表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

6:拾われた先で

 ――目覚めたら、リロは見知らぬ天井を見上げていた。

 頭を動かして横を向く。

 優しい光が差し込む窓辺で、白いカーテンが風に揺れていた。


(……?)


 窓の向こうには青空が見える。


(……朝かな?)


 漆喰が塗られた白い壁際にある木の棚に、小さな花瓶に生けられた花が飾られている。

 今まで眠っていたベッドのブランケットやシーツからは、花のようないい匂いがした。


(わたしの家じゃない。ここは、どこ……?)


 森の岩場でもない。

 村にある、木造の古い実家でもない。

 清潔な石造りの、知らない家だ。


(私は森に連れて行かれて、岩の上から落ちて……)


 記憶を辿っていると、悲しい思い出まで蘇り、胸が痛んだ。


(わたし、本当に捨てられちゃった……? いらない子になっちゃった……)


 リロの目から大粒の涙があふれ出た。

 それでも、どこかで願ってしまう。


(帰りたいよ……おとうさんと、おかあさんのところに……)


 怖くても、拒まれても、家族がいる場所に戻りたい。

 一人ぼっちは、嫌だ。


 すすり泣いていると、突然、部屋の扉が開いた。

 そして、音もなく何かが飛び込んでくる。

 ふわりとした何かは、リロのベッドのすぐそばでぴたりと動きを止めた。

 驚いて、涙も引っ込んでしまう。


「だ、だれ……?」


 ふわりとしたものの正体は、リロより少し年上の男の子だった。

 好奇心の強うそうな、茶色の瞳がきらきらと輝いている。

 どこか動物のような気配を纏った彼の頭の上には、藁のような黄褐色に黒くて丸い模様の入った耳がついていた。同じ色の尻尾もある。


 その男の子はリロに近づきながら、ニカッと元気よく笑って言った。


「おはよう。俺はロバート、この家の息子」

「むすこ?」

「そうだよ。ここは帝国一の魔法アクセサリー工房『豹の眠り木』」


 ロバートは誇らしげに話を続ける。


「ていこく? あくせ?」


 わからない言葉ばかりだ。リロはコテンと首を傾げた。

 ただ、目の前の男の子は、怖いことはしてこない。

 怒鳴らないし、叩きもしない。


(この人は……わたしを傷つけないのかも)


 リロは少しだけ、ほっと息を吐いた。


「そっか、人間の国にいたし、まだ小さいから、帝国のことを知らないのかな」


 ロバートは合点がいったように頷く。


「……?」

「帝国は、人間の国の隣にあるんだよ」


 リロには国という概念がよくわからない。リロの住む世界には、自分の村と隣の村しかなかった。

 おそらく、「自分の村と、隣の村」に、似た感じなのだろうと、なんとなく納得する。


「それにしても、君はどうして森の岩場にいたの? 夜目がきかない上に魔法も使えない人間は、夜に森に入ったりはしないらしいけど。特に、幼い子どもは……」


 リロはぴくりと体を強ばらせた。

 さっきまで薄れていた悲しい記憶が、またじわじわと戻ってくる。

 暗い森に手首の痛み。父に突き飛ばされた衝撃。


「……」

「家はどこ?」

「……ハシノ村」

「親や兄弟はいる?」

「……いる」


 リロの話を聞いたロバートは、「そうか!」と、もっともらしい表情を浮かべて頷く。


「……ってことは、やっぱり迷子だな。捜索届は、まだ出ていないみたいだけど。魔法を使えない人間の国だから、伝達が遅いのかも」

「……まほう?」


 今、ロバートは魔法と言った。人間が、魔法を使えないとも。


(どういうこと?)


 でも、リロが魔法を使えると知ったら、ロバートも村の人たちみたいに豹変してしまうかもしれない。

 何も言わないでおこうと、リロは口をつぐんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