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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第3章 人生って何が起こるかわからない・学園中等部編

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第22話  混乱の狼煙


「あ…よし!うん、外だ」


ギギギ、と不快な叫び声をあげ、ひしゃげた扉は開いた。

先頭はフォーレ、外に出た瞬間、さわさわと流れる風が心地いい。見上げた空は…もう真っ暗で、浮かんだ月があまりにも普段通りで内心ほっとしてしまった。


「よかった…も、もう降りていい?ケディ」

「何で?このまま医務室に…」

「き、君たち!!」


顔面に眩しいライトの光が当たり、目を伏せた。


「教官」

「え、エイデン侯爵家の御子息…!いったいどうしてこんな」

「…旧校舎に迷い込んでしまって。一人ケガをしているので」

「そ、それよりフォーレ君、ケディ君!君たちにけがはないのかい?!」


(うわあ、あからさま)


この学園に入ってから、血統だの家柄だのがやたら介入してくるのが気になっていた。どうやら、それは教官全体にも蔓延しているらしい。


「だから、俺達じゃなくて…」

「いいよ、もう。ごめん、シャルもう少しの辛抱な!」

「う、うん」


ケディが促すと、フォーレはため息をつく。


「…教官、俺とケディは無事です。でも…この子が足をケガしてるので、失礼します」

「あ、ああ…」

「それと…」

「何かな、フォーレく」

「あなた方教官は、今新入生の間で起きている問題に目を向けた方がいい」

「…!」

「ご存じですか?目に見えない格差がそこら中にあるってこと」


(さすがフォーレ…容赦ないなあ)


言われた年配の教官は口を開いてパクパクしてる。

…ちょっと、いい気味だわ。


「はあ…よかった、みんな無事で」


私がそうこぼすと、きっとフォーレとケディ両方ににらまれた。


「無事じゃないだろ?!」

「シャルがケガしてるじゃん!!」

「ふ、二人して怒らないでよ…でも、私がケディから逃げ出してあんなとこに行かなければよかったのに。二人ともごめん…ううん、来てくれてありがとう」


そう、なんだかんだで二人には助けてもらってしまった。


「別に…こっちこそ、ごめん。追い詰めるようなことしちゃってさ…」

「俺にだって、相談してくれればよかったのに」


(とはいっても…二人を頼るのは、何か違う気がするのよね)


「それより…あの校舎、なんであんなに危ないのに放置してるの?」

「ああ…あそこは、何代か前の王族だかが、取り壊さないでって言ったからそのままにしてるって聞いた」


その理由を聞いて…開いた口がふさがらないとはこのことだ。


「…なら、管理するのが普通でしょ…?」


すると、フォーレは肩をすくめた。


「管理しないからああなったんじゃない?…職務怠慢」


その後、どうやら私のケガは思いのほか重症だったらしい。

と、言うのも雑菌?が入ったとかなんだかでばっくり腫れあがってしまったのだ。その傷を見て、ルルーは卒倒しそうになったのは言うまでもない…。


(これは…数日休んだ方がよさそうかも?)


――同時刻。


アズレア王国は、大陸南方にある港湾国家である。

遠方の国からの入港は途絶えることがなく、嵐の年でも閉鎖をしない実績を誇る。

沖合から見える大灯台の光は、夜間の入港も可能で眠らない港としてその名を大陸全土に知らしめた。だからこそ、船乗りの間ではこういわれる。

「アズレアを知らぬ船乗りは、世界を知らぬ陸育ち」…と。


その歴史は、王家の系譜が100を超えた今なお続き、古くからの正統性と象徴的な絶対的権力を保持し続けている。この国にとって「青」は空を映す色であり、海を映す色であり…王家の正装は勿論、身に着ける装飾品さえも青を纏うのは王族のみとされてきた。


