15:魔法島から来たエルフ2
自信を持って答える。
頷いたカミラが歩いてきて、客席のテーブルの上に石を置いてくれる。
「……見ていて」
クリストファーに告げ、リロは注意深く石を見つめる。すると、石が金色に光り、パキンと音を立てて砕け散った。
「よくやった、リロ」
ロバートが後ろから褒めてくれるので、嬉しい。
「えへへ」
リロは照れながら、フードの豹耳をもふもふした。
魔法を確認したクリストファーは、粉々になった石を見たあとリロを観察し始める。
「予備動作なしの魔法かぁ、興味深いね……」
ロバートが身を乗り出して、クリストファーに質問する。
「獣人の、身体強化系魔法も予備動作なしだけど? リロの魔法は珍しいの?」
「身体強化は、自分に作用する魔法でしょう? ほかの物質に作用させるとなると、普通は詠唱したり、手をかざしたりするものだよ。熟練の魔法の使い手はさておき……」
「ふぅん。それって、リロが人間だからかな?」
「どうだろう。でも、人間もかつては魔法を使えたから……その名残が、何らかの形で現れたのかもね」
「リロの他に、人間の魔法の使い手はいないの?」
「今のところは、確認されていないねぇ。我々が見落としている可能性はあるけれど……人間の社会では、魔法は異質なものとされているから。発見されたら、こちらに連絡が来るより先に、淘汰されているかもしれないねぇ」
不穏な言葉だった。
「……リロも、そうなりかけていたよ」
ロバートの声に、クリストファーの顔が一瞬だけ強張る。
「本当に……今の人間は、困ったものだね」
表情を元に戻しつつ、彼はため息を吐いた。
その様子を見ていたリロは、ロバートに負けじと、勇気を出して問いかける。
「あの、にんげんも、魔法をつかえたの?」
クリストファーは少し驚いたように目を細め、それから穏やかに微笑んで、ゆっくり口を開いた。
「ずいぶん前の話だよ。伝記――古い本に残っている情報」
「私と同じ?」
リロが小さな声で尋ねると、クリストファーはやわらかく首を傾げる。
「どうだろうね。ただ、その本には、こう書かれていた。『人間は、魔法を得意とする種族で、あらゆる種族の魔法をまんべんなく使いこなすことができた』と……」
そして、少しだけ寂しそうに続けた。
「でも、とある時代を境に、魔法は失われてしまったようだ。理由は、誰にもわからない。人間たち自身も、その力を忘れてしまったのかもしれないね」
そう言って、じっとリロを見つめるクリストファー。
近くにいるサムとカミラは、クリストファーの話に割って入ることなく、静かに耳を傾けている。
「魔法について、もっと知りたい?」
クリストファーの問いかけに、リロは迷うことなく頷いた。
「しりたい!」
クリストファーの口元がやわらかく綻ぶ。
「……知識欲にある子は好きだな」
彼は顎に手を添えて何かを思い出すように目を細めると、やがて静かに語り始めた。
「私も、すべてのことを知っているわけじゃない。でもね、君が知りたい答えのいくつかは、魔法島にあるかもしれない。さっき話した文献も、あそこで読んだものなんだ。あそこには、古くて貴重な資料がたくさん保管されていてね。ただ、持ち出しは禁止だから、ここには持ってこられないんだけど……」
「魔法島にいったら、よめる? わたし、まだ、字をあまりしらないけど……」
文字についても、カミラに教わっている最中だ。
ハシノ村の人たちは、読み書きができなかったので。
「行くだけじゃ無理だなぁ。そういった本が置いてある場所には、ただ島を訪れただけの観光客は入れない」
「どうすれば、入れる?」
「魔法島の管理者になるか、あるいは研究機関に所属して、正式に閲覧許可を申請すればいい。そうすれば、中に入って本を読むことができるよ」
「わたしでも、なれる?」
「そうだね。魔法島の学校に入って、優秀な成績をおさめれば、道が開けるかもしれない。実際、上位の卒業生には、管理者側からスカウトが来ることもあるからね」
「がっこう……」
魔法島の学校は知っている。
サムとカミラが卒業し、ロバートが行きたがっている、アヴァレラ魔法学校だ。
(行きたい……でも……)
リロの心は揺れていた。




