29:魔法学校からの帰り道
終了の鐘が鳴ったので、リロは周囲を見回した。
ケサランパサランを十匹以上捕まえてきた人は、僅かだった。
(でも、加算点があるらしいし、ほかにも合格者はいるかもしれないな)
実のところ、実技試験は少し不安だったけれど、なんとかなったよかった。
「実技試験はここまでだ。皆、よく頑張ったな! 合否判定は後日、郵送で知らせることになっている。それでは、解散!」
カルボンから退出していいと言われたので、リロは新たに植物園に現れた門をくぐる。
すると、今度は学校の門の外に出た。
周りにも生徒がいる。
一度に飛ばしてしまうと混雑するからか、移動先は数カ所設定されているようだった。門を入った先に転移している人もいるし、校舎のほうからも声が聞こえてくる。
(うーん、帰ろっか)
帰り道もまた混むだろう。
今日は宿に宿泊する予定はないので、暗くなる前に川クジラに乗ってしまいたい。リロは駅に向かって歩こうとした。
そのとき、突然後ろから声をかけられる。
「おい」
「……ん?」
振り返ると、飛行船や実技試験で見た、薄紫色の髪の男の子がリロをじっと見ていた。
彼もまた、リロと同じ場所へ飛ばされたようだ。
「あんな試験の突破方法、初めて見た」
「え、お米を使ったこと? たまたまケサランパサランの生態を知っていただけだよ」
「粉にしたのは、魔法か?」
「そう。収穫と精米と製粉は魔法で、お皿の葉っぱも魔法で切ったよ。私は、追いかけ回すのは上手じゃないから」
「豹獣人なのに?」
「……えっと、それは」
フードのせいで間違えられているが、リロは獣人ではない。
とはいえ、今日であったばかりの彼に、本当のことを言うのもよくないかもしれない。
人間は帝国内で嫌われ者のようだし、魔法を使う人間なんていない。
なんと答えればいいのか戸惑っていると、不意に強い風が吹いた。その勢いで、リロのフードが外れてしまう。
髪の毛まで舞い上がり、本物の自分の耳が見えてしまった。
「あっ……!」
男の子が目を見開く。
「お前、耳……」
なんて答えようか焦っていると、どこからともなく、兄ロバート声がした。
「リロー! 終わったのか?」
「お、お兄ちゃん?」
ささっとフードを被り直し、リロがキョロキョロしていると、空から飛行ボードに乗った兄が、正面に降りてくる。使い魔のキキも一緒だ。
「ちょうど校長に会って、カフェで話し込んでいたんだ。リロの試験がもうすぐ終わるって聞いたから、飛行船の駅まで送ろうと思って」
「あ、ありがとう。でも、列車じゃなくて飛行船?」
「あの列車、激混みだから。しかも、帰りは皆、同時に終了するからなあ」
それはそうだ。行きの列車でも、リロは席に座れなかったのだ。帰りは、それどころでは済まないのかもしれない。ロバートに感謝だ。
「ほら、雨が降りそうだから飛ばすぞ」
「えっ?」
ロバートが空を指差す。
「魔法島では、スカイフィッシュが空を飛んでいたら、雨が降る」
釣られて上を見ると、体の両側にひらひらと蠢く大きなひれを持つ、細い魚が泳いでいた。
「あ、本に載ってた生き物だ。たしか、ここにしか生息していないんだよね」
「そういうことだから、早く飛行ボードに載って」
「わかった」
リロはいそいそと、地面に置かれたボードへ近寄り、兄の前に乗る。
そうして、少年のほうを見て手を振った。
「またね」
なんとなく彼とは、また会いそうな気がする。
実技試験で、リロよりも早くケサランパサランを捕まえていたので、きっと優秀な子だと思うのだ。