 しかし、近年大小無数の商家が王都と湾岸都市に根を張り、実際の富も情報も商家が優位に立つことも多く、拮抗していた【金】と【権力】のバランスが崩れ始めている。

 最近では、貴族階級は「金で買える権力のシンボル」として外来の者達の間で金で取引され、青よりも深い最高級の紫色の装飾品をつけるのがトレンドにすらなっている。


そのトレンドの発信者たる一つ、「エルメア商会」では、とある事件が起きていた。


「おやおや…帳簿にはない貨幣やら宝石がずっしりと」

「そ、それは…その」


王都港・第四倉庫区画内。

突如現れた湾岸警備隊を名乗る男は、エルメア商会を率いるドン・エルメアと対峙していた。


「ふうん、紫の石…ねえ。炎が青を飲み込み、色が混じる…悪くない。が…やりすぎたなあ」

「?!な…しかし!これを市場に流通させているのは…ッ!」

「そうそう…そうやって口を滑らせるから、湾岸警備隊に目をつけられるんだって」

「…は?湾岸警備隊って…あんた達じゃ」


男はそう言うと、ドン・エルメアの喉にナイフを突き刺した。


「ぐふっ…!」


ぐらりと身体が傾くと、それを部下たちが支える。


「どうされます?」

「まあ、あの方曰く、【赤】にまつわる証拠は全部消しておけ。という話だし…手っ取り早く燃やすか?」


しかし、耳を澄ますと、にわかに外が騒がしくなってきた、


「ラウ様!どうやら本物が来たようです」

「……思った以上に速いな。行くぞ…その身体の始末は頼む」

「は!」


部下たちはてきぱきとドン・エルメアの身体に油をまき、火をくべた。


「他も燃やしとけ…俺たちは退く」

「は!!」

「ああ。忘れ物はするなよ?」


彼らが去ったと同時に商会の入り口が破壊される。


「湾岸警備隊だ!!…う?!これは…!火を消せ!!早く―――!!」


その炎は明け方まで続き、赤い炎はエルメア商会を跡形もなく燃やし尽くした。

同時に…エルメア商会が抱えていた大量の宝石の在庫は、行方が知らぬものとなり…エルメア公爵家の名は、栄華から一転…転落の道を歩み始めるのだった。


その光景を遠くから見守る二人の影があった。


「よろしいのですか?」

「…仕方がないね。ちょっと叩いただけでほこりが舞い、塵が炎になってしまうなんて。さすがと言うべきか、()()は仕事が早い」

「それだけ深くかかわっていたという証拠にもなりますが…」

「なら猶更…もう何も残っちゃいないさ。とりあえず、エルメアの名は地に落ちたし…私としては上出来、かな」


主の満足げな表情に、ため息をつく。


(徹底しているというか、目的がなんと不純なことか…)


「さあ、帰ろうか…明日は状況が一変するだろうし。もう寝よう」

「はい」


そうして…この「エルメア商会の悲劇」は、次の日の朝には国中を駆け巡る。

それは―――学園も同様だった。



「…へえ…港で火事だって」

「事件だな、これは!」


旧校舎から脱出した次の日。

――なぜか、昼頃からケディとフォーレが私の部屋にやってきた。


「…二人とも、学校は?」

「午前中は出たよ?」飄々とフォーレが言う。そして、「そうそう、ちゃんとすべきことはした」

と、ケディはうんうんと頷いている。


「すべきことって…」

「でも、これで…多分しばらくはシャルへの嫌がらせも減ると思うよ」

「…?それ、どういうこと、フォーレ」

「この記事…なんて書いてある?」

「王都港・第四区画倉庫……エルメア商会?!って、カレンシアのところじゃ」


(いや…まさか、偶然、だよね……?)


「エルメアって…シャルに目をつけていた連中だろ?」

「あ、うん…」


頬杖を突きながら、ケディが私の目を見て尋ねる。


「事態がややこしくなるって…あの時言ってたけど、どういう意味なんだ?」

「え…」


その言葉を聞いて、フォーレは思わず私の顔を見た。


「…ええと、その」

「入学式の時…俺とケディがシャルをかばっただろ?」

「うん!だって、あんなの理不尽だろ?!公爵様だか何だか知らないけど、何様だよ?」

「…それが、気に喰わなかったんだろ」

「え?それってどういう…」

「うーん…私も、確信はないんだけど…、多分」


これは、本当に確信があるわけじゃない。

私はこの学園に中等部から入っているけど、ほとんどの貴族の子息たちは7歳になる頃から初等教育を受けるためこの学園の分校に通うものだ。


「カレンシアは子供の頃からエイデンの二人を見てきたわけで…後からやって来た私を気にかけるのが、嫌だったんじゃないかな」

「はあ?なんだよそれ!…僕たちに気にかけてもらいたいってこと?なら、シャルを虐めるのはおかしいだろ?!やっぱあいつ許せな」

「ちょっと待って!」


私の声は思った以上に通ってしまう。

一瞬の静寂。


「あー…この問題は、私は自分で何とかするから…大丈夫よ」

「…でも」

「ごめん二人とも。心配してくれてるのよね、…でも」


私だって、色々されて簡単に許そうとなんて思っていない。

ただ、私の中身は大人なので、ちゃんと相応の対処をするつもりだ。


「これは、私の問題だから…ね?」



・・・


日も暮れた頃。

リッハシャルのお見舞いを終え、フォーレとケディは二人とも肩を並べて歩いていた。


「シャルって強いよなあ」


誰かに言うでもなく、しみじみとつぶやくケディは空を仰いだ。


「…本当に。俺たち、あまり役に立てていないな」


ちらりと見たフォーレの横顔は、どこか悔しそうで、その気持ちは痛いほどよくわかる。


「僕とフォーレ…いつまでもワンセットで見られてるし。…助けたい、と思っても、空回りになっちゃうよな」

「仕方ないよ」


(本当はそんなこと、思ってないくせに)


「なあ、僕は…シャルが好きだ。フォーレは?」


一瞬パッとこちらを見たフォーレの瞳が少し揺らいだ。しかしすぐに、こちらを真っすぐ見る。


「…俺だって」

「やっぱり。でも、僕は負けないし、引かない…恨みっこなしな」

「当たり前だよ、俺たちはいつだって別々で……対等なんだからな」



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