第20話 双子の心の内
「…何で、シャル…僕たちの事、気づいてたよな」
「うん…でも、しょうがないところもあるかもしれない…でも」
―――そして、僕たちは黙り込む。
僕とフォーレは、双子だ。シャルと出会ったのは、6歳…だったかな?
今思えば、滑稽だけど…その時は僕は女の子の格好をしていた。弟のフォーレは頭が良くて、理性的で、周りの大人たちは「フォーレが嫡男だったら、エイデン家は安泰でしたね」と言っていた。
それは、つまり僕が嫡男で残念だったね…暗にそう言う意味なわけで。なら、今度初めて会うことになった一つ下の女のコはケディとフォーレという双子をどう見るのか?ってことに興味があったんだ。
僕をケディック=エイデンとしてみるのか、エイデン家の嫡男としてみるのか。
そんなことを一人の女のコに押し付けるなんて、馬鹿な話だ。でも、シャルは…自分だって母上を亡くしたばかりだってのに、色々決着付けて、しかもちゃんと僕たちをそれぞれ見てくれて。それだけで、僕は嬉しかったし、シャルをもっと知りたい、と思った。
その後、何度かシャルとはあえたし、どれも眩しい思い出ばかりだ。
手紙だって何回も贈ったし、アカデミーの初等部に行ってからもずっとシャルがアカデミーに来るのを待ってた。それなのに…
「何で、こうなるんだよ」
呟いたフォーレの言葉は、僕と同じ気持ちなんだって気が付いた。
それから…学年は違うけど、すれ違う時、ついシャルを探して目で追ってしまう。どうやら、フォーレも同じで…ほんと、僕たちは双子なんだなって実感してしまう。
僕たちは仲はいい。僕もフォーレも、やっぱり心の何処かで「もう一人の自分」みたいな感覚はずっとあって、どっちが兄とか弟とか関係ない…親もそうしてくれた。
(でも、心は共有できないし…でも、フォーレもきっとシャルの事が)
シャルは「どっちか嫌な思いをさせる位なら、どっちも選ばない!」ってそう言っていたけど…そうなった時、僕はどんな顔をするんだろう。
フォーレは、僕は…祝福できるだろうか。
そんなことをぐるぐる考えている内に、結局シャルとまともに話すこともなく…いつの間にか一週間が過ぎてしまった。
そして…事件が起きる。
「………はあ」
「あれ?珍しいな。双子が別々にいるなんて」
「…別に四六時中一緒にいるわけじゃないさ。まあ、なんか忙しそうだし。あいつ」
くせっ毛頭のルウト=ヴィレスクは、仲がいい友達の一人。
彼は僕らの出自に関係なく扱ってくれるいい奴だ。父親が外交の仕事をしているからか、やっぱり他の奴とはどこか違う独特の世界観があるらしく、それが心地いい。
「今年も生徒会役員やるんだって?その内会長にでもなりそうだ。よくやるなあ!俺には無理だね」
「僕も…それなら一日中剣術でも勉強するほうがよっぽど楽し」
ふと、中庭にある広場に揺れる黒い髪を見つけた。思わず窓を全開にして身を乗り出す。
「!!」
「あ?…っておいぃ!?こっから出るのかよッ?!ここ二階だぞ―――?!」
二階なんて程度の高さは、はっきりって僕には造作のないことだ。
それよりも…何か、様子がおかしい。
「シャル!」
「え?!わあ?!!ど、どこから来たの?!」
「窓から見えたか…」
ふと、シャルの姿を見て言葉を失う。
…よく見れば、ずぶ濡れだ。
「何があったの?!」
「あー…えぇと…」
少しの間後ろの方を気にしながら、シャルはそのまま僕を追い越し、全速力で駆け出した。
「あ?!ちょっ 何で逃げるんだよ!」
「こっち来ないで!」
「…だから何で!!」
「事態がややこしくなるんだってば!もう!」
「事態って…!!っなんだよそれ!」
―――こうして、僕とシャルの追いかけっこが始まった。
同じ頃…そんな二人の様子を、別室の窓から見ていたフォーレはため息をつく。
「何してるんだよ…あの二人」
「あ!副会長ーそろそろ次の期の役員締め切りになりますけど…どうします?」
「出るよ」
「え?」
「勿論。生徒会長に立候補する!後よろしく!」
「じゃあ、この提出書に…あ」
そして、そのまま走り出した。
―――ケディック=エイデンは、エイデン侯爵家の嫡男で、フォーレスト=エイデンは、その下。
これは、学園のみならず、一般に認知されている客観的事実だ。
俺は「二番目」、ケディは「一番目」。
別に、今更それを嘆くわけでもないし、恨んでもいない。でも、俺に個性があるように、ケディにだって個性や性格はあるから、結局俺たちは別々の存在なんだ。
…俺は甘い物が嫌いだけど、ケディは好き。
ケディは学問と運動なら、絶対後者の方が得意だし、俺は学問が一番好きだ。
それと…多分、リッハシャルの事も。
(でも、俺は引くつもりはない)
アズレア王国に、黒い髪の人はほとんどいない。
