25:カフェで休憩
クリストファーに勧められて訪れたカフェは、人もまばらで落ち着いた雰囲気だった。
高い天井からは柔らかな光が差し込み、窓際には鉢植えの花が飾られている。
木目調の床とテーブルには温かみがあり、椅子も背もたれが高く、ゆったりと座れる作りになっている。
(わあ……こんなところでごはんを食べるの、初めて)
カドの町のカフェも趣があり素敵だったが、ここは洗練されていて別の良さがある。
リロは入り口の前で足を止め、静かに目を輝かせた。
香ばしいパンの香りと、スープのやさしい匂いが漂ってくる。
カウンターの奥では、数人の従業員が魔法を使って、てきぱきと働いており、笑顔で注文を受けていた。
(自分で注文して、出てきた料理を持っていく形式なのかな。魔法ばっかりじゃないから、私でも注文できそう)
木製の黒板に「本日のおすすめ」がチョークで書かれてある。
──季節の野菜スープ、ふわふわ卵のキッシュ、森の実ジャムの甘いパン。
(特製ハーブティー付きのセットなんだ。これにしてみようかな)
前の人の真似をしつつ、リロは無事に「本日のおすすめ」を注文できた。
まだ試験中の生徒も多いせいか、空席はいくらでもある。
リロは一番端の窓際の席を選び、そっと腰を下ろした。そして、持ってきた料理をさっそく食べ始める。
「いただきます……」
スープは透明な器にたっぷりと注がれ、にんじんやキャベツ、豆、じゃがいもなどがごろごろ入っていた。一口すくって口に入れると、優しい味がする。
「おいしい……」
それから、キッシュを一口。卵がふわふわで、じゃがいもやきのこの香りが、口いっぱいに広がった。
パンには、小さな赤や紫の果実が練り込まれ、添えられた森の実のジャムは爽やかな酸味に優しい甘さの一品だった。
ハーブティーもすっきりした香りで、頭がシャキッとする。
(午後の試験も……頑張らなくちゃ)
少し緊張が戻ってきたが、それでも、穏やかな空気に包まれていると、勇気が湧いてくる気がした。
食事を終えるころには、カフェの席も少しずつ埋まり始めていた。試験を終えた受験生たちが続々と集まってきているのだろう。
リロはトレイを返却口へ運び、深呼吸をひとつした。
(……実技試験の受付へ向かおう)
ふと、カフェテリアの入口から入ってきた見覚えのある人影に気づいた。
黒髪を三つ編みにしたドワーフ族の少女――ミネットだ。
「リロ、ここにいたのね!」
声をかけられて手を振ると、ミネットはまっすぐこちらへやってきた。
「お昼を食べ終わったところ。ミネットは?」
「私は今からよ。あのあと、お説教されて大変だったわ……。リロ、先に魔法馬車で運ばれちゃってごめんね。一緒に行きたかったんだけど……」
「大丈夫。列車も楽しかったよ」
「……うう、乗りたかった……」
ミネットは本気で悔しがっているようだ。
「それはそうと、午後は、いよいよ実技試験ね。筆記より、実技で差がつくって話もあるし」
「そうなんだ。どんなことをするんだろうね」
「その年によって違うらしいけど……基本は得意な魔法を一つ実演して、そのあとで応用力を見られるって話よ」
「そっか……。うまくできるかな」
つぶやいたリロの手に、ミネットがそっと手を重ねた。
「大丈夫。リロ、飛行船で咄嗟に魔法を使って、あの男の武器を植物に変えたじゃない。すごく冷静だったわよ」
「……ありがとう」
きっと、リロだけではなく、皆、ドキドキしているはずだ。
(落ち着いて、大丈夫)
自分に言い聞かせつつ、ミネットと別れ、リロは一足先に受付を目指した。




