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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第1章 人生、終わった

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7/20

第6話 手に入れたのは、制限時間付運動能力をあげれる魔法のチケット!!


右を見ても、扉。左を見ても扉。

ここはどこ?意気揚々と出てきたはいいけど…全ッ全、どこに何があるのかわからない。


(ど、どうしよう)


「あら、お嬢様。どうされました?」

「!あ…ええと。その、おと、ととう」


しまった。慌てて噛んでしまった。


「あらあら…もしかして、伯爵さまのお部屋ですか?」

「うん…」

「ご案内しますわ」

「ありがとう…」


そう言って案内してくれたのは…優し気でふくよかな身体のメイドさん。

…名前は、確かルルーだったかな。

噂好きが多いメイド達の中で、彼女は他人の悪口や陰口を言ったりしない印象だ。


「あ、でも。おしごと…」

「うーん…そうですわね。では、ちょっとした工夫をしましょうか!」

「くふう?」

「こちらへどうぞ!」


子供の小さい脚で歩くと、この広いお邸はより広く感じた。しかし、あまりウロチョロするのもなんだし、どうしよう。


(うーん…五歳だもん、変に大人びた言動したら変になるし。誰か信頼できる専属メイドとかいたらいいかな)


ルルの導きのまま、下へ下へと降りていく。

この邸は多分三階建てで、私の部屋は隅っこにある日の当たらない北側の棟にある。別に不満はないし、前世の1DKは全くと言っていいほど日当たりのよくない場所だったので、気にならない。ただ、ダイニングや何やらまでが遠いのはどうにかならないかなあ。

軽く10分くらい?歩いた先にたどり着いたのは…天上は低く、アーチ形の窓がある一階の厨房だった。


「ここは?」

「ここはね、キッチンです!使用人達が集まる寮もこちらの棟にあるんですよ?」

「へええ…あ。いい匂い」


ふんわりと薫ってくるのは‥おいしそうなバターの香り。


「おや、ルルじゃないか」

「あ、ヘッド・シェフ。今日はステキなお客様をお連れしましたよ?」

「お客様…?おお、これはこれは」


思わずルルの陰に隠れてしまう。

だ、だって急に声かけられると思ってなかったから。

そっと顔をのぞかせると…白いコック服を着た 大きい帽子(クラウン)を被った、おじさんがいた。


「初めまして、シェフのハイド・ポールでございます!」

「シェフ…?」


二カっと笑った歯が太陽の光を反射してきらりと光る。

わっはっはと大きな声で笑うと、さっと礼をした。


(お…おっきい…)


「え、ええっと、…リッハシャル、です」


うう、この名前慣れない。

しかし、この慣れてない感じが良かったみたい。周りにいたコックさん達が微笑ましく笑っていて、和やかな雰囲気になった。


「今日はどういった御用で?…もしかして、甘いお菓子でも食べに来られたんですか?」


こそっとそう言うと、ハイドは膝をおり、目線を合わせてくれた。


「あの、えっと、ルルが」

「はい。…実はね、お嬢様が伯爵様にお願い事をしたいそうでして」

「え?!なんでわかったの?」

「うふふ。長年メイドをしていると、色々な勘が働くんです」


嘘、すごい!

あれ?でもそれじゃあ一体どうして私をここに連れて来たんだろう?

すると、その話を聞いたハイドさんが目をきらりと光らせる。


「なるほど!…わいろですな?」

「わ、わいろ」


わいろって、あの賄賂のこと?

…何処の世界にも共通だな。


「お願いごとをするなら、伯爵様のお好きなお菓子を一緒に持っていくのはどうでしょう?」

「お父様の、好きなお菓子…?」


そう言えば、この世界に来てから、父についてよくわからないことが多い。

好きな食べ物も、趣味も。何も知らない。


(これは…由々しき事態だわ!)


「お、お父様は何が好きなの?」

「これです!」


近くにいた若そうなシェフの一人が持ってきたのは、宝石みたいな赤いジェリービーンズのついたクッキーだ。


「それから、サブレ、ゴフレット、パンデビス…でしょうかね」

「そうなの?」


(おお…聞いたことあるお菓子のオンパレード!でもパンデビス…って??)


「えっと、パンデビスって何?」


すると、今度はキッチンの奥にいた女性のメイドさんが星型の薄いパンみたいなものを持ってきた。


「食べてみます?」

「うん…」


見た目はパウンドケーキのようだけど…?

思い切り嚙んで見ると、思ったよりも苦くてずっしりしてる。甘いけど、苦い??複雑な味は…このお子様の舌には厳しいかも?!

感想のままの表情が出てしまったんだろう。周りはわっと笑いに包まれた。


「おいしくない…」

「うふふ、苦いでしょう?それはね、奥様…ええと、リアーネ様の故郷のお菓子なんですよ」

「お母さまの?」


そうか、言われてみれば、この珍しい黒髪は異国の人の特徴だった。


「お母さまの…故郷って?」

「ここからずうっと東の方…砂漠に近い、キアルーンの街とお聞きしましたわ」

「キアルーン…?」


なんだろう、どこか懐かしいような不思議な響きだ。


「ではお菓子を包んで、と。早速持っていきましょうか?」

「え?!で、でも」

「大丈夫ですって!今は丁度休憩時でしょうし、ね?」

「うん…」

「ではお嬢様、お近づきのしるしに。さ、手を出して」


言われたままさっと手を差し出すと…小さなクッキ―がたくさん詰まった小さな袋だ。


「ありがとう!」

「いいえ、どういたしまして。今度感想を聞かせてくださいね?」

「うん!」


思いがけない報酬で喜んでいると…何となくどこからか、妙な視線を感じた。


「…?」


くるりと振り返っても、その原因はわからなかった。でも…アーチ形の窓の下に、何となく黒い影のような物が見えた気がした。


(…気のせい?だよね)


