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拾われ少女は魔法学校から一歩を踏み出す  作者: 桜あげは 


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12:新しい家族とカドの町3

 工房が立ち並ぶ通りを抜けると、その先には図書館と文房具店、軽い食べ物の店があった。

 ゆったりしていて、静かな雰囲気だ。


「あそこと、あそこはカフェ、向こうはパン屋だよ。お菓子とケーキの店もある。その向こうは食堂。一つ向こうの通りには、化粧品と薬の店、それから花屋があるんだ。美容院や病院もそのあたり。宿も二件あるね」

「パン、いいにおい」


 焼きたての香ばしい匂いが、通りまで漂ってくる。リロは目を輝かせた。

 そんな様子の妹を見て、ロバートが優しく微笑む。


「帰りに買って帰ろう」


 さらに先へ進むと、大きな台の上に野菜や果物が置かれている店があった。ほかにも、乳製品や魚や肉が、同じようにして、それぞれ売られている。

 ここは、これまで通ってきた場所より、ひときわ賑やかだった。


「リロ、市場だよ」


 ロバートが説明してくれる。

 布でできた屋根の下には、ずらりと小さな店が軒を連ねていた。皆、箱のような台の上に、むき出しで品物を置いている。

 八百屋も、果物屋も、肉屋も、魚屋も、乾物屋も他の店も……同じ種類の小さな店が何軒もある。


「この辺りの店は、全部移動式の屋台なんだ。それぞれ買い付けてきた品を売るんだよ。直接売りに来る農家もいるし……」


 ロバートは博識だ。リロと二つしか違わないのに、彼はなんでも知っていた。

 村にいた子どもと全然違う。


(私も、おにいちゃんみたいに、かしこくなりたいな)


 細い市場の道をキョロキョロと、余所見しながら歩く。

 決められた範囲の中に、ぎゅうぎゅうに店が出ているので、歩くスペースが少ししかないのだ。


「はぐれないように、しっかり手を握っていて」


 ロバートに言われ、リロは力強く頷く。


「母さんに、買い出しも頼まれているんだ。リロ、どんなものが食べたい?」

「種がある野菜と果物」

「……また庭に埋めるの? 来年にならないと、生えてこないんじゃ……? それにスペースが……。まあいいか」


 ロバートはカボチャと芋、緑色の葉野菜を買って、魚屋に向かう。


「きょうは魚?」

「最近肉続きだから、たまには魚が食べたい」

「そうなんだ……」


 リロは食べられるものなら、なんでも口へ放り込むが、リオパール家の皆は食へのこだわりがあるらしい。

 魚屋の台の上には、いくつかの魚が木箱に入って並べられている。木箱の中には、透明なひんやりする小石が詰まっていた。ハシノ村では見たことがない。

 すでに、魚は結構売れてしまっているようだ。


「ここは森の近くだから、魚は貴重なんだ。なのに、この辺りに住んでいるのは猫科の獣人とか熊の獣人とかだから……」


 売られる以上に、魚を欲しがる人が多いのだろう。


「最近は、道具が発達したから、海の魚も手に入るようになったけど。まだまだ不便だよね。帝都なら、なんでも揃うのにな」


 ロバートが悔しそうに説明してくれる。そうして、手前にあった川魚を四つ、店主に注文していた。

 店主はその場で綺麗に魚を処理し、内臓を取り出し、大きな葉っぱに包んでから、植物の蔓で編んだ籠に入れてくれた。


「ありがと」


 お礼を言ったロバートは、片手に野菜の入った紙袋を持ち、片手はリロと繋いでいる。


「わたし、持つよ」


 リロは繋いでいないほうの手で、魚の入った籠の持ち手を握った。

 帰りに約束通りパン屋でふわふわの白パンを買い、そのまま家へ帰宅する。

 両親は工房で作業中のようで、居間にいなかった。

 帰ったことを知らせるため、荷物をキッチンに置いたリロとロバートは、両親のいる工房の作業場へ向かう。


 一階の正面入り口を入ると店がある。木製の棚には様々なアクセサリーや小物類が並んでいた。

 午前中は比較的空いていて、現在もお客はいない。

 店の奥には会計用のカウンターがあり、そこから扉を一枚隔てた先に工房がある。


「ただいま~、買い物を済ませてきたんだけど」 

「おとうさん、おかあさん。……お兄ちゃんに、町、あんないしてもらった」


 声を掛けながら扉を開けて作業場に入る。

 中にはシンプルな作業台が三つほど置かれており、戸棚のある壁の手前で、父のサムが加工する石を吟味していた。奥の台では母のカミラが腕輪のデザインを紙に書いている。


「おお、ロバートにリロ、おかえり。よし、休憩するか」


 サムが戸棚に金属製の道具箱を戻しながら、笑顔で出迎えてくれた。


「買い物ありがとう。もう少ししたら、お昼にしましょう」


 カミラも美しい顔をゆるませ、温かくリロとロバートに声を掛ける。

 しかし、その瞬間、リロはサムの頭上に出っ張った戸棚に目を奪われた。

 開けっぱなしになった戸棚から、無造作に置かれた道具箱が、今にも落ちそうになっている。


「お、おとう……さ……」


 危険だと声を掛けようとしたが、道具箱が落ちるほうが早かった。


「あ、危ない――!」


 その瞬間、信じられないことが起こった。

 サムの頭上に落ちてきた道具箱が、光を放ちながら砕け散ったのだ。まるで、ハシノ村の村長に倒れてきた、あの木みたいに。


「ひっ……」


 リロは縮こまった。

 リオパール家の皆が、驚いた顔で道具箱の破片を眺めている。


(……みんなに、嫌われちゃう。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、大好きなのに……どうしよう)


 頭が真っ白になった。


(まほう、ばれちゃった……。いやだ……こわい……)


 せっかく愛してもらえたのに、家族ができたのに、また元に戻ってしまう。


 何も考えられなくなったリロは、そのままきびすを返して作業場から店へ、店から外へ飛び出した。

 がむしゃらに、目の前の道を走る。

 今日、ロバートと一緒に歩いた道ではないけれど、誰にも見つかりたくないからそれでいい。

 もう、嫌われて冷たくされるのは嫌だった。


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