べきることができた。