49:カフェの中で
採寸までを終えたリロたちは、その足でカフェに行くことにした。
制服は寮まで送ってもらえる手はずになっているのだ。
前に校長先生にお勧めしてもらった場所とは別の、ミネットが興味を持った、ブルーベル寮の近くのカフェに行ってみる。
そのカフェは優しいピンク色に波打つ屋根と、同じ色の扉が目印だった。
校舎と校舎の隙間に、ただ扉があるだけ。けれど、そこを開くと……中には明るくて可愛い空間が広がっている。
ピンクと白のふわふわした大きな風船が天井に浮いていた。ものすごく甘い匂いもする。
(わあ、結構賑わってる。お昼時だからかな)
天井から吊り下げられた掲示板には、今日提供されるメニューが大きく表示されていた。
「バター林檎とキャラメルの上品なタルト、星空とはじけるキャンディーの謎パフェ、巨大苺と帝国牛のクリームチーズケーキ……お菓子が多いね」
こちらのカフェでは、どちらかというとスイーツに力を入れているようだ。
隣では、ミネットが目を輝かせている。
「ここ……ずっと、憧れていたの……入学する前にね、帝都で発刊されている雑誌で読んで……夢みたい……」
「グルメ雑誌?」
「ええ、そう。まわりに内緒で、こっそり買って読んだのよ。そこに、このカフェが載っていたの。だから、入学したら、絶対に行くって決めていたの」
たしかに、素敵なカフェだ。
注文はセルフ方式のようで、窓口で注文したあと、受け取り口で受け取る仕組みだった。
「ミネットは何にするの?」
「タワーサンド! ここの名物なのよ」
「えっ……?」
どんなものかと思い、既に注文している人がいないか座席を見回す。
すると、何段にも高く積み上げられた塔のような物体が目に入る。リロは目が点になった。
リロの腰までほどの高さの皿に、山のようにモリモリとサンドウィッチが盛られている。
「あのさ、ミネット……まさか、あれ、全部食べるの?」
具材は野菜や果物や謎の物体や……バリエーション豊かだ。量も多い。
所々に、サラダや果物や、デザートも盛り付けられている。
「そうよ、あれを食べたいの」
「……ええぇ……」
ザッと金額を確認するが、そこまで高くない。割り勘なら払えそうだ。
「よかったら食べるのを手伝うけど、二人でも無理じゃないかな。あっ……」
そのとき、リロは窓の外に偶然知り合いを発見した。肩に使い魔を載せたエリゼだ。
「ミネット、ちょっと待ってて。助っ人呼んでくる!」
リロは一旦扉の外に出て、エリゼを捕まえに行く。
「エリゼ!」
駆け寄ってきたリロを見て、エリゼは目を見開く。
「お前、どこから出た?」
「そこのピンクの扉だよ。外からわかりにくいけど、あそこはカフェなんだ。それでね、エリゼ、お腹空いてない? お昼食べた?」
「唐突になんだ? 昼ならまだだが……」
「よし、行こう。今日は私たちのおごりだよ」
「訳がわからない……」
戸惑うエリゼの肩の上で、青い翼を広げたソフィアが「クェェー!」と鳴く。
「ソフィア、サンドウィッチは好き? ええと、魔法鳥獣語では……ピヨ、チッチッチ、フィチチ!(私が、サンドウィッチを、おごるよ)」
「ピェ!(食べる!)」
ソフィアは鋭く鳴くと、リロの頭の上へ移動する。サンドウィッチは好きなようだ。
「あ、こら、ソフィア」
エリゼはやれやれといった感じで、自分の使い魔を眺める。
「行こう、エリゼ。果物を挟んだのもあるよ」
二対一では不利と悟ったのか、彼は「はぁ」とため息をついて、渋々感満載で、リロと一緒にカフェに向かってくれた。
これで、タワーサンドにも対抗できそうだ。
ミネット→リロの前では年相応の子供でいられる。
エリゼ→何故かリロに懐かれていて、戸惑っている。




