第8話 運命ガチャは、運命のお相手すら運で決めろという。
「うわ、眩しい…」
ふああ、と大きくあくびをして伸びをする。
うーん…眩しいほどの太陽の光を浴びて目を覚ます、なんて…しばらくぶりだ。
昨日、かくかくしかじか色々とあり…私は、あの日の当たらない北側の部屋から一転、太陽がサンサンと輝く東の部屋に移動することとなった。
それは、前の部屋と比べ物にならない程綺麗で、豪華で、広くて…絨毯も布団もふかふかで。その、あまりにも豪華な世界に、私の脳みそはついていけず。
――あまり眠れなかった。
「おはようございます、お嬢様。よくお眠りに慣れましたか?」
「ま、まだ慣れてない…」
大きく違ったことと言えば…この、ルルを筆頭にずらりと並んだ侍女の皆さん。
今日付けで、私の侍女となったらしい。
(メイドさんたちがいっぱい…)
「あの…一人でできるから」
「それはダメです!」
「だ、だめなの?」
「そう。いいですか?お嬢様は、このラスタジア王国でも有数な伯爵家のご令嬢でいらっしゃいます!侍女たちのお世話にも慣れて頂かなくては、私達が伯爵さまに怒られてしまいますわ!」
(そういうものなのか…。)
「あう…わかりました…」
「では。今日のご来客は午後からとのこと…それまでにしっかりと準備しなくてはね!」
「うん…」
あれ、そう言えば。
お父様は来客って言っていたけど…いったい誰が来るんだろう。
すると、妙な気配を感じた。
「!この気配…!」
これが起きる時、妙に勘が騒ぐというか、空気が生ぬるくなるというか。とにかく、異常を発している気がする。
そう…きた。『神様ガチャ』!
なんだかんだで、私は相変わらずどこかの神様の運命を弄ばれているままである。まあ、今のところ生死に影響あるようなガチャはないから、本当に、ただの神様たちの暇つぶしなのかもしれない…
(ここがお風呂でよかった。てか、子供だからいいけど、これってセクハラじゃ)
「お湯加減はどうですか?」
「うん、大丈夫!」
ゆっくりと湯船につかっていると、頭上からギラギラと羽の生えたガチャ台がおりてくる…!
この謎の演出は何なの?!
あの羽根は本物かしら、などと考えていると…例の声が聞こえる。
『さあ!ガチャのお時間です!運命ガチャを引きますか?』
「運命…ガチャ?!」
運命ガチャは…確か、私がここに来た時ひかされたアレのことだ。
なるほど、ガチャには何種類かあるのかもしれない。前は時間戻しの券だったし…そう言う、自分の人生に関わるようなことはこの運命ガチャが下りてくるってことなんだろうか?
『さあ、お答えください!いーちにーい…』
「……」
カウントが始まった。
これって、このまま無視し続けたらどうなるんだろう。
『さーん、しーい…引かないんですかー?運命のお相手がガチャですよー』
「?!」
(運命のお相手って言った?!それって…つまり、それすらこいつらのおもちゃにされるの?!)
愉快な甲高い声はまだ続く。
『ごーおろーく』
「って増えてるじゃない!私は絶対やらないから!」
『なーな、はーち』
「無視か!…もう、なんなのこいつ…」
『きゅーう…なんですかもう、面白くないわあ』
(会話できるんかーい!!)
『じゃあ、辞めますよー?ちえ。次回をお楽しみに―』
などとほざきながら、羽の生えたガチャ器は再びどこかに飛んでいったのだった…。
「あの、お嬢様…?のぼせていらっしゃいませんか?」
「!!大丈夫!」
はあ…なんだか今ので疲れてしまった。
まさかペナルティとか、ないよね?
そんなこんなで風呂から上がった私を迎えたのは…クローゼットの中にずらりと並んだドレスの数々だった。
「ど、ドレスがいっぱい…」
「はい。昨日伯爵さまがヴィーナス・ショップの子供服を全部購入されたみたいです」
「?!き、きのう?」
仕事早!
…すごい、ルドヴィガ伯爵家って、有名なショップから即日ドレスを大量購入するくらい力持ってるんだ…。
「さあ、どのドレスになさいましょ?」
「ど、どれがいいの?わかんない…」
某大手のチェーンショップからしか服を購入しない私に、何がわかるというのだろうか。
フリフリ、キラキラ…目がくらむ。
その中に、唯一無地のワインレッドのセーラードレスを見つけた。
無意識にその手を伸ばすと、ルルがパッと笑顔になる。
「あら、素敵ですわ。…これになさいます?」
「う、うん…」
(地味だし、派手さはないし。胸元にリボンが付いてるわけでもないので、なんか、落ち着く)
「でも、少し地味では?髪型、こんな感じでどうです?」
すると、髪をとかしてくれていた侍女のお姉さんが、華麗な手さばきで髪を整えていく。
「お嬢様の髪は美しい黒でございますから…。せっかく白いお肌を見せないのは損です!」
「わあ」
くるくると三つ編みを複数作り、それをきちんと一つひとつまとめていく。
「すごーい。お姉さん、おなまえなんていうの?」
「はい、わたくし、メルと申します、お嬢様!」
「ありがとうメル!」
「…!まああ…」
それにしても…こうやって着飾ると、このリッハシャルはすごくきれいな顔をしている。
なんというか、洋風というよりは、東洋風というべき?ぱっちり二重ではなく、すっと伸びた切れ長の一重の瞳は、昔見た市松人形によく似てる。
(この世界…日本みたいな国もあるのかな?)
