27:人間族式攻略方法
でも、ここで諦めるわけにはいかない。
(まあ、できることをしていこう……かな)
自分には、あんな風に速く走る足も、羽ばたいて飛ぶ翼も、丈夫な尾びれもない。
リロは周囲を見渡す。
植物園の中を見渡すと、背の高い草木や低木、色とりどりの花、魔法植物が植わっているのがわかった。
(魔法植物と、普通の植物が混在して植わっているみたい。なら……私でも、ケサランパサランをたくさん捕まえられるかも)
ここは植物園なので、目的の植物があるかもしれない。
(お米、芋、とうもろこし、葛の根っこ。あるかな?)
それらを探しながら、注意深く植物園の中を歩く。
カルボンの言うとおり、危険な植物もたくさんあった。
途中、大きな蔓植物に捕まっている受験生がいた。
足に蔓が巻き付き、宙ぶらりんになっている。
(これ、トラップの樹。生き物に巻き付いて、養分を吸うって本に書いてあった)
蔓の中でもがいているのは、カルボンに文句を言っていた子の一人で、人魚族の少年だった。
身をよじって逃れようと必死にもがいているが、蔓はびくともしない。
(危険な植物もあるって、ちゃんと注意していたのに……)
リロは植物の蔓をじっと見上げ、心の中で魔法を唱えた。
(粉砕……)
すると、蔓が破壊され、ブチッと千切れ、人魚族の少年は地面に落下した。
リロはそんな少年に歩み寄る。
「大丈夫?」
手を差し伸べるが、少年は「ふん」と鼻を鳴らして、リロの手を振り払った。
泥のついた体のまま、勢いよく立ち上がる。
「獲物を捕まえる実力がないからって、善人ぶって加点狙いかよ? お前みたいな鈍くさそうな獣人、どうせ落ちるに決まってんだよ。さっさと諦めろっての」
捨てゼリフを吐き、少年はずんずんと植物の茂みの中へ消えていった。
足は尾びれではなく、ひれのついた二本の足に変化している。
リロはポカンと口を開け、彼の背中を見送った。
(なんか、すごいこと言われた? でも、私のことを獣人って思ってくれたのは嬉しい)
リロは人間だけれど、ずっとリオパール家の皆のように、強い獣人になりたいと思っていたのだ。
気を取り直し、さらに植物園の奥に進んでいく。
(焦っても仕方がないよね。マイペース、マイペース)
リロは注意深く植物園を散策しながら歩いた。
その途中で、網のような葉を広げる魔法植物に引っかかって身動きが取れなくなっていた鳥人族を見つけた。葉に巻き取られた翼でバタバタと暴れている。
(……あれ、網蔦草かな。うまくやれば外せるかも)
リロは上を見上げ、静かに魔法を発動させた。
葉の一部だけを「粉砕」し、鳥人族が自由になるすき間を作る。
「助かった……ありがと」
抜け出せた鳥人族は、リロに短くお礼を言って、さっと飛び去っていった。
さらに進んだ先では、壺のような形をした食人植物に、頭から突っ込んでしまったドワーフ族の受験生が、脚をじたばたさせていた。
(頭、食べられかけてる……! どうしてこうなった……?)
リロはまたしても「粉砕」を使い、壺植物の上部を壊して、どうにかドワーフ族の子を引っ張り出す。
彼は息を切らしながらお礼を言い、少し照れくさそうに帽子を被り直して走り去っていった。
目的の植物を見つけるため、リロもまた歩を進める。
そうして、しばらく進んだ先で、ふと目の前が開けた。
水を張り巡らせた、小さな湿地帯のような空間がある。
その向こうに、見覚えのある穂を揺らす植物を見つけた。
(あれ……お米だ)
近づいてみると、やはりそれは、かつてハシノ村の田んぼで見たのとよく似た、穂のついた背の高い植物だった。
穂先には、ふわりと白い綿毛のようなものがまとわりついている。
(あれは、ケサランパサラン……! やっぱり、お米が好きなんだね)
リロは、かつて工房で「おしろい」の原料選びを手伝ったことを思い出していた。
(この子たちの好物はおしろい。前に読んだ本に載ってた)
母のカミラが以前、植物性の化粧品を作りたいと言い出し、乾燥させた米の粉や芋の粉、葛の澱粉などを使って実験してみたことがあったのだ。
彼女の職業はアクセサリー工房の職人だ。けれど、カミラは服を作ったり、化粧品を作ったりと好奇心旺盛なのである。
(もしかしたら、ケサランパサランは、おしろいというより、その原料が好きなのかなと思ったんだよね)
そして、リロの予想は当たっていたようだ。
植物園の端だからか、周りに他の受験生はいない。
(よし、十匹集めるぞ! まずは、二十二ページ収穫の魔法、二十三ページ小さな無機物を集める魔法、二十四ページ皮や殻を剥く魔法、それから……粉砕……!)
初級の魔法は、ささやかな内容が多いけれど、とても便利で生活に役立つ。
リロは手応えを感じていた。