「お嬢様?」

「あ、うん。だいじょう…」


ふらりと歩いた瞬間誰かにぶつかって、尻餅をついてしまった。


「おや、…気が付きませんでした。あまりにも小さかったもので」

「ちょっと!」


しまった、今の拍子でせっかくもらったクッキーが数枚転がり落ちた。

慌てて拾おうとしたら…こともあろうか、私にぶつかった奴はそれを踏んづけた。バキン、と悲しい音を立てて、出来立てのクッキーが粉々に砕け散る…。


(せ、せっかく、シェフの人たちが作ってくれたのに…!)


こいつ赦さん!きっとにらんだ先に見たのは…冷たい、それこそゴミのような目でこちらを見下ろす金髪碧眼の若者だった(多分20代くらい?)。

そして、こいつは、にやにやと人を小馬鹿にしたように笑った。


「どいてくれますー?こちとら、出勤前なもんで」

「……」

「ちょっと!ラウさん」


ルルの手を借りて立ち上がると…私は腹が立ったので、こいつに足蹴りをかましてやった。


「いって!何すんですか?!」

「ルル!行くよ!」

「あ…は、はい」


(謝らないわよ…!ラウとか言ったわね?!明らかに故意的だし、謝ってないじゃないアイツ!使用人と私では、立場が違う!)


そう。仕事ができないクソ部下は特に、非がないならこちらから謝る必要はない!

「ふふ…!」

「?!な、なんで笑うの?ルル」

「だって、お嬢様ったら…ふふ」


う…ここは大人しくするべきだった?

ううん、でも、ああいう奴は一度謝ったらTHE・END。そいつはいつまでもつけあがるんだから!

そんなやり取りをしていると…さっきの失礼男が歩いてきた同じ方向から、ロザベーリが歩いているのが見えた。


(あっちって…キッチンの使用人と夫人が共有する場所なんてある?)


…この時は何も感じなかったんだけど、この違和感は後で、重大な出来事を導き出すカギとなるのであった。





こんこん、と遠慮がちでかつ、非力なノック音が聞こえる。


「あ、伯爵様。私が出ます」

「ああ…」


永年、務めていた秘書は、去年勇退した。

今年から、若手の秘書であるセイトンがすたすたと扉の方に向かっていく。


「ふう…」


眉間の皺をぐるぐると指で押し、ゆっくりと長椅子にもたれかかる。


「は、伯爵様!」

「?なんだ騒々し…」

「お、お父様…こ、こんにち 違った ごきげん、よう?」


ちょこん、と顔を出したのは…母親譲りの黒い髪に青い瞳の、リッハシャルだった。


「?!」


思いがけない来客に思わず驚く。


「リ、リッハシャル?」

「えっと、その…」

  

さっと出した小さな籠には、いっぱいのクッキーが入っていた。


「…これは?」

「お、お父様が好きだって聞いて」



見れば、顔を真っ赤にしてうつむいたまま。

思わずふっと笑みがこぼれる。


「…お前も食べるか?」

「え?で でも」


何か信じられないものを見た、という表情で固まるセイトンを一度ひと睨みすると、パン!と手をたたいて心得た、という表情で礼をした。


「お仕事中、ですよね」

「いい。…ちょうど休憩にしようと思っていたからな」

「……」


すると、じっとこちらを見上げるリッハシャルと目が遭った。


「どうした?」

「あ、えっと その」


(…目が泳いでる。私の顔が怖いから…なのか?)


今更突然笑顔を作るのは不自然極まりない。

かといって、無愛想なままでいい物だろうか、と逡巡する。

しかし、それを察したのか?

リッハシャルは小さな腕を目いっぱいに広げ、自分の左手をがしっとつかんだ。


「お、お父様とお菓子!うれしい!」

「……っ」


ずるずると引きずられ、長椅子に座らされた。


「…く、クッキーが好きだって聞いたので…えーと、クッキー大会を()()()()()()!!って」


(クッキー大会…?)


子供らしい発想というか、つい、笑ってしまった。


「そうか…」


――その日は、久しぶりにゆっくりと休憩を楽しんだのであった。


**


「ふう…」


自室にて。…私はよたよたとベッドに座り込む。


「はあ…ガチャめ」


ゴロンと横になると、ポケットから金色のガチャ玉を取り出した。

ぱこん、と開いて見ると…いつものキラキラとした演出と同時に、日本語で『R2・制限時間付運動能力をあげれる魔法のチケット1枚分!!』と書かれた紙切れが落ちてきた。


「ふう…危なかった」


そう、それは父と対峙している最中のことだ。

例のガチャが予告なしに現れ、頭上でてかてかした後、なんと父の右側のポケットにガチャ玉が落下したのだ。…そこで、あのクッキー大会発言である。

何とか発動Word『やります』と、無事玉は回収できたのだが。


「もーー!嫌がらせなの?!全く!」


こうなると、神様とやらは人のことをおもちゃとして遊んでいるのかもしれない。

そう、強く思ったのだった…。

ちなみに、父に交渉して家庭教師をつけてもらうことができたので、そこは自分で褒めてあげたい。







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