57:地下遺跡と人間族
「あなたたち~、水やりがまだ途中よ~? どこへ行っていたの?」
モミーナが困った様子で、水路伝いに歩くリロとダニエルに注意する。
クリストファーは、どうして植物園にいるのかわからない。ただ、モミーナの隣でにこにこしていた。
「先生、大変なの!」
ミネットが切実な声で訴える。
「水路の先に、ゴーレムがいたの! 水路の先の扉が、遺跡みたいな場所に繋がっていたのよ」
「……遺跡?」
モミーナとクリストファーは顔を見合わせた。
「トンネルの中の、あの扉は開かないはずだけど」
不思議そうにクリストファーが告げる。
「それが、リロが魔法を使ったら開いたんです。私たちは中に入ったの。でも、そこでゴーレムに襲われて」
「うーん? 確かにあの先は下層に繋がっていると思っていたけど……遺跡かぁ……」
クリストファーはモミーナに向き直る。
「モミーナ先生、あとは僕が話を聞いておくよ。水やりも、この子たちに最後までしてもらうから大丈夫」
「あら、そう? 助かるわ、校長先生」
モミーナは「ありがとう」とクリストファーにお礼を言うと、シュルンとどこかに転移してしまった。
「さてと、詳しい話を聞こう。あの扉は、今まで何人もの人が開けようとして、誰一人として開けられなかったんだ。もちろん僕も。とても頑丈で、魔法でも壊せないしねえ」
リロは首を傾げる。
「私、魔法を使って……扉は壊せなかったけど、あっさり開いたんです」
ブッチョがリロの頭から肩へ移動し、「ゲゲェ」と鳴く。
「ちなみに、君はなんの魔法を使ったの?」
「粉砕。校長先生も知ってる魔法」
「でも扉は壊れず、開いたと……」
全員で頷く。目撃者はたくさんいるのだ。
「それって……リロの魔力に反応したのかも」
「私の魔力?」
「正確には『人間族の魔力』。だとすれば、開かないはずだよね、魔法を使える人間族なんて、無の時代から今まで、一人としていなかったんだから」
仮にいたとしても、魔法島アヴァレラへは来ていないのだろう。リロも運良くここまで来られただけだ。
「遺跡を解明しないことにはなんとも言えないけどさ。この魔法島の創造には過去、人間族が関与していたのかもしれないね」
首を傾げるほかの生徒たちにリロが説明する。
「大昔、人間族は魔法が使えたんだって。魔法島の文献に残っているらしいよ。私はそれが読みたくて、アヴァレラ魔法学校へ来たの。いい成績で卒業したら、管理者か研究者になって、文献を読む許可がもらえるから」
まだ管理者の仕事も詳しく知らないし、なんの研究をするかも決まっていないけれど。
とりあえず、その仕事に就くのは手段でしかない。
「それで、遺跡の中でゴーレムに遭遇したの? あれって、三層の遺跡でもたまに発見されているけど、壊れているよね……」
「それが、動いたんです!」
興奮した様子でミネットが告げる。ダニエルも頷いて言った。
「俺に襲いかかってきた。手で掴まれて……抵抗したけど魔法も効かなくて……」
「うん、エリゼの強力な魔法も、私の強力な魔法具も効かなかったんです。それをリロが粉砕したのよ。だから私たち、無事に戻ってこられたの」
「なるほど、そっちも人間族の魔法にしか反応しないのかもしれないね。おそらく、過去に人間族が他種族への侵略に使った……まあいいや。残りは僕の方で調べておくよ」
「そのゴーレム、まだ動いているんです」
リロが言った。
「私が手足を粉砕したけど、生きていて……」
「魔法具だから命はないんだけど、まだ動くなんて興味深いね。危険な感じだし、やっぱり僕が一度見に行かなくちゃ。……ということで、君たちは水やりの残りをすること! 危険だから、もう水路の奥には近づかないこと! そしてこのことは他言無用! ほかの生徒が好奇心に駆られて入ったら危ないからね」
「……はーい」
またゴーレムに遭遇するのが嫌だからか、全員が素直に返事した。




