36:魔法島の街で買い物2
「ここが『星影通り』よ。小さいけれど、高い技術を持った、職人の店が多いの。私が行きたかった店は、あそこ」
リロはミネットが指し示す先を見る。
そこには、アンティーク風の看板を掲げた、上品な店があった。「ダスク装飾品」と書かれている。いかにも老舗っぽい雰囲気だ。
「ここの店は高い技術を持っているの。ドワーフ族の職人の鑑よ」
「ドワーフ族は手先が器用な人が多いんだよね。その中で職人の鑑と言われる人って、すごそう……」
「ええ。ここには私の親戚たちも、お世話になることが多いのよ」
ミネットは、誇らしげに目を輝かせる。リロは彼女の後に続き、店の中に入った。
「こんにちはー!」
「こ、こんにちは」
おそるおそる入店し、中を見回す。すると、たくさんの腕輪が並べられていた。王道の金色や銀色や銅色、シックな黒や白、カラフルなものもある。
(これ、全部魔法媒体なのかなあ? サイズもたくさん……)
店の奥では、店主と思われる、ドワーフ族のおじいさんが一人、椅子に腰掛けていた。入ってきたお客を見て、目を見開く。
「おお……これは、ミネット様。入学されたとお聞きしていましたが、まさか店に来てくださるとは」
店主は感激した様子で立ち上がり、リロたちのところまで歩いてくる。
(ミネット、有名人……)
ドワーフ族たちの間では、彼女の顔は、よく知られているのだろうか。思っていたよりも、かなりすごい子なのかもしれない。
「学校の授業で、あなたの魔法媒体を使いたいの。いい腕輪を選んでくださる?」
ミネットがお嬢様モードになっている。これが、彼女の外向けの顔なのだろう。
「もちろんですとも。そちらの方は、お友達ですかな?」
「そうよ、リロと言って、大事なルームメイトなの。この子のぶんもお願いするわ」
「かしこまりました。それでは腕輪からご案内しましょう。こちらへ……」
店の中に階段があり、そこを登っていく。すると広い空間に出た。
(ここも、拡張魔法が使われているんだ……)
広い空間の中にはたくさんの棚と鑑があり、一階よりもさらに多く、様々な腕輪が並べられている。
「サイズはこちらで調整します。まずはミネット様、こちらへ……」
店主はフロアの中央にある、水晶のような透明の石でできた台の上にミネットを案内する。台の高さは、階段一段分くらいだ。
「専用の鑑定台です。こちらで、ミネット様に合う魔法媒体を決めていきます」
どういうことだろう、とリロはミネットたちを観察する。
ミネットが段差を上がって台の上に乗ると、彼女の周りを透明な壁が囲み、白い光を放つ。
すると、棚に置かれていた腕輪のいくつかが、同じ白い光を放ちながら、台から浮かび上がった。そうして、ミネットの周りに集まってくる。全部で八個くらいだ。
「ミネット様に会う腕輪は、この中の八個のようですな」
透明な壁が消え、ミネットの周りをくるくる回る腕輪たち。
しかし、一個、また一個と腕輪たちが戻っていく。
残ったのは一つ、紫の石の嵌まった金色の腕輪だ。両サイドにたくさんの葉が生えているようなデザインである。
「ふむ、最も相性がいい腕輪はこちらですな。この腕輪がミネット様を選びました」
ミネットは、そっと腕輪に手を伸ばす。そして、その腕輪を手に取り、腕にはめてみた。
シュルット腕輪が伸縮して、彼女の腕にぴったりのサイズになる。
「わあ、私、紫色が好きなのよね」
嬉しそうな表情で、ミネットが言った。
(こんなに早く決まるんだ……)
驚きながら見ていると、次はリロが台に立つように言われる。ドキドキしながら、ミネットと入れ替わりでリロは台に立った。
先ほどと同じように、透明な壁が出てくる。しかし……。
シーン……。
何も起こらない。どの腕輪も浮かんでこないし、集まってこない。
(私、どの腕輪にも選ばれていないってこと……?)
リロは地味にショックを受けた。
店主は首を傾げている。
「おかしいですなあ、こんなことは、今までに一度もなかったのですが……」
そうして少し考え、リロに告げた。
「リロ様。指輪を試してみませんか?」
「指輪?」
「ええ、気難しい性質のものが多いのですが、もしかすると、合うものが見つかるかもしれません」
「わ、わかりました。お願いします」
リロは指輪も試してみることにした。もう一つ上のフロアへ行くと、今度はたくさんの指輪が置いてあった。同じように、真ん中に台もある。
再び台の上に立つが、またしてもシーンとなり……指輪は一つも反応しなかった。
「なんと、指輪も反応なしとは……」
店主は台が故障していないか確認したが、特に異常はない様子だった。
ひとまず、ミネットの腕輪の説明だけしてもらうことにする。
「金をベースに、中にはスカイキャットの髭、外には葡萄石と苺石の飾り。魔力が高い方向けのお品です。安定した魔法を使いやすくなるでしょう。また、持ち主にも馴染みやすい性質です」
腕輪一つ一つ、全て性質が違うようだった。
「ありがとう、いい買い物ができたわ」
「こちらこそ、私の店を選んでいただき光栄です」
笑顔の店主。しかし、彼は申し訳なさそうにリロを見る。
「こんなことは前代未聞ですが、あなたに合う商品をお出しできなかったことが痛恨の極みです」
リロは慌てて答える。
「えっと、大丈夫です。気にしないでください」
もしかすると、リロが人間だから、合う魔法媒体がないのかもしれない。そうだとしたら、それは店のせいではない。
店主に挨拶し、ミネットと連れ立って店を出る。
まだ昼前なので、残りの買い物をする時間はありそうだ。




