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拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す  作者: 桜あげは 


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43:古代生物とファソの森(ブッチョ)

 ブッチョは地の底――正確には魔法島の内部、人々が第四階層と呼ぶ場所からやってきた。

 茶色の柔らかい体と黄色の小さな鰭を持つ、古代から生きる知性を宿した魔法生物だ。


 魔法島は五層構造。第一階層は街で、「ファソの森」や「アヴァレラ魔法学校」、「列車の駅」や「飛行船の駅」なども第一階層に含まれる。

 第二階層は管理区域。魔法島の管理者たちしか入れない場所。ブッチョは出入りできるが、そのことは誰も気づいていない。

 第三、第四階層は遺跡。第三階層は調査が進んでいるが、第四階層には現在、誰も入れていない。ブッチョは出入りできるが、やはり誰も気づいていない。

 第五階層には、島の動力源がある。島を浮かせたり、空気や水を管理したり、そういった古い魔法具が設置されている。


 ブッチョは第四階層から来た。

 目覚めたら何もない闇が広がっていて、仲間もいなくなっていた。

 辺りには崩壊した瓦礫の山。同族どころか、人っ子一人いない。


「ゲェェェーッ……」


 羊が鳴くような声を上げながら、第四階層を抜け出たブッチョは水路をさまよい、様々な階層を行き来し、仲間を探した。

 だけど、誰もいなかった。孤独だった。


 それに我慢できなくなった頃、ふと思い立って、ファソの森に来た。ここにいて、選ばれれば、孤独でなくなると知っていたからだ。

 しかし、誰にも相手にされなかった……。

 ここでは見た目が大事らしい。

 けれど、ブッチョにも選ぶ権利というものがある。こちらだって、誰でもいいわけではない。

 いろいろな生徒を眺めたが、これと言って気に入る相手はいなかった。


 だが、ある日、ふと、懐かしい魔力の匂いがした。

 上手く言い表せないが、目覚める前に知っていたような、温かくたゆたうような、優しい匂いだった。

 引き寄せられるように、水路をスイスイと泳ぐ。すると、一人の女の子が立っていた。

 その子は使い魔を探しに、森の奥へ入ってしまったが、ブッチョはなんとなく知っていた。今の時代、魔法島の第一階層では、その子の使い魔は見つからないだろうと。


 ブッチョの好きな匂いは、今を生きる、ほかの魔法生物が苦手な匂いでもある。

 ほかの魔法生物が懐いたり、仲良くなったりすることはあるかもしれないが、決してパートナーにはならない。そう予測できた。


 ブッチョは、収穫を得られず水路に戻ってきた女の子に近づいた。

 彼女は落ち込んでいて、もう一人の男の子の使い魔を羨ましそうに眺めている。


(どうか、気づいて……こっちを見て)


 短い鰭で、パシャッと水を跳ね上げた。


(僕がいるよ……!)


 すると、二つのピンクの瞳が、ハッとブッチョを見つめる。


「……」


 どれくらい長く見つめ合ったのだろう。

 おそらく一瞬だが、ブッチョにはとても長くて静かな時間に思えた。

 彼女はそっと水面に手を差し出し、ブッチョに赤い「アカディの花」をくれた。

 とっても嬉しくて、ブッチョはすぐ、その花をむしゃむしゃと噛んで飲み込んでしまった。


 連れて行ってもらおうと、いそいそと水から這い上がり、女の子の元へ向かう。

 その子は嬉しそうに、到底美しいとは言えない見た目のブッチョを、優しく抱き上げてくれた。

 ブッチョは相手の言葉がわかっても、自分から上手に話すことができない。

 けれど、その子の温かい言葉は、ブッチョの孤独を確かに癒したのだった。


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