やりようによっては…大人になったら、ミステリアス美女路線も狙えるかも?
なんて、妄想をしてしまうのであった。
――ふと、鏡の向こうで誰かの視線を感じた。ゆらゆらと揺れる白い影…あれは多分。
(お母さま…ううん、リアーネ。もしあなたがあのロザベーリに殺されたんだとしたら…)
何とか、ベラドンナの秘密を見つけてあげたい。
「た、大変です!」
「どうしたの?騒々しい」
慌ててやってきたのは、三つ編みの侍女さん。
一度息を整え、ビシッと背筋を伸ばす。
「…エイデン大公様のご一家が…到着されました」
「え?」
エイデンご一家??誰それ。
というか…まさか、大公って…!!
私の脳裏に、時間逆行の前に会った処刑前夜のことを思い出す。耄碌した意識の中で、あの元・馬鹿上司共にそっくりな男どもの中で、唯一、私に傷の手当てを命じて鎖を外した金髪のロン毛…あの男、確か『大公様』って呼ばれていた。
(ええと、あれはリッハシャルが20歳の時だから、似たような年齢…だった。てことは…もしや、その大公様って)
「お嬢様!」
私は思わず立ち上がり、窓の外を見る。
テラスから身を乗り出してみて、エントランスの方に目をやる。
「豪華な4頭立ての馬車…あれだ!」
丁度、使用人が大量の荷物を運んでいる最中で…馬車のドアが開いた。
太陽の光に負けないくらい輝く金色の髪の、男性を筆頭に…夫人、とあと。
(いた…)
私と同年代の少年と、女の子。
丁度、風が吹いて顔をあげた瞬間、私と目が遭った。
「…ねえ、あそこ。誰かいる」
「…?あ、あの子」
「!」
思わず身を隠す。
いや、隠れる意味もないけど。でも、これで確信した。
処刑前夜に来たあの男…リッハシャルのことを知っていたんだ!!
(あれ、でも…)
なぜか、リッハシャルの記憶をたどっても…彼があの姿で出てくる場面は一度もなかったのだった。
「久しぶりだな!レイ!」
「ああ。イルモンド」
「お久しぶりでございますわ、伯爵さま。あら、ご婦人は…あ、そうでしたわね」
「いいえ、夫人。さあ、こちらへリッハシャル」
「……はい」
うう、お父様の背中は広くて隠れるのにちょうどよかったのに…そっと顔を出すと。
(うわあ、綺麗な人…)
「あら、…もしかして、初めましてかしら」
「り、り りっはしゃる、です…」
「へええ大きくなったな。僕が見た時はまだ赤ん坊だったから」
おお…!まさに限界突破の顔面偏差値…みんな綺麗な顔してる。
「イルモンド・エイデン。…私の親友だ。今日は妻の弔いに来てもらったんだ」
「あ…」
そ、それならそうと早く言ってくれればいいのに。もしかして、伯爵なりに娘に気を遣ったのかな?
所で、あの子たちは。あ、いた。
少し離れたところで、これまた美少年&美少女の二人組がじっとこちらを見てる。
(双子…なの?)
「あの、こ、こんにちは…」
恐るおそる声をかけると、まずは女の子の方がこちらに来て、さっと私の手を取る。
「ごきげんよう、リッハシャル。私はケディ!こっちは兄のフォーレだよ!」
「ケディと、フォーレ…?」
「はい、これあげる」
「え…?」
2人がくれたのは…コルクの蓋がはまった、大きな丸い瓶。
中には、カラフルな飴玉がたくさん入っていた。
「わあ。綺麗…!」
「へへ、よろしくね!」
「うん!」
この流れで行くなら…将来大公の座に就くのは兄のフォーレ?
2人とも、見事な金髪に、紺色の瞳…多分、この子が将来あの超絶美形ロン毛男になるわけだ。
「初めまして、レディ!僕はフォーレ。…よろしく」と、形式な言葉のフォーレ。
「ねえねえ、あなたのことは、シャルって呼んでいい?」そして、ぐいぐいと距離がやたら近いケディ…コミュ力高いな、この兄妹…。
「え…う、うん」
「!!なんだと…?!」
あれ?なんかグルンとお父様がこっちを見ているけど、何?
「あー…リッハシャル。屋敷を案内してあげなさい」
「え?!」
ヤバイ、案内と言われても。
私が案内してほしいくらいなんだけど…あ、そうだ。
「じゃあ、探検しない?」
「!あ、いいね。それ」
「じゃあどっち行く?」
扇動するのは女の子のケディ。
こうして…私にとっては、後の人生に大きな影響をもたらす二週間が始まったのだった。
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