38:魔法島の街で買い物4
次の目的地、「ミスト横町」は、雑貨などの店が多くあるエリアだった。水路から霧が吹き出している。
この街には水路がたくさんあった。「風待ち通り」や「ふわり横町」でも、道の端に水路が流れていた。どういう仕組みか、リロにはわからないけれど、この水路は魔法具のエネルギーの供給源でもあるらしい。水の中に魔力でも流れているのだろうか。
鍋の店はいくつかあるみたいだが、リロは店選びをミネットに任せている。彼女のほうがいい店を知っているので。
「私ね、普通に買い物がしたくて、お店をいっぱい調べてきたのよ!」
ミネットは鼻息荒く自転車を漕いで、目的の店へ向かっていた。ミスト横町の真ん中らへんに、「薬鍋店もくもく」という店があった。
「ここよ! ドワーフの店じゃないけど、可愛い鍋がたくさんあるの!」
リロは意気込むミネットに続く。
「こんにちはー……」
カランカランとベルが鳴る扉を開けると、店の中にはカラフルな鍋がたくさん置かれていた。とってもおしゃれだ。
奥から、獣人族のお姉さんが出てくる。彼女がここの店主のようだ。
白兎の獣人のようで、頭の上に長い耳がついている。
「いらしゃい、今年の新入生かしら? ゆっくり見ていってね」
ミネットは早くも、目を輝かせながら、ハート型の鍋のほうへ早足で向かっている。
授業で使う鍋は、少し大きめで、リロが両手で抱えるくらいの大きさがある。
「初心者だと、この辺の鍋が……癖がなくて使いやすいわよ~」
リロは教えてもらったあたりで探すことにした。花の形や、猫の顔の形、魚型の鍋もあって興味深い。
「私は普通の形の鍋がいいな……あ、これ、マーガレットの花だ」
透明な本体に小さなマーガレットの柄が一周ぐるりと描かれている鍋があった。透明だと、実験の時も中が見やすそうでいい感じだ。
「これにしようかな。あ、マーガレットのお玉もある。保管瓶も……全部、一般的な形みたい」
こっちも、固くて透明な素材で、持ち手の一番上の部分にマーガレットの花が描かれていた。シリーズもののようで、ラベンダーやミントの柄、ひまわりや薔薇の柄もある。
でも、せっかくマーガレット寮なので、リロは最初に選んだマーガレットの柄の一式にすることにした。
ミネットは、紫色のハート型の鍋と、金色の柄が細いお玉、香水瓶のような凝った作りの保管瓶を買いそろえていた。彼女が選ぶものは面白い。
「あら、二人とも、いいチョイスね。新入生は寮まで道具を届けるサービスがあるの。寮の名前を教えてくれたら送っておくわよ?」
リロとミネットは顔を見合わせた。送ってもらったほうが、鞄の容量は空くので助かる。
「お願いします。二人とも、マーガレット寮です」
「あらぁ、私もマーガレット寮の出身なのよ。昨年卒業したばかりなの、後輩に会えるなんて嬉しいわねえ。サービスで瓶をもう一本付けてあげるわ、どうせ使うことになるから」
「やったぁ!」
リロたちは喜んでお礼を言って、店を後にした。いい買い物ができた。
「次はスコップよ! はす向かいだわ」
今度はとても近くに次の店があった。
小さな公園のような場所に、蔓に覆われた温室のような店が建っていて、「ナフィー園芸店」と書かれてある。周りをカラフルな鳥が飛び回っていた。
こちらも、「スカイ・ギア」と一緒で、自分で回るスタイルの店のようだ。
入ってすぐ、「新入生セット」という名前の商品が置かれている。魔法スコップ・魔法種子セット・軍手・作業着・作業靴などがまとめて置かれていた。
一式がセットになったものもある。
「リロ、せっかくだから、セットじゃなくて自分で選ばない?」
「うん、そのほうが可愛いのがありそうだね」
リロは青いつなぎと、白いリボンが可愛い麦わら帽子、白いシャツ、黄色の軍手と長靴を選んだ。スコップは白だ。店の人に話を聞き、同じ色のシャベルとジョウロとバケツも揃えた。少し授業が進んだら、使うことになるらしい。
ミネットは紫のつなぎとグレーの布の帽子、白いシャツ、グレーの軍手と長靴を買っていた。彼女もスコップのほかに、シャベルやジョウロ、バケツを揃えていたが、全部金色だった……。
お会計を済ませていると、薄紫色の髪の男の子が店に入ってきた。
(あ……あの子だ)
なんとなく、お互いに目が合う。
彼には、豹獣人ではないことがバレてしまっているので気まずい。
「こ、こんにちは……」
リロが声をかけると、男の子も「ああ」と適当に答える。
「……お前、やっぱり受かったんだな」
「あなたもね」
「寮はどこだ?」
「マーガレット寮だよ」
「ふぅん。俺はダリア寮」
男の子は無造作に、セットになっている商品を手に取り、会計の列に並んだ。道具の色や形に興味はないらしい。
「わ、私、リロ。こっちは、ミネット。授業で一緒になるかもしれないから、よろしくね」
「……エリゼだ。クラスは二つあるみたいだから、同じとは限らないけどな」
やや、つっけんどんな態度だが、今まで見た彼はいつもこんな感じだった。特に悪気はなさそうである。
そのまま、会計を済ませ「じゃあね」と店を出た。
「ちょっと、リロ。あの子と知り合い? たしか、飛行船で大臣の息子たちを一瞬で倒した子よね……」
「実技試験で、一緒だったの。あと、偶然あの子にフードの下を見られて……獣人じゃないってバレちゃった」
「ええっ!? まずいんじゃないの?」
「人間だとまではバレていないと思うよ。でも、学校で暮らしていくなら、いずれ皆にもバレちゃうかもしれないけど……」
「そ、それはそうね。でも、何があっても、私はリロの味方だから」
「ありがとう、ミネット」
「歓迎会に遅れたら嫌だし、そろそろ戻りましょうか。教科書は、また今度」
「うん、そうしよう」
帰りも一緒に自転車に乗り、ミネットのチャームの機能を楽しみながら帰った。
階段は大変なので、少し回り道をして、学校の前の坂道を通って寮まで戻る。
ミネットの自転車が自動運転機能付きだったのと、チャームに軽量化機能を持つものがついていたので、リロたちはそれほど苦労せずに坂道を登り切ることができたのだった。




