5:小さな命を拾った日(ロバート)
夜のアイテム探しはわくわくする。
しんとした静寂は心が落ち着くし、森特有の澄んだ空気も好きだ。
獣人の少年――ロバートは、湧き上がる好奇心を抑えながら、しっとりした落ち葉の積もる道を駆けた。
森特有の澄んだ空気が鼻先をくすぐるたび、言葉に出来ない嬉しい気持ちが溢れ、思わず豹柄の尻尾がピンと立つ。
「こら、ロバート。あまり先に進みすぎるんじゃない。はぐれたら大変だろう?」
後ろから追いついたロバートの父が、優しく息子を呼び止め、藁色の髪をくしゃっと撫でる。
「大丈夫だよ。今日は月明かりも出ているし、俺はもう七歳だ。こんな小さな森で、迷子になんてならないよ」
得意げなロバートを前に、父がやれやれと肩をすくめた。
「七歳は、まだ子どもだと思うがなぁ……」
「俺は大人にだって負けないよ」
ロバートは、わざとらしく頬を膨らませた。
父はため息を吐き、諦めた様子で大人ぶる息子と手をつなぐ。
この日、ロバートは父と光るキノコを探しに来ていた。
両親が営むアクセサリー工房で、新作の装飾にそのキノコを使うらしい。
だから、「手伝うよ」と告げて、夜の散歩に連れてきてもらった。
「キノコはこの先の岩場に生えている。足下に気をつけるんだぞ」
「平気平気、だって俺は父さんの子だよ? 豹獣人が岩場で足を滑らせたりしないって」
ロバートは軽々と近くに生えている灌木を飛び越え、岩場を駆け上がっていく。
しかし、途中で奇妙なものを発見し、唐突に足を止めた。驚いて地面を見下ろす。
「父さん……」
「どうした?」
すぐ父親が問い返すと、ロバートは少し戸惑ったように答えた。
「小さい女の子が倒れてる! そこの、平地の木のところに!」
岩場の途中に、平らな地面がある。そこの灌木に人が引っかかっていた。
「なんだって!?」
驚いた父が慌てて駆け寄る。
そして、ロバートと同じように、上から灌木の下を覗き込み、息を呑んだ。
「本当だ。まだ子どもじゃないか。……気を失っているみたいだな」
その子はロバートより幼く、とても痩せていた。
たくさん怪我をしていて、身なりもボロボロだ。
「もしかして、この子は人間の子じゃないか?」
痛ましい女の子の姿を観察して父が言った。
「人間……?」
平地に飛び降りたロバートは、目を凝らして少女を見つめる。
確かに、その子には耳も尻尾もなかった。生まれて初めて見る姿だ。
「おそらく、森の向こうから来たんだろう。交流はないが、あちら側には人間の国があるからな」
父の言葉に、ロバートは小さく頷く。
人間の国は、自分たちが暮らす国と深い親交がない。
だから、ロバートは人間について、よく知らなかった。
(それにしても、どうして小さな子が、こんな場所に?)
夜の森は、幼い子が一人で歩くには危険だ。
「父さん、連れて帰ろうよ。この子を置いて帰ったら、弱って死んでしまうかもしれない。それに、ここは獣の気配がする」
岩場の頂上あたりから、かすかに獣の存在を感じる。
今はロバートたちを警戒して動かないが、二人が去れば下りてくるだろう。
ロバートは父の服の裾をぎゅっと握る。
「……そうだな。連れ帰って手当てしよう。キノコ狩りは、また今度だ」
父はそう言って灌木の下へ手を伸ばし、そっと少女を背に背負った。
ロバートはキノコ狩り用の籠の運搬を引き受ける。
白銀色の月明かりが、三人を静かに照らしていた。