64:司会の依頼と新しい提案
続いて、魔法体育学教師のカルボンと、校長かつ担任のクリストファーのもとへ向かう。
カルボンは、ほぼ毎年司会をしてくれているそうなので、その依頼に行くためだ。
彼は、人前で話す場面で、わくわくしてしまう性格らしい。
クリストファーには、メニューについて聞こうと思っている。
審査員は教師たちなのだが、リロはとある提案をしたいと思っていた。
まずは、カルボンのところへ向かう。彼はこの時間、体育館にいるそうだ。
さっそく体育館へ行って扉を開ける。
「広い……」
呟くリロの横で、ミネットも頷く。
「ここの学校の体育館は広くて有名なのよ。卒業して魔法スポーツの道へ進む子も多いらしいわ。もっとも、陸上や空中での運動競技系は、圧倒的に獣人族や鳥人族が有利なんだけどね」
「身体能力が違うものね……それにしても、広い場所だな」
残念ながら人間族やドワーフ族は、ずば抜けて魔法が得意でない限り、魔法スポーツには向かない。
リロ以外の人間族は魔法が使えないので、魔法スポーツをすること自体が無理なのだけれど……。
体育館の中は、カドの街にある市場が十個分は入りそうな広さだった。
その中の一区画で、カルボンは生徒と一緒に空中で球技をしている。
リロたちはそちらへ近づいていった。
「なんだろう、あれ」
「空中バレーね。魔法島で流行っているスポーツよ」
ミネットが教えてくれる。
「結構激しいね……」
カルボンも生徒たちも、広い空間を縦横無尽に飛び回り、豪速球を打ちまくっていた。
「二組に分かれたチームが飛行ボードに乗って、互いの陣地の空中でひたすら球を打ち合うルールなのよ。真ん中の線より内側――自陣の地面にボールを落とせば負けなの」
「だから皆、あんなにも必死なんだね」
リロは試合が一段落した時点で声を掛けた。
「カルボン先生」
気付いたカルボンがくるりとボードを開店させ、上空からリロたちのいる方へと下りてくる。
「やあ、何か用かな? おや、君はたしか、大量のケサランパサランの……!」
「……はい」
カルボンは入学試験でリロの担当だった。しっかり覚えてくれていたらしい。
「それで、今日は魔法料理大会の件で来たんです。カルボン先生に、司会をお願いしたくて」
「もうそんな時期なんだな。任せなさい、今年も私が引き受けよう! 毎年楽しみなんだ」
「ありがとうございます」
カルボンは、あっさりと承諾してくれた。
それと同時に、向こうで生徒たちが彼を呼ぶ声が響いた。
「カルボン先生~! 次の試合が始まるよ!」
「おっと、私はこれで失礼する。生徒会の仕事、頑張って!」
言うと、カルボンはボードでふわりと浮遊し、くるりときびすを返して行ってしまった。
「……お兄ちゃんも飛行ボード派だけど、あれもいいね」
ボードについての感想を言うと、ミネットも頷いた。
「扱いは難しいけど、慣れれば一番小回りがきいて便利かも。スポーツをする子は、圧倒的にボード派が多いわよ」
知らなかった。
けれど、リロはそこまでスポーツに重きを置いているわけではないので、箒でいい。
ミネットも自転車で満足しているようだった。
※
最後にクリストファーのいる、職員棟の校長室へ向かう。
何度か来ているので、もうリロは慣れてきた。入り口で受付を済ませる。
校長室が初めてのミネットは、キョロキョロと辺りを見回していた。
興味津々な様子でエレベーターに乗り込み、上階へ到着するやいなや、白い壁や床、小鳥や植物だらけの空間を不思議そうに眺めている。
「こっちだよ」
リロは校長室のドアを目指して歩き、到着するとチリーンとベルを鳴らした。
すると、中からクリストファーが出てくる。
彼はリロが立っているのを見ると、相好を崩した。
「やあ、リロ。生徒会のお仕事お疲れ様。ミネットも来てくれたんだね。どうぞ入って」
案内され、応接用スペースの来客用ソファーに腰掛ける。
「今日は、お菓子と葡萄のジュースがあるよ。甘いものは大丈夫かな」
リロとミネットは揃って頷いた。
クリストファーが指を鳴らして魔法を使うと、どこからともなく小さな数種類のケーキとブドウジュースが運ばれてくる。
それらは空中を舞い、ふわりとテーブルに着地した。
花や果物をあしらった繊細な芸術品のようなケーキだ。いい匂いがする。
「わあ! これって、メモリア・パティスリーのケーキだわ!」
ミネットが嬉しそうな声を上げる。
「メモリア……って?」
首を傾げたリロに向かって、ミネットは前のめり気味に説明する。
「魔法島で一番人気のケーキのお店なの。店舗を出していなくて、予約のみの取り扱いなんだけど、その予約がなかなか取れない幻のケーキなのよ。貴賤を問わず、購入規模者は年単位で待たなければならないって聞いたわ」
「すごいお店……校長先生は、何年も前に予約していたってこと?」
クリストファーは緩く微笑む。
「忘れかけていたけど、予約していたんだよねー」
