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拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す  作者: 桜あげは 


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18/60

17:拾われ少女は帝都を目指す

 あれから七年が経過し、リロは十二歳になった。

 身長も伸び、桃色の髪は肩の上で短く切りそろえている。

 豹耳フード付きの上着は相変わらずリロのお気に入りで、母のカミラにサイズの合う上着を何度か作り直してもらっていた。


 カドの町にもすっかり馴染み、リオパール家の家族とも仲良く暮らしている。

 アクセサリー用の鉱石の粉砕を手伝ったりするうちに、魔法のコントロールも上手になった。

 かつて家に来たエルフのクリストファーにもらった本は、大事に使っている。今では全部のページを理解できるようになっていた。

 そのほかにも、町の図書館の本を読んだり、卒業生である両親に勉強を教えてもらったりし、リロは受験に必要な知識を得ることができた。


 二歳年上の兄、ロバートは、一足先にアヴァレラ魔法学校に入学している。

 現在、彼は魔法島にある寮で暮らしていた。会えないのは、少し寂しい。


 両親は、クリストファーと時々連絡を取っている。クリストファーはなんと、現在、アヴァレラ魔法学校の校長になっていた。

 実は、初めてクリストファーに会ったとき、既に彼には、「校長にならないか?」という打診が来ていたのだとか。

 クリストファーも学術機関でやりたいことは全部やったので、校長になると返事をしたらしい。この辺りの話は、父のサムから聞いた。

 知り合いが校長なら、リロも少し安心できる。

 今年は、リロの受験の年だ。


(どきどきする……)


 アヴァレラ魔法学校は、三年制の学校である。

 一年で基礎を学び、二年で専門性を身につけ、三年はほぼ実習。

 そういう教育方針で、卒業後はどこでも就職を歓迎されるそうだ。


 父のサムと母のカミラは、卒業後にそれぞれ工房で働いていたが、結婚を機に独立して店を構えたらしい。

 この国――ボウル帝国の皇帝の側室が、カミラの親友で彼女の作品の大ファンで、かなりの太客なのだ。二人はアヴァレラ魔法学校の同級生だったのだそう。

 そういうわけで、両親は普通に暮らしているものの、実はそこそこ実入りがいいようだった。大きくなるにつれて、五歳のときにはわからなかった、様々なことが見えてくる。

 だから、リロは悩んだけれど、やっぱり、アヴァレラ魔法学校へ行かせてもらうことにした。学費諸々はあとで返すつもりだ。


(まずは、入学試験に合格しなきゃいけないんだけど……)


 アヴァレラ魔法学校の入学試験は、帝国最難関と言われている。

 十二歳以上なら誰でも受けられるけれど、中には何年も挑戦し続けている人もいるらしい。


(クリストファーさんにもらった本の中身は、全部覚えたけど……)


 まだまだ、リロは不安だった。

 今だって、夜だというのに居間のテーブルに分厚い本を置いて、中に書かれた内容を確認している。

 そんなリロを見かねて、すぐ傍のキッチンでお茶を淹れていたカミラが声をかけてきた。


「リロったら、また、その本を見ているの? 心配しなくても、あなたなら大丈夫よ。ロバートが受験するとき、既に同じくらい本の内容を覚えていたでしょう? 筆記で落とされることは、まずないわ」

「……そうかなぁ?」


 いまいち、そんな気がしないリロだった。


「筆記も心配だけど、実技も心配だなぁ。私、お兄ちゃんみたいに、器用じゃないもの。ものを粉砕する魔法と、アクセサリーの加工用の魔法、もらった本に載っていた魔法しかできないし……」

「入学前に、それだけできれば十分すぎるわ。あなたは心配しすぎ」

「本当に?」


 やはり実感が湧かない。試験はもう、すぐだというのに。


(明日には、家を出なきゃいけない)


 初めての、一人での移動。そして、試験。不安なことだらけだ。

 悩んでいると、工房の片付けを終えたサムが階段を上がってきた。


「リロ、やっぱり一人で帝都に向かわせるのは心配だな。父さんが送って……」

「お父さんは、お仕事があるでしょ?」


 リロは過保護すぎる父を思いとどまらせる。

 帝都の王宮で来月開かれる祭典に向けて、リオパール家のアクセサリー工房は大忙しなのだ。そんなときに、サムを連れ出せない。


「私は一人で大丈夫。もう十二歳なんだよ」


 リロは胸を張った。ひょこりとフードの上の豹耳が揺れる。


「お兄ちゃんだって、一人で帝都の飛行船乗り場まで行ったんだから」

「でもなぁ。リロは頑丈な獣人とは違って、人間だし……」

「問題ないよ。私はもう、人間じゃなくて立派な女豹だもの」


 リロの言葉を聞いたカミラが、キッチンの奥でぶふっと吹き出す。


「そうね、あなたは立派な女豹――雪豹獣人よ。帝都で人間だとわかると、面倒なことも多いわ。獣人として出歩くのは正解よ」


 リロはコクリと頷く。

 ボウル帝国に人間は、ほとんどいない。いても、仕事で一時的に滞在する者くらいだ。

 人間は、ピア王国から出てこない。

 魔法を使う、ほかの種族を危険視し、恐れているのだ。


 人間たちの住むピア王国では、魔法や魔法仕掛けの道具を使わずに、何もかも人力や魔法なしの道具を使っている。だから、相対的に生産性が低くて貧しい。

 リロが捨てられてから、十二歳になるまで、ピア王国の内情はほとんど変わっていなかった。時間が止まったかのような状態の国である。

 だから、人間が帝都にいると、否が応でも目立ってしまうのだ。さらに、魔法学校の試験を受けるとなると……。


(面倒くさいことになるかもしれない)


 リロは人間だけれど、人間でいることにこだわりはない。

 ……というか、獣人たちのほうが好きだ。彼らはリロに対しても優しい。

 近所ではリロが人間だと知っている人もいるが、皆、普通に接してくれている。


 つつがなく入学試験さえ受けられれば、雪豹獣人と思われても、なんら問題はないのである。

 ついでに、獣人の仲間でいられるほうが、リロ自身も嬉しい。

 でも、人間が好きではない人もいるかもしれないから、気をつけようと思った。


 カドの町から帝都までの移動手段は、川クジラ船だ。

 川クジラという魔法生物が、獣人を背に乗せて川を移動してくれる。

 魔法生物は、魔法を使う不思議な生き物の総称だ。総じて知能が高く、様々な固有の魔法を使う。


 川クジラはつるんとした皮膚を持つ、真っ白な生き物だ。

 獣人に友好的で、他の生き物を背に乗せて運ぶのを楽しんでいる……という特徴を持つ。

 話せないものの、こちらの言葉もある程度通じる。


 彼らはこの時期、川と繋がる各地から、受験生たちを帝都へ運ぶのに慣れていた。

 カドの町に流れる川でも、たくさんウロウロしているので、頼んで帝都まで連れて行ってもらう予定だ。


「リロ、食事したら早く寝るのよ」

「うん……落ち着かないから、料理、手伝っていい?」

「もちろん。助かるわ」


 カミラが答えると、サムも「じゃあ、僕も~」とキッチンへ向かう。兄はいないけれど、両親との楽しい団らんの時間だ。

 リロはすっかり、リオパール家の娘になっていた。


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