2:初めて魔法を使った日2
あの日、リロは近所の子たちと連れだって、村はずれの空き地で遊んでいた。
穏やかな風が吹くハシノ村の空には、白い雲がのんびりと流れていた。
草の上を走り回っていると、すぐそばの小道を村長がゆっくり歩いてきた。
「あ、村長だ!」
誰かが彼を指差して言った。
そんな村長の後ろには、大きな木が生えていた。
大人たちが「あの木は傷んでいる。そろそろ伐らないと」と話している、古く朽ちかけた木だった。
そして、その木が、タイミング悪く、村長のほうへ向かって傾いた。
「あぶない!」
気づいたリロが声を上げる。
このままでは村長が下敷きになって怪我をしてしまう。
もう、間に合わない。
「だめ――!」
リロが咄嗟に叫ぶと、その瞬間、不思議な出来事が起こった。
なんと倒木が……一瞬にして、小石や砂のように粉々に砕け散ったのだ。
キラキラ光る金色の木くずがパラパラと小道に降り積もる光景は、ただ神秘的で、何が起こったのか誰も……当のリロ本人にもわからなかった。
(わたし、村長を助けたいと、おもった……それだけ……なのに……)
強い思いが、何かを呼び起こしてしまったようだ。
噂はあっという間に村中に広まった。
そして、倒れてきた木が粉々に砕け散ったのは、「リロが魔法を使ったせいだ」と結論づけられた。
村の皆の態度が変わったのは、事件があったすぐあとからだった。
だから幼いリロでも、あれがすべての始まりなのだとわかった。
それでも、魔法というもののせいで、あそこまで皆が豹変する理由まではわからなかった。
(魔法って、悪いものだったの?)
ただ、村長を助けたかっただけなのに。
リロを責める村人たちは、自分があの木みたいに粉々にされることはないと思っているようだった。
魔法を使う「化け物」でも、あの日以来何の力も見せない。
ただの子どもには、誰もが安心して石を投げられる。
村人たちの見立ては、ある意味では正しかった。
リロはあれ以来、なんとなく、村長を助けた魔法の使い方を把捉できていた。
にもかかわらず、どれだけ酷い目にあったとしても、その魔法を人間に向けて使おうとは思えなかった。
怖かったのではなく、それはしてはいけないことのように思えたのだ。
(わたし、人を傷つけるために、魔法を使いたくない……)
魔法というものが、とても鮮やかで、美しかったから。
だからこそ、それを憎しみの道具にはしたくなかった。




