55:議員の息子の入学事情(ダニエル)
ダニエルは不満だった。
何が不満なのかと聞かれれば、全てだと答えるだろう。
そもそも、父親の意向でアヴァレラ魔法学校の入学試験を受けさせられたことも気に入らなかったし、試験結果も散々だったし、それを議員の父親が無理にねじ曲げて自分を放り込んだのも情けなくて嫌だったし、自分が選ばれた寮がエリートの多いカメリアでなく、ぱっとしないブルーベルなのも泣きたくなった。
好きで権力者の息子になったのではないし、アヴァレラ魔法学校に行きたいわけでもなかった。
いつも、なんとしても試験を合格しなければというプレッシャーに押しつぶされそうだった。
実技試験で試験官に迫ったのもそのためだ。
試験に落ちたのは当然の結果だった。
ダニエルはそれほど魔法が得意ではないし、魔法に興味もない。
しかし、ダニエル一人が足掻いてもどうにもならない。家族の中で父の言葉は絶対だ。
結局、彼が思い描いたとおり、ダニエルはアヴァレラ魔法学校へ通うことになった。
寮生活は嫌なので、普段はアヴァレラの市街地で一人暮らししている。
だから、まだ友人がいないし、寮監のモミーナもダニエルのことがわからなかったのだ。
さらにダニエルの耳に、自分が落ちた魔法学校の試験に人間族が受かったという噂が入ってきた。
信じられなかった。
人間族は最悪な種族として有名だ。
魔法が使えないくせに、プライドだけは高く、ほかの種族と仲良くできない。それどころか攻撃的。
なのに、ピア王国の王女を帝国に差し出すことで、長年帝国の庇護を受けて生きながらえている。
そうやって、守ってもらっているくせに、帝国に感謝すらしない。
そんな種族が、自分を差し置いて魔法学校の試験に合格するなんて、耐えられなかった。
心のどこかで、これは同族嫌悪なのだとわかりつつも、気持ちを切り替えることなんてできない。
どうしたらいいかわからなくなっていたところに、偶然件の人間の新入生が現れた。どうしても、放っておくことができなかった。
そうして八つ当たりし、魔法歴史学教師のシオルに見つかり、人間族の生徒共々植物園へ送られてしまった。こんなこと、父親にバレたらただでは済まない。
さっさと終わらせ、何事もなかったかのように振る舞う必要がある。なので、ダニエルは真面目に水やりした。
そうしていると、あらかた水やりを終えた人間族が仲間と一緒にどこかへ走り出した。
自分だけサボるつもりなのかと、なんだか腹が立ち、ダニエルは彼ら追いかける。
そうしたら、見たこともない場所にたどり着いた。
(ここはどこなんだ)
父親から聞いていた魔法島の仕組みについて思い出す。ここはおそらく、三層か四層だろうと思った。
(すごい。親父でさえ入れない場所に、今俺はいるんだ……)
気分が高揚し、人間族どものことなど、どうでもよくなった。
(もしここの何かを持ち帰れば、俺も評価されるだろうか。意見を聞いてもらえるだろうか)
ふと、そんな欲が出た。
そうして奥へ進んだところで……不意に瓦礫の山が崩れて、中から何かが飛び出してきた。




