47:寮服の採寸について
寮の部屋に戻ると、耳に花の咲いた、大きな兎のような魔法生物を抱っこしたミネットがいた。淡い体毛はピンクがかっていて、瞳は真っ黒でキラキラしている。
ふわふわのもふもふだ。
「ただいま、ミネット」
「リロ、おかえり。あなたを待っていたわ」
ミネットの黒い瞳も、魔法生物と同じようにキラキラしていた。
「その子……ミネットの使い魔?」
「そうなの、私も契約できたのよ! この子の色、ちょっとリロに似てるわよね。調べたら『芽吹き兎』っていう種類みたい。名前はフロリムよ」
リロの頭から降りたブッチョが、ヒタヒタと床を這って、フロリムに近づいていく。
ブッチョは鰭を、フロリムは耳を前に差し出し、先端が触れ合った。これは魔法生物同士の挨拶だ。ブッチョはフルフルと揺れ、フロリムは耳の花を増殖させる。
緊張して様子を見守っているが、今のところ友好的な雰囲気でよかった。
そしてミネットも、昨日は何かに怒っていたけれど、今は機嫌が直っている。
(ミネットはいつも、従者の人が来ると嫌がるから……。きっと、寮に大勢のお客が来たせいだったんだろうな)
本人が何も言わないので、リロも敢えて話題には出さない。
「あら、リロ……その指輪……」
ふと、ミネットがリロの指を見つめる。
「校長先生に、魔法媒体をもらったんだ。これなら、人間族でも使えるかもしれないって」
「魔法媒体に種族が関係あるの?」
「昔はそうでもなかったみたいだけど、今は『より使いやすいように』って、お店側が各種族に合った配慮をしているみたい。改良のせいで、人間族の私に合った媒体がなかったんだけど……とにかく、授業に間に合ってよかったよ」
「ふぅん。薬指……」
ミネットもそこが気になるみたいだ。
「校長先生が、はめてくれたんだ。先生の右手の薬指にあった指輪だから、そのまま薬指に移動したんじゃないかな? 中指に移動しようかとも思ったんだけど、何故か指から抜けなくて……面倒だし、まあいいかなと」
「まあ、校長先生は二百歳を超えているし、淡泊なエルフ族だしね。そっちの心配はないか……」
「うんうん。私たち、十二歳だもん」
リロはクリストファーにもらった、分厚い「中級魔法大全」を机の上に置く。
「な、なにこれ」
「校長先生がくれたんだ。頑張って覚えなきゃ……」
「前向きね。私なら、すごいプレッシャーを感じてしまうところよ」
「内容を覚えるのは得意だから大丈夫。でも、実際に魔法として使うのは、かなり練習しなきゃいけないかも。初級のときも、大変だったんだ……」
「そうよね……魔法、難しいものね。授業、ついて行けるかしら……。不安なことは忘れて、明日の寮服の採寸のことを考えるわ」
「女子の採寸の日だよね。楽しみ」
「寮服を着たら、アヴァレラ魔法学校の生徒という感じで、きっと気分が上がるわよ。寮によって色が違うのも面白いわね。マーガレット寮の寮服の色は、白と黄色と銀と薄紫がメインカラーみたい。スカートとかパンツは、どれにするか自分で選択できるんだって」
「へえ、ほかの寮は?」
「カメリア寮は、赤とオレンジと茶色と赤紫って感じ。ブルーベル寮は青と水色と緑と青紫、ダリアは黒とグレーと金とピンク」
「一目でどの寮かわかりそうだね」
「デザインも、寮ごとに違うのよ。楽しみよね」
ふと、兄のロバートのことを考えた。
(お兄ちゃんの寮服、たしか黒かった……)
たまに長期休暇などで家に帰ってきたときだって、寮の話はするものの、具体的にどこの寮だという話を聞いたことがなかった。
だが、一度寮服のまま帰ってきたことがあり、そのときの彼の服は黒と金だったのだ。
(そっか、お兄ちゃん。ダリア寮だったんだ……)
てっきり、カメリア寮あたりかと思っていた。
学校のこともロバートにたくさん尋ねたが、いつも「行けばわかるって」で誤魔化されていた気がする。「自分で見たほうが、面白いから」とも言われた。
(お兄ちゃんの言っていることもわかる気はするけど)
魔法島も、アヴァレラ魔法学校も、何もかもが新鮮で、驚きに満ちている。
でも、ロバートは意外と秘密主義なんだなとも思った。