「そんな貴重なケーキなのに、私たちが食べちゃってもいいんですか?」
「こういうのは、皆で食べる方が美味しいからね」
リロはレモンのジュレが輝くチーズケーキを選ぶ。
ミネットはベリーの載った円形の華やかなケーキを選んだ。
クリストファーも残りのケーキの中から、何が入っているのかわからない真っ白なケーキを選んでいる。
「おいしい!」
「私のケーキも! バランスが絶妙だわ!」
ついでに言えば、クリストファーの用意してくれたブドウジュースも甘すぎず、ケーキによく合った。
ケーキを堪能していたリロは、ハッと本来の用事を思い出し、クリストファーに話しかける。
「校長先生、魔法料理大会のメニューについて提案したいです!」
「お、何かな?」
「例年どおりだと、各寮で種族ごとにチームを組んで、料理対決していたんですよね? 人数が少ない種族は、ほかの種族のチームに分散じて入ったりして……」
生徒会の資料に載っていた。
「そうだねえ。ついでに言うと、審査員の教師陣も自分が食べられる料理のみ審査していたねえ……雑食のモミーナ先生なんかは毎年試食で大活躍だったけど」
モミーナはドワーフなので、肉や魚や野菜など種類を問わずに、なんでも食べられるのだ。
「でも、獣人族や人魚族の中にも菜食寄りな生徒もいて、鳥人族でも最近は雑食の子が増えていて……例年どおりだと、種族ごとの生徒の人数差も大きくて偏りがあるとか」
「うんうん。うちの学校は獣人族とドワーフ族が多いからねえ。ボウル帝国の人口に比例しがちだから、仕方がないんだけど……人数の多い寮では、毎年○○寮の獣人族Aチームや獣人Bチームという感じで分かれているねえ」
同じ寮の同じ種族から二チームも出たら、潰し合いにならないだろうかと思ったが、そこは一群チームと二群チームのような分け方をしているそうだ。
本命が勝てば、それでいいらしい。
「エルフ族と妖精族は、大体一緒くたのチームですね」
「こちらは少人数でほかのチームから加勢してもらってるんだけど、いまいち盛り上がりに欠けるんだよねえ……あと、レアケーズだけど僕はエルフなのに雑食だし」
「生徒会の先輩にも事前に相談したんですけど、どうしても、いつも種族で固まっちゃうって……」
「まあ、文化が似ている同族で固まりがちだよね。せっかくこの学校にいるんだから、学生の間に様々な種族で交流してほしいよね……と、校長としては思うけど」
「……私もそう思って、今年は種族別ではなく、料理別にしてみたいなと……」
「例えば?」
「お肉部門、魚部門、野菜部門、自由なご飯とパン部門、自由なデザート部門みたいな」
「肉部門と自由部門に生徒が殺到したりしないかな」
「その辺りは、お兄ちゃんと副会長のガイゼルさんが生徒側の意見も集めてくれていて……今のところ種族ごとの人気は異なるものの、大きな偏りはなく、野菜部門が若干少なめなのと、デザート部門がちょっと多くなりそうだけど、許容範囲内という話みたいです」
同じ生徒会のエリゼなんかは、「そもそも、妖精族には調理をするという概念自体がない」なんて文句を言っていたけれど。
「なら、大丈夫かな」
「肉料理や魚料理でも、付け合わせに野菜を使ったりしますけど……その辺りは制限しすぎると難しいので、自由ということで」
リオパール家でも、家族は肉や魚しか食べられないというわけではなく、野菜や穀物も多くはないが食べてはいた。
肉と魚が中心の食生活ではあるが、それだけしか食べられないというわけではない。
逆にヴィーガン系の種族は、肉や魚、乳製品も受け付けない。
食べるとお腹を壊す人が多いらしく、その辺りのバランスが難しい。
「私はリロの考え、いい案だと思うわ。ほかの種族との交流って、ちょっと理解できないところもあるけど面白いもの」
ミネットの意見に、クリストファーも頷く。
「どうなるかわからないけど、僕も個人としては賛成。ご飯部門があるのなら、フライ丼とか試食してみたいよね」
「私とリロが、ちょうどフライ丼を作りたいって相談していたところなの」
「それはいいね。楽しみにしているよ」
答えたクリストファーは、心の底からそう言っているように見えた。
※
最終的に、反対意見なくリロの提案は通った。
ほかの生徒も、もっと自由に料理したいという思いがあったみたいだ。
意外なことに、エルフや妖精族は、パン部門やデザート部門に興味を示す生徒が多い。
また、鳥人族が野菜部門に多く参加しようとしているみたいだった。
種族ごとだと、どうしても意見が強いほうに合わせてしまいがちだけれど、彼らは肉や魚も食べるが、豆好きの割合も高く、普段の食生活と同じ野菜部門のほうが合っている生徒も多いようだった。
同じ種族でも、結構好みにばらつきがある。
職人気質のドワーフ族が肉や魚部門で獣人族や人魚族と対決したがったり、ヴィーガン向けの料理を極めたがったりする様子も見られた。
なんだか上手い具合に、出場者がばらけそうだった。




