6:小さな命を拾った日(ロバート)2
家に戻ると作業エプロン姿の母が、まっすぐ切りそろえた黒髪を揺らしながら駆け寄ってきた。
玄関先で「早かったわね」とロバートたちを出迎えてくれる。
「実は途中で女の子を拾ったんだ。夜の森は危ないから連れ帰ってきたよ」
父が背中に背負っていた女の子を母に見せる。母は黒い瞳を丸くした。
「あらまあ!」
「……というわけで、キノコは採ってこられなかった」
父はロバートと同じ藁色の頭を掻いて、おっとり笑いながら母に謝罪する。
「いいのよ、人助けのほうが大事だわ。お疲れ様」
屈んだ母はロバートの茶色の瞳と視線を合わせて微笑んだ。
「ロバートも、人助けをしてきて偉かったわね」
「俺が見つけたんだよ? 岩場の木の下にいたんだ」
くしゃっと笑顔になったロバートは、得意げに胸を張る。
「さて、まずは、この子の怪我を手当てしないとね。着替えも……ロバートの小さかった頃の服が、クローゼットにあったはずよ」
母はいそいそと動き始める。
「手伝うよ、俺も。薬箱、取ってくる」
駆け出すロバートの後ろでは、少女を負ぶった父が、のんびりと空き部屋へ向かって歩き出していた。
「さてと、父さんはこの子を運んだら、『フクロウ便』で、役所と衛兵の詰め所に、迷子の届け出を出すよ。子どもがいなくなって、捜索届を出している人が、いるかもしれないからね」
帝国の衛兵は街の警備を担っている。普通、迷子の知らせは衛兵に伝えるのだ。
今回は保護した相手が「人間」だったので、役所にも連絡を入れるのだろう。
別の部屋から薬箱を取って、母の元へ向かうと、彼女は少女の怪我を確かめていた。
少女は空き部屋にある大きめのベッドの上で眠っている。
ここは、少し前に亡くなった、祖母が使っていた部屋だった。
「この子の傷を調べたけれど、大きな怪我はないみたい。でも、擦り傷や打ち身……小さな怪我は、たくさんあるわね……うちにある魔法薬が足りそうで、よかったわ」
「きっと岩場から落ちたときの怪我だよ。そこに倒れていたから。運良く、木に引っかかって助かったんだと思う」
「そうなのね。それにしては……少し古い傷もあるみたいだわ」
母は、不思議ねえと首を傾げている。
ロバートが部屋を出ている間に、母は少女を着替えさせた。
「さあ、ロバートはもう寝る時間だよ。先にお風呂に入ってきなさい。あとのことは父さんと母さんに任せれば大丈夫」
部屋の外で父に言われ、ロバートは「うん」と小さく頷いた。