34:マーガレット寮の部屋2
とっても素敵な空間が広がっていた。
白を基調とした部屋の天井は高く、窓辺にはキラキラしたサンキャッチャーがある。
まだ明かりは灯っていないが、天井の近くには、小さなランタンがたくさん浮いていた。中央にはシーリングライトもある。
(わあ、すごい。可愛い)
湿度の調整をしているのだろうか、もくもくした雲のような魔法具が天井をふわふわと移動している。
窓辺には二人がけのテーブルセットがあって、それとは別でソファーも置かれている。そこにはもふもふした新品の白いクッションが、二つ置かれていた。端には簡単なキッチンもある。
壁の両側には二つの扉がついていた。
「これはなんだろう?」
リロが開けると、ベッドが一つ置かれている部屋があった。
「なるほどね。個人用の空間もあるんだわ」
ミネットが頷く。
もう一つの扉を開けると、そちらにもベッドが一つ置かれていた。
「リロはどっちの部屋がいい?」
「どっちでもいいよ。中身は同じだし」
「それじゃ、私がこっちにするわね。私もどっちでもいいんだけど」
入って右の扉の個室がミネット、左の扉の個室がリロ用になった。
個室にはベッドのほかに勉強用の机やクローゼットもあった。スペースに余裕があるので、残りは自分の好きなものを置けそうだ。
思っていたよりも、ずっと綺麗な部屋だった。
リロは大きな鞄を個室の部屋に置いた。この中には、家から持ってきた生活用品がたくさん入っている。
「ねえ、リロ~」
扉の向こうから、ミネットの呼ぶ声がする。
「どうしたの~?」
「ジーン先生からもらったリスト、確認した~?」
「今から見るよ~」
リロはリストを手に取り、ベッドのある個室を出る。
そして、二人がけのテーブル席へ移動し、丸い机の上にリストを置いた。
そこには、授業で必要な教科書や道具が書かれている。
授業が始まるのは、一週間後だった。それまでに、道具を全部準備しないといけない。
本当は両親のお古がないか期待していたのだけれど、自分で選んだほうがいいと言われてしまったのだ。ありがたいことに、標準的な道具を買い揃える程度の、お小遣いはもらっている。
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<授業までに準備する持ち物>
■道具
・通常魔法の媒体(杖、小刀、指輪、腕輪など)※あれば魔法が安定する
・飛行魔法の媒体(箒、ボード、二輪車など) ※あれば飛行が安定する
・製薬魔法の道具(小型鍋・おたま・保管瓶)
・魔法植物用道具(魔法スコップ・魔法種子セット[軍手・作業着・作業靴推奨])
■必須の教科書
・初級魔法大全
・基礎魔法学(「初級編・中級編」・「自分にかける魔法」)
・魔法歴史学(「魔法の歴史」・「各種族の記録」・「古代魔法の考察」)
・魔法生物学(「身近な魔法生物」・「魔法海獣語辞典」・「魔法陸獣語辞典」・「魔法鳥獣語辞典」・「魔法生物から身を守る方法」)
・魔法植物学(「魔法植物を育てよう」・「魔法植物活用術」・「魔法植物図鑑」)
・魔法製薬学(「日常的に使う薬」・「薬の材料図鑑」・「応用魔法薬に挑戦」)
・魔法工芸学(「初級魔道具を作ってみよう」・「付与魔法いろいろ」)
・魔法体育学(なし!)
■その他 一年生用、おすすめの本(任意)
「魔法占い図鑑」・「魔法を使ったお菓子」・「魔法の香水を作ってみよう」・「結界で身を守ろう入門編」・「使い魔と仲良くなろう」・「はじめての魔法音楽」・「覗いてみよう魔法島の内部」・「魔法料理基礎の基礎」・「簡単、魔法のテラリウム」・「初級魔法でキャンプ」・「魔法ギルドに行こう!」
<お知らせ>
三日目には男性、四日目には女性の寮服、体操服の採寸があります。
該当する日に講堂に集まってください。以上。
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なんだか、見るだけでわくわくする。
(持っているものもあるけど、ないもののほうが多いかな)
リストを確認していると、制服のローブを脱いだミネットがやってきた。
「ねえ、歓迎会が始まるまでの間……一緒に買い物に行かない? 私、魔法島のお店の場所は、少しだけ知っているの」
「行きたい!」
「歓迎会は夜からよね。全部を一日で回るのは無理だから、今日は道具を見に行きましょう! いいお店を知っているの」
「うん。すぐ用意するね!」
リロはいそいそと個室に戻り、制服のローブを備え付けのクローゼットにしまい込むと、ヌタタウルスの鞄の中から、小さめのポシェットを取りだした。小さいけれど、拡張魔法がかかっているので、ある程度のものは入る。
「あ、そうだミネット」
リロはポシェットの中から金色のカードを取り出して、テーブルに戻る。
「これ、なんだかわかる? 前にミネットのお付きの人がくれたんだけど……」
カードを差し出すと、ミネットは目を丸くした。
「ああっ、これ……あいつらったら……」
ミネットは、ため息をついて、躊躇いがちに答えた。
「なんて説明すればいいかしら……。えっと、魔法島のドワーフ族が経営する店で、お得に買い物ができるカードよ。ちょっと値引きしてもらったり、一見さんお断りの店に入れたりするわ」
よくわからないが、すごいカードのようだ。
「うん、リロは持っていたほうがいいわね。今から行く店もドワーフ族の店だし」
言うと、ミネットは髪を掻き上げて耳飾りをシャランと鳴らした。
すると、個室のほうから白い上品な鞄とつばの広い帽子が飛んでくる。
「すごい」
「これは呼び出しの魔法がかかったイヤリング。そうね、せっかく買い物するんだから、リロも必要な道具以外に、気に入ったものも買ったらいいんじゃないかしら。魔法島には、面白いものがたくさんあるから」
帽子を被り、鞄を手に取ったミネットは、とてもおしゃれだ。洗練されている。
「うん。いいものがあれば、お小遣いの範囲で買うよ」
「じゃあ、まずは、通常魔法の媒体から……リロは何を媒体にするの?」
「まだ決めてない。ミネットは?」
「私は腕輪ね。杖は王道だけど、なくしちゃうかもしれないから」
リロも同じことを思った。いざというときに、探し回る羽目になるのは困る。
「前に本で読んだけど、どの媒体も性能に違いはないんだよね」
「そうねえ、杖や小刀は対象を指し示しやすいから初心者向けだけど……慣れれば全部一緒よ。うちの大人たちが、そう言っていたわ」
「そっかぁ。じゃあ、ミネットと一緒に腕輪を見てみようかな」
「決まりね! そのお店、指輪も置いているから、いろいろ試してみたらいいと思うわ」
リロはミネットと一緒に、元気よくマーガレット寮を飛び出した。




