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4:森の奥の岩山に捨てられた日2

 西の空に残る光が、山々の輪郭を浮かび上がらせ、夜の闇が徐々に村を覆い尽くしていく。

 冷たい風が肌をかすめ、薄着のリロは体を震わせた。

 怖い。寒い。手首が痛い。


「おとうさん、やめてよぅ……」


 涙を浮かべながら、リロは震える声で必死に訴える。

 ぐしゃぐしゃになった顔で、懸命に父の背を見上げたが、その言葉は彼に届かない。

 父の背中は大きくて、恐ろしかった。

 彼の歩みが止まることはなく、無言のままリロの手を引き続ける。


(ほんとうに……ほんとうに、わたしを、捨てるつもりなの?)


 リロの心は、悲しみでいっぱいになった。

 片手にランタンを持つ父は、黙って村のそばにある森へと入っていく。


 夜の森は、昼間とはまるで違う顔をしていた。

 頭上を覆う木々は、まるでリロたちを飲み込もうとしているかのように見える。

 微かな月明かりさえ届かず、進む先は真っ暗。ランタンだけが頼りだ。


「いやだ……こわい……行きたく、ない」


 リロは足を止め、震えながら父に懇願した。


「暴れるな! クソガキ!」


 荒々しい声とともに、手首をぐいと引かれる。

 痛みに顔を歪めても、抗う力はなかった。踏ん張っても、父の腕力には到底敵わない。

 ずるずると引きずられるようにして坂道を登り、森の奥へと進んでいく。


 どこを歩いているのか、もう方角さえわからない。

 ぬかるんだ土に足を取られて、何度も転びそうになった。

 バランスを崩すたびに泥が跳ね上がり、ボロボロの靴はすっかり濡れて冷えている。


「……ここまでくれば、大丈夫だろう」


 不意に、父が足を止めてそう言った。

 そこは森の奥にある、岩がごろごろと転がる急斜面だった。

 背の高い草が生い茂り、開けた空間が広がっている。


 ランタンの明かりに照らされたその場所が、あまりに静かで、リロは小さく息を呑んだ。

 空を仰ぐと、巨大な銀色の月が姿を見せていた。

 丸い月の手前には、小さな黒い影が浮かんでいる。


(あれはなんだろう……島……みたいに、見えるけど……)


 思わず目が奪われ、意識が空へと向かっていったそのとき――。

 がさごそと、少し離れた草むらがざわめいた。何かが近づいてくる。

 父親がハッと身を強ばらせた。


「獣か……?」


 低く呟いたその声には、焦りが滲んでいる。

 次の瞬間、父は踵を返し、来た道を引き返そうとした。


「えっ……? おとうさん、まって! 置いていかないで! こわいよ!」


 恐怖に突き動かされ、リロは必死に手を伸ばした。小さな手で父の裾にすがりつく。

 しかし、強い力で振り払われた。


「黙れ! ついてくるな!」


 次いで、強い力でドンッと肩を突き飛ばされる。


「あっ……」


 体が仰向けに傾ぎ、バランスを崩したリロは、背中から地面に叩きつけられた。

 運の悪いことに、そこは巨大な岩が並ぶ急斜面だった。

 リロの身体はずるりと滑り、岩肌をゴロゴロと転がり始める。

 掴めるものはない。手を伸ばす余裕もない。

 恐怖から、リロは叫び声を上げた。


「お、俺は知らないからな!」


 頭上にいる父親は、言い訳するように怒鳴り、そのまま来た道を逃げ帰っていく。


 リロは坂を転がり続け、やがて斜面の先にある灌木の茂みに突っ込んだ。

 その拍子に、ゴツンと地面に頭を打ちつけてしまう。

 強い衝撃で、リロは意識を失ってしまった。


可哀想なお話はここまで。

これから、リロは幸せになります。

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