33:マーガレット寮の部屋
マーガレット寮の寮監であるジーンは、銀色のふさふさした尻尾と、同色でピンと立った三角の耳を持っていた。髪は少し長めで、後ろで一つに結んでいる。年齢は二十代前半くらいで瞳は空のような水色だ。
「はじめまして~。俺は、マーガレット寮の寮監で魔法生物学担当のジーン・ミストラル。帝国の北にあるハッシュ王国出身で、狼の獣人な~」
簡単に自己紹介をしたあと、ジーンは生徒たちに向かって告げた。
「んじゃ、行こうか~。めんどいから、転移しようぜ」
言うやいなや、リロたちの周りの空間がぐにゃっと歪む。
気づけばリロたちマーガレット寮の新入生とジーンは、知らない真っ白な建物の前に立っていた。
「あ、うちの寮、ほかのところと少し違うから、ビックリするかも~。ま、慣れだ慣れ」
「……?」
目の前にそびえるマーガレット寮は、真っ白な円柱形の壁にレモン色の円錐形の屋根が乗った、大きくて可愛らしい建物だった。高さは十階くらいありそうだ。
(どちらかというと縦長の建物だし、中は、たぶん……拡張魔法でいじっていそうだなぁ)
そんなことを考えていると、ジーンが両開きの寮の扉に手を触れた。すると扉が光る。
「皆も触れて」
言われるがまま、リロ立ちは扉に触る。すると、手のひらが一瞬ピカッと光った。
「はい、登録完了。防犯上、ここはマーガレット寮に所属している人しか入れない。これからは自分で扉を開けられるから~」
そして、ジーンが扉を開けると、中から大量のフクロウが、バサバサバサーッと、飛び出してきた。「ホホーウ」と鳴きながら、新入生の頭上を飛び回っている。
さらに、栗鼠のような小型の魔法生物もたくさん走り出てきて、皆の足と足の間を駆け回っていた。胡桃ホッペという種類で、各地の森にたくさん暮らしている。
胡桃ホッペはたいへん味がまずいらしく、フクロウは彼らを襲わない。
「あ~、これな、魔法生物たちの歓迎の挨拶だから。うちの寮、魔法生物だらけなんだわ。いつの間にか住み着いちゃって、皆、すっかり寮の住人のつもりでいる……まあ、気にしないでくれ」
無理じゃないかなと思いながらも、リロはウキウキしていた。魔法生物は好きなのだ。
カサカサ駆け回る胡桃ホッペを踏まないように気をつけながら、リロたちは寮の中に入った。寮の中は広く、部屋を大きくする拡張魔法が使われていた。
「今日は歓迎会だ。三年生は留守でほぼいないが、二年生は大体揃ってる。授業開始までに、必要なリストを配るから、入学式までに揃えておいてくれ。全部、魔法島内に売っている」
玄関ホールでジーンが言うと同時に、リロたちの目の前にリストの紙が現れた。慌てて手を伸ばして受け取る。
「そんじゃ、簡単な寮内の案内な。一階はホールと風呂と洗濯場と、魔法生物の居住区。二階は食堂と談話室と魔法生物の居住区。あ、談話室は偶数階に設置されてるからな~。そんで、三階以上が生徒の部屋と魔法生物の居住区だ。購買は一階と五階だ。十階は自由なスペースだ」
建物の中は全部、魔法生物の居住区のようだ。
(この寮に決まった人は、そういうのが平気な人ばかりなんだろうなぁ)
どうりで、六人しかいないわけである。
「まあ、ここにいる大抵の魔法生物は害のない奴だから、適当に仲良くやって。地下にいるのはちょっと凶暴だから、慣れないうちは近づかない方がいいかもな~」
さりげなく、怖い情報を告げられる。
「部屋は二人部屋。同室はミレナとエレナ、リロとミネット、セリオスとユイリー」
リロとミネットは、顔を見合わせて喜んだ。
ミレナとエレナは妖精族の双子で、セリオスは鳥人族、ユイリーはエルフ族のようだ。様々な人たちが集まっている。
一通り案内され、各自の部屋に向かう。リロたちの部屋は八階だった。偶数階なので、部屋を出てすぐに談話室がある。
三階から六階は男子、七階から九階は女子と、階によって別れているようだ。どちらともつかない性別の子は、六階や七階あたりに振り分けられるらしい。
八階の談話室には、なんと噴水があり、廊下を水路が流れている。水の中にはもちろん、魔法生物がいた。噴水や水路などの設備、談話室や廊下などは全て魔法で常に浄化されているようだ。とても水が澄んでいるし、フンなども一切ない。ものすごく綺麗だ。
窓も多く、どこからか、フレッシュな風も吹いてくる。
歓迎の挨拶なのか、魚がビチビチと跳ねたり、水鳥がグワグワ言いながらあとをついてきたりした。
「私たちの部屋の中も見てみましょう」
そう言って、ミネットがドアを開ける。すると……。




