39:歓迎会と種族について
寮の部屋に帰ると……何故かもう、薬鍋一式が届いていた。
(配送、早くない!?)
リロは心の中で、驚きの声を上げた。
ちなみに、ミネットの自転車は彼女の個室にある。自動運転機能付きの高級品だし、外には停めないようだ。
リロも箒は自分の個室に立てかけてある。
(今日の戦利品を見るたびに、にまにましちゃう)
授業で空を飛べるようになるのが楽しみだ。
「そろそろ、部屋を出る? 歓迎会の時間が近づいてきたし」
ミネットに言われ、リロは頷く。
「うん。歓迎してもらえるなんて、嬉しいね」
部屋を出で魔法のエレベーターの前へ移動すると、上階から、同じ新入生のミレナとエレナが降りてきた。
二人とも、そっくりな顔で、クリーム色の髪をツインテールにしている。
白っぽいリボンと服を着ているのがミレナ、黒っぽいリボンと服を着ているのがエレナだった。
「歓迎会、楽しみだね」
話しかけると、彼女たちはにこにこ微笑んで「ええ、妖精族にはない文化だから、見ることができて嬉しいわ」と答えた。
「そうなんだ。妖精族って珍しいわよね」
ミネットも会話に加わる。
「そうね。妖精族は、ここではとても珍しいから。この学校?を受験した、受験生も四人だけだったのよ」
ミレナが言うと、エレナも頷く。
「私たちは魔法が得意な種族だから、四人中三人が受かったわ。残りの一人はたぶん……居眠りでもしていたのね」
種族の特性で、アヴァレラ魔法学校の試験は有利だったらしい。
妖精族や魔族、龍族の子たちは大抵、学校へ行かずに日常生活で魔法を覚えてしまう。
そして、彼らの生活圏内から出てこない。
だから、ここへ来るのは好奇心旺盛な変わり者の妖精族ということだった。
(あとの子は、鳥人族とエルフ族だよね。エルフはたぶん、年上だなぁ)
この学校は年齢制限をかけていない。リロくらいの年齢の子が多いが、大人だって通うことができるのだ。
そして、エルフは見た目よりかなり年上のことが多い。校長のクリストファーもそうだ。
(同じ寮だもの、仲良くできたらいいな)
歓迎会の会場は、一階にある食堂のスペースだった。
円卓が三つあり、それぞれ人が座っている。
既に二年生や寮監のジーンが集まっていた。三年生は実習で外に出ており、いないようだ。
(思ったよりも、少人数)
一年生だけでなく、二年生もまた、マーガレット寮への入寮者が少なかったようだ。
こちらも、全部で六人ほどだった。
「お、集まったな」
残りの新入生、セリオスとユイリーは先に来ていたようだ。席に座っている。
(二年生と一年生、二人ずつテーブルに座るみたい)
リロはミネットと一緒に、左端のテーブルに座った。
一緒のテーブルには、男子生徒と女子生徒の二人が座っている。
「それでは、新入生の歓迎会を始めよう!」
女子生徒が言うと、パッと天井の明かりがまぶしくなり、テーブルの上に豪勢な料理が並んだ。リロは目の前の料理を見て目を見開く。
(リオパール家の皆が大好きな……大きなチキンだ)
様々な種族に配慮して、魚や果物や野菜、穀物などもまんべんなく並べられていた。
例えば、肉食の獣人族や人魚族は肉や魚が必須だけれど、エルフ族はヴィーガンだ。
ドワーフ族や人間は雑食である。
そういう意味で、ここは、誰もが楽しむことができる食卓になっていた。
「それでは、まずは自己紹介だ。私は、ジャクリーン! マーガレット寮の監督生だ。種族は見たまま、ハヤブサの鳥人族だ」
二年生の、黒と茶色のまだら髪の女子生徒が話を続ける。三年生がいないため、ここでは基本的に二年生が監督生になるようだった。
ちなみに、監督生は生徒の中から選ばれる、模範的なお兄さんやお姉さんのような存在だ。学校や寮の秩序を守る手伝いをしている。
例えば規律を守るよう指導したり、下級生の世話を焼いたり、率先して教師を手伝ったりするのだ。
続いて彼女の隣の、紺の髪に金色の目の男子生徒も立ち上がった。
「ゲイルだ。同じく監督生をしている。竜族だ」
彼らだけ、胸に白い小さな宝石のバッジを付けている。これが監督生のトレードマークのようだ。
そして、監督生は各寮に二人いるらしい。
「マイカよ。寮の薬草園の管理責任者をしてるわ。ドワーフ族よ」
焦げ茶色の髪を結った小柄な女子生徒が自己紹介すると、隣の淡い水色の髪の、色白な男子生徒も口を開く。
「レドだよ。寮の動物の世話をしているんだ。主に設備の管理ね。あいつらは勝手に入ってきて勝手に生活しているだけだから……ちなみに、僕はクラゲの人魚族ね」
続いて、灰色の短い髪の女子生徒と、赤紫色の髪に角を生やした男子生徒が立ち上がった。
「スフィアよ。寮の伝令係で、モモンガの獣人族なの」
「オルター。寮のイベント係。何もないときは、動物の世話を手伝ってる。もっとも、ここの魔法生物は、レドの言うように、あんまり世話はいらない。勝手に来て、住み着いて生きてるだけだし。勝手に出て行ったりもする……ちなみに俺は魔族な」
様々な種族が揃っている。
そして、寮の魔法生物たちは、したたかでたくましいらしい。
飼われている感じではない。
次は一年生が自己紹介をする番だ。さっそくリロは戸惑ってしまった。
(人間族って言うべき?)
正直に告げるのは怖い。
けれど、どうせお風呂に入ったりしたときに、女子生徒にはバレてしまうと思う。
悩んでいる間にも、新入生の自己紹介は進んでいった。




