37:魔法島の街で買い物3
近くの屋台で縦長のパンに挟んだサンドイッチを買い、近くの広場に出て噴水の縁に座りながら、次に行く店を決める。
ミネットは初体験の、屋台でのごはんに目を輝かせている。
「ごめんね、リロ。まさか、合う魔法媒体が見つからないなんて」
「ミネットが謝ることじゃないよ。自分でもいろいろ店を回ってみるね。数を打てば、合う媒体が見つかるかもしれないし。次は……飛行魔法の媒体かな」
「リロは何にするか決めた?」
「うん、箒だよ。お兄ちゃんが飛行ボードを持っていたけど、座って乗る方が好きだし。それに箒のほうが軽いでしょ? ミネットは?」
「私は自転車。実はもう発注していて、この先の店に取りに行くだけなんだ。だから、リロの箒を見に行こう」
「いいの?」
「箒にも興味があるから。箒は腕輪や指輪みたいに、持ち主を選んだりしないから、きっといいものが見つかると思うよ」
近くのオーダーメイド自転車店でミネットの自転車を引き取り、その足で箒の店に向かう。
街の中心に、飛行魔法の媒体を扱う専門店があるそうなのだ。
大きな店で、箒や飛行ボードなど、様々な道具が一緒に置かれているらしい。
「私の自転車に乗っていこう。空はまだ飛べないけど、地面なら走れるわよ」
……というわけで、リロはミネットの自転車の後ろに乗せてもらい、飛行媒体の専門店へ向かうことになった。
予定よりも早く着いた飛行魔法の専門店は、「星影通り」を通り過ぎて、さらにいくつかのエリアを通った先にあった。
全面がガラス張りの、四角く背の高い建物で、なんだか新しそうである。
「ここが、魔法島で一番大きな飛行魔法の媒体を扱う店『スカイ・ギア』よ。ここなら、リロの飛行媒体だって、見つけやすいはず!」
ミネットが説明してくれる。
中に入ると、ほかにも新入生たちがいて、それぞれ飛行媒体を選んでいた。
もちろん、この店にも、拡張魔法が使われている。商品置き場の手前の、光るタイルを踏むと上昇できる仕組みらしく、上の方に浮かんでいる人もいた。
(面白い……)
店員さんはいるけれど、自分で自由に見て回るスタイルのようだ。
手前には飛行ボードと、自転車とボードの間ような乗り物がある。ボードにハンドルと座席がついているのだ。
表示を見るとスクーターボードと書かれていた。
(わあ、格好いいな。あ、傘もある……傘って乗れるんだ……風船もある)
店の中全部が、とても興味深い。
「ええと、箒のコーナーは……あった」
奥のほうに様々な箒が並べられている。素材や機能などの商品説明もあった。
「リロはどんな箒にする?」
「うーん、軽くて早いやつかな。あと、大きすぎないものがいいかも」
「そうだね。私たち、あまり背が高くないもんね」
リロはじっくり上から下まで、箒を見ていく。ミネットもタイルを踏んで、登ったり降りたりしながら遊んでいた。
しばらくして、リロはめぼしい箒をいくつか見つけた。
そのうち、一番気になっている一本を手に取る。
その箒には「スノー・ウィッチャー」という名前がつけられていた。全体が白くて軽くて、雪林檎の樹でできた箒の柄の先には、宝石のオパールのような綺麗な石がはめ込まれている。ミシュ石という魔法島で採れる石で、暗くなると前方を照らして、明かり代わりになるらしい。
箒の部分も流れるようなきめ細かい、白い素材が使われていた。銀白樹の小枝を滑らかに加工したものらしい。お値段を見ても、リロでも買えそうな一般的な箒だ。
機能の説明には、「軽くて早い、安定性も抜群。花びらのような、アクロバティックな飛行も可能」……と書かれている。
自力で飛べないので、近くにいた店員のお兄さんに声をかけ、魔法の力を借りて試し乗りしてみる。新入生用に、そういうサービスがあるのだ。
箒はふわりと浮かんで、リロを乗せてすいすいと軽く舞い上がった。いい感じだ。
「これにします!」
リロは即決した。
着地したリロの箒を、店員が受け取る。
「ありがとうございます。こちら、チャームはつけますか?」
「ちゃーむ?」
初めて聞く言葉に、リロは首を傾げた。
「ギアに付ける飾りのことです。あ、ギアっていうのは飛行媒体の本体のことでして、お客様の場合は箒になります」
「なるほど……見てみていいですか?」
「もちろんです。チャームを付けると、より耐久性が増したり、飛行が安定したり、個性を出せたりしますよ?」
チャームが置かれている場所へ案内してもらう。すると、先にそこに移動していたミネットが、いろいろなチャームを手に取って楽しんでいた。
「あ、リロもチャームを付けるの? これ、可愛いわよねえ。大きな効果はないけど、私も自転車に付けようと思って……」
そう言って、たくさんの可愛いチャームの束を、じゃらりと見せてくれる。キラキラの石を連ねたものだったり、熊の人形だったり、紫の羽根飾りだったり……全部派手だ。
(大人買いだ……)
とりあえず、自分は一つか二つにしようと思うリロだった。チャームもたくさんあるので、一つずつ見ていく。
(これ、可愛いかも)
小さなケサランパサランみたいな、白いぼんぼりの飾りが五つくらい連なっていて、間にキラキラした透明の石がはめ込まれている。箒の柄に巻くタイプみたいだ。
(ええと、機能は……)
説明を見ると、そこには「気温の影響を軽減」と書かれていた。便利そうだ。
もう一つは、ピンク色のキラキラした大きめの石だ。高価な石ではなさそうだが、キラキラ光るようにカットされていて、ベルトで箒の柄にカチッとはめるタイプだった。
(性能は、『魔力を流すと箒が光り、後ろからキラキラしたピンク色のエフェクトが出る』)
役に立つかと言われれば微妙だけれど、明かりの補強になるし楽しそうではある。
チャームをたくさん買うミネットの気持ちがわかってしまった。
二つだけにしようと思っていたけれど、一つ、気になるものを発見してしまう。
「雪豹のぬいぐるみだ」
水色の瞳の、小さな箒にくっつけるぬいぐるみだった。
(こ、これは、絶対に買う! 機能はなんでもいいや)
それでも一応確認してみると、「雨や雪から乗り手をガードする」と書かれていた。機能も申し分ない。
リロは、この三つを買うことにした。お店の人が買った箒の柄に付けてくれる。
(嬉しいな、私の箒……)
チャームを付けているから、一目で自分のものだとわかる。
「たくさん乗って、楽しんでね。ありがとうございましたー!」
元気なお兄さんの声に見送られて外へ出ると、ちょうどミネットが自転車にチャームを付けているところだった。前籠の周りがじゃらじゃらになっている。
「すごく派手だね、ミネット」
「うふふ、可愛いでしょ? 乗り手の声を響かせるものと、後ろから煙を出すものと、歌い出すものと、いい匂いのするものと、泡が出るものと……」
機能も充実しているようだ。リロの買い物だったが、ミネットも楽しんでくれているようで、よかったと思う。
「さて、リロ。次は製薬用の鍋と、スコップと……全部、近くで揃えられるわ」
ミネットの自転車に乗って、隣のミスト横町に移動する。
リロの箒は、拡張機能付きの鞄に押し込んだ。
さっそくチャームが活躍し、自転車は楽しい音楽やお菓子のような甘い香りやシャボン玉を振りまきながら、街中の細い道を走る。リロは、自分も少しずつチャームを集めたいと思った。