祖父…先代のエイデン侯爵は、旅行が好きで、よくいろんな国を回っていた。キアルーンもその一つで、そのお土産として、俺には本を、ケディにはパズルのような箱をくれた。
本の中にいたのは、アズレア王国では一度も見たことがない黒い髪の女戦士の姿。初めて見る異国の形と、その世界に驚いたものだ。
父から友人であるエイデン伯爵の話を聞いて、ケディと一緒にリッハシャルという異国の血を引く女の子に会うのを楽しみにしていた。
そして出逢って…初めて黒髪を見たけれど、とても真っすぐで、綺麗で目が離せなくて。
あの子自身、複雑な環境のせいかどこか大人びていて、いつも違う世界を見ているようで、その世界がどんなものなのか興味があった。
―――その隣に行って、一緒にその世界を見てみたい
だから、俺は彼女みたいになりたくて、傍にいたいから…何でもやることにした。
難しいことだって、生徒会役員だってなんだって。
「副会長、最近…一年生の間で変なことが流行ってるみたいですよ」
「変なこと?」
「その…いわゆる、嫌がらせ みたいな」
「……その話、詳しく」
(どこ行ったんだ?二人とも…)
ああ、でも。
ほらやっぱり…どうしても、ケディにいつも先を越されてしまう。
あいつは天性の本能、みたいなものがあって俺が気が付かないことをいち早く見つけては、無意識に選んで先へ行く。
「!あ、いた…!!」
そして、見つけた。
北側の校舎…今は使ってない古い方の建物に、二人が消えていくのを。
「あそこって…確か危ないからって立ち入り禁止じゃ……全く!ケディの奴…」
ガン!と派手な音を立てて、私は扉を閉めた。
「はーっ…はーっ…も、もう…なんで」
扉にもたれかかりながらずるずると座り込む。
しかし、想像以上に冷たい空気と、ほこりっぽさに思わずむせてしまう。
「うわ…古っ。こんな場所あったんだ…」
どうやらここは、北側の奥にある旧校舎の方らしい。
しばらく誰も入っていないらしく、適当に駆け込んだこの場所は、一体どのあたりになるんだろう?
歩く度にギシギシというあたり、相当旧い建物だということがわかる。
「へくしゅっ!うう…水かけられたからなあ」
それは、つい先日の事。
例の神様ガチャが起こしたペナルティ…が発動したのかどうかは不明だけど、私は今、非常に微妙な立場に追いやられている。
それが…カレンシア・エルメア嬢率いる派閥の、嫌がらせの数々である。
「あなた、気に入らないわ」
「……は?」
入学二日目にして教室のど真ん中、しかも公衆の面前でそう宣言された私は、まず20人くらいいるクラス全員から無視されることから始まった。
権力という黄金の鳥籠で育った彼らにとって、公爵令嬢の発言は威力絶大である。
秒で孤立無援、味方の喪失…本当、権力って厄介だ。
それから、日を追うごとに嫌がらせの数が増加していく。彼らはちまちまちまと、物を隠したりこそこそ影口叩いたり…時には、「異国人」だの「庶子」だのよく聞くありきたりな言葉を投げかけたり、と―――何と言うか、陰湿だ。
(嫌がらせるならもっと派手にすればいい物を…面倒ね)
と、間違いなく微妙に精神的に疲弊する日々が続いている。
でもくじけない私にあちらの方がしびれを切らしたらしく、今日は昼休みに入った途端、見えないところから、私をめがけて絵具の入った水のボールを投げかけてきて…この有様である。
しかもそこからなぜかケディが空から降ってき今に至る。
「見つけた!」
「え?!」
どうやら別の入り口から侵入して私の事を見つけたらしい。
(ケディの運動神経の良さを舐めていた…)
あっという間に私の手はケディに捕らえられる。
「何で逃げるんだよ!!シャル!」
「お、お追ってくるからでしょう?!」
「それより…もしかしていじめられてるのか?!」
「いじめ…っていうか」
「シャツだって、濡れてるし…」
そう言って何のためらいもなく、自分の上着を私にかけてくれる優しさは、ケディらしいなとは思う。
でも、どうしてこんなしょんぼりした顔してるの?
「…僕が、何かしたの?」
「え?」
「だって、事態がややこしくなるって」
(あー…もう、しょうがないなあ)
「別に何かしたわけじゃないよ…ただ、私と関わると、いいことないじゃない」
「…まだ一緒にいるわけじゃないのに、どうしてそんなことがわかるんだよ。そんなの、シャルが勝手に決めて、そう思い込んでるだけじゃないか?!」
「…えっと」
じりじりと詰め寄られ、遂には壁際まで追いやられてしまう。
「ちょ…ケディ、離れてって」
「やだ!だって、またにげるだ…」
ぐら、と突然足元が揺れた。
「…え?!」
「!」
ミシミシ、と同時に、バキバキとワンセット。
これってつまり―――
「‥‥っ?!」
「床が抜けるっ!!」
読んでいただき&ブックマーク等、ありがとうございます。精進します!




