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拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す  作者: 桜あげは 


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31/60

30:魔法学校からの帰り道2

 飛行ボードはゆっくり空へ上がっていく。


「人間の耳、見られちゃった……」

「……だな。あれは仕方ない」


 ロバートにも、上から様子が見えていたようだ。


「まあ、はっきり見られたのは一人だけだし、なんとかなるだろう」

「そっか」

「でもな、リロ。魔法学校へ行くなら、人間だと言うことを、ずっと隠し通すことはできないぞ。いずれバレる」

「……うん」


 その通りだったので、リロは静かに頷く。

 それは、家族でも話し合っていたことだった。

 入学試験のときは、できるだけ獣人のふりでやり過ごすことは決めていたけれど、入学後のことに関しては、自分で決めていかなければならない。

 一生、カドの町に引きこもって生きていくのでなければ、覚悟しなければいけないことだった。


「戸惑うことも、嫌な思いをすることも、あるかもしれない」


 飛行ボードは、ある程度の高さまで上昇すると、ゆっくり前へ進行し始める。


「……でも、それでも、魔法学校に行きたいって決めたのは私。大丈夫だよ、ありがとう、お兄ちゃん。なんとか、やっていくから」

「いつも傍で、俺がリロを守れたらいいのに」


 ロバートの次の学年は、三年生。これから、実習がメインになる。

 実習の多くは、アヴァレラ魔法学校、ひいては魔法島の外へ出るそうだ。ロバートも例外ではない。

 せっかく一緒の学校に通えたのに、バラバラになるのはちょっと寂しい。


「あ、そうだ、リロ。お菓子食べる? ほら」


 言うと、ロバートは鞄から飴の包みを一つ取り出し、リロに差し出した。


「魔法島で買ったんだ」

「わあ」


 キラキラした包み紙には、可愛い黄色の花の絵が描かれている。

 リロはさっそく包みを開いて、まん丸のつやつやした、オーロラ色の飴を口へ放り込んだ。ふんわりした優しい甘さが、口の中に広がっていく。


(わあ、おいしい)


 しかし、次の瞬間、リロの口の中がぶわっと膨らんだ。

「……!?」


 口を閉じていられなくなり、慌てて口を開けると、リロの口の中から次々に、ポンポンポンッと黄色の花が飛び出した。飛び出した花は空中に浮かんで、上へと浮上している。

 ロバートの肩に乗っているキキが、楽しそうに手を伸ばし、花を捕まえようとしていた。


(あ、この花、列車から見えたやつだ。空中に浮かぶ、謎の花)


 驚くリロを見て、ロバートが笑う。


「風船花の飴玉だよ。嘗めている間、花が口から飛び出し続けるんだ」

「ひゃべへふぁい(喋れない)」


 魔法島には、面白いものがたくさんあるようだ。ロバートは笑いながら飛行ボードを加速させる。途中で魔法生物や、空飛ぶ自転車に乗った人や、箒に乗った人とすれ違った。

 下を見ると、ロバートの飛行ボートと並行して列車が走っている。


「追い抜かすぞ」


 ロバートはさらに速度を上げた。


「そんなに早く飛んで大丈夫?」

「平気、平気。俺、飛行は得意なほうだから」


 列車を追い抜かしたロバートは、スピードを緩めずに飛行船の駅を目指す。彼の肩の上ではキキが「キャッキャッ」と喜びの声を上げた。

 徐々に空の色が暗くなってくる。

 しかし、雨が降る前にロバートの飛行ボートは飛行船の駅の上空にさしかかった。


「ほら、ついたぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 飛行ボードが安定した速度で降下していく。

 リロはほかの受験者たちより一本早い飛行船に乗れそうだった。


「じゃあな、リロ。父さんと母さんによろしく言っといて」

「うん! お兄ちゃん、実習応援してるね」

「任せろ!」


 話す口調も内容も、たくましくなった兄はにかっと微笑み、リロを見送る。

 リロは兄に手を振りながら、飛行船のタラップを目指した。往復切符なので、切符売り場に寄る必要がないのだ。

 帰りの飛行船は静かで、リロはロビーを散策したり、レストランや売店を覗いたりしながら空の旅を楽しんだ。


 帝国の駅に着いてからは、急ぎ足で川を目指す。魔法島だけでなく、こちらでも雨が降りそうだった。

 川へ行くと、行きと同じ川クジラがウロウロしていた。声をかけると大喜びで寄ってきて、リロを乗せてくれる。

 帝都観光を楽しみ、川クジラも満足できたようだった。


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― 新着の感想 ―
今回も面白かったです。 登場人物の名前を覚えるのが苦手な私でも試験の話がスッと頭に入ってきました。
川クジラくん、観光しつつリロが戻ってくるのを理解しているって、頭いいなぁ 会話もできるわけだし、水槽などで自分と水を持ち運べれば学校が良いもできるよね
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