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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第2章 あれ、人生やればできるかも。

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第16話 それは祝福か、呪いか


「ねえ、聞いた?奥様の話…」

「ええ…絶縁ですって?一週間後、お邸を出ていくそうよ」

「……」


相変わらず、この邸のメイドは口が軽い。


(人の不幸は蜜の味、…ってね)


「シャル!」

「こっちこっち!」

「ケディ、フォーレ!わあ、なんだか今日はかっこいいね」


明日、エイデン一家はみんな、帰ってしまう。

せっかく仲良くなれたのに、少し寂しい。…だから、今日はお別れのパーティー。


「二人とも、女の子の格好はやめたの?」


こそっと聞くと、ケディもフォーレも笑って答えた。


「だって、意味ないし」

「シャルはちゃんと俺たちを見てくれるしだろ?…それに」


すると、二人が私に向かってすっと手を伸ばした。


「この格好じゃないと、決まらないじゃん」

「エスコートさせてください、お嬢様」

「!」


今日はいつもよりも、私の服装も華やかだ。

長い髪は、メイドのメルが緩い三つ編みで仕上げてくれたし、ドレスも…ふ、フリルはまだ抵抗があるので、お断りして…代わりに、水色のシフォンドレスを着させてもらった。


(な、なんか、お姫様になった気分)


ダンスとかそう言うのはまだまだ先の話だけど、私も目いっぱい背伸びして、二人の手を取った。


「えへへ、よろしくお願いします」


ただ、美味しい料理とデザートを食べて、談笑するだけのアットホームなパーティー…まるで、夢の中にいるようで、気持ちもふわふわしてしまう。


(スイーツが美味しい…!)


「食べ過ぎるなよ、シャル。…だが、たくさん食べなさい」

「うん!」


お父様もステキな正装で、私の水色のドレスとお揃いのタイをしてる。

…でも、ここにロザベーリはいない。

あれ以来、部屋に閉じこもりきりらしい。何があったか、誰も教えてくれないけど…想像はできる。


(お父様の服、はだけてたし…でも、合意ではなかったような)


――大人の事情はよくわからない。

でも、私はあの時、微かにリア―ネの気配を感じた。…見えない力が働いたから、お父様も無事で、私も無事だったのかもしれない。

そして、ラウは…あれ以来、誰も行方を知らないままだ。

何処から来たのか、誰の紹介だったのか…厨房のシェフたちもそれぞれ記憶が曖昧で、でもいつの間にか溶け込んでいたと口をそろえて言う。それが不気味で…少しもやもやする。


(ヴァラモ家…)


私はこの世界のことをまだよく知らない。

でも、わかったこともある。ラウの誘拐、ロザベーリの派手な行動、亡くなったメイドも、元はロザベーリの実家…ヴァラモ家にいたことがあるらしく、紹介状も持っていた。

その全ては偶然ではなく、――絶対的な後ろ盾「ヴァラモ家」に結びついてる。

でも、一体…何が目的だったのか。それは、今でもわからない。


「また、難しい顔をしてる」

「え?」

「…あまり難しいことばっか考えてると、顔がぶすになるぞ」

「ケディって、すっごく失礼な時、あるよね」

「な、なんだよ!笑ってた方が…シャルはかわいいと思うぞ!」


(あら、可愛いだって)


「ふふ、ありがと!」

「あのさ、…シャル」

「ん?」


すると、ケディは何かを言いたそうに口ごもる。

そして…私の耳に手を当てた。


「実は、最初に女の子の格好しよう!って言ったの…僕なんだ」

「え?」


そう言えば、最初に出会ったとき、双子の兄が『フォーレ』で、妹が『ケディ』と聞いてた。


「フォーレってさ、あいつ僕より、頭がいいじゃん。本当は、みんなフォーレの方が先に生まれてたら…ってそんな風に思ってるんじゃないかって。勝手に想像しちゃってさ」

「うん…」

「なんか…すげえ落ち込んじゃって」

「ケディ…」

「その時……父上から、親友の家にいる僕たちと、年の近い女の子の話がいるって聞いたんだ」


(そう言えば、二人とも最初から私のこと知っていたよね)


「先に生まれたとか、後に生まれたとか…僕たちを知らない女の子は、ケディックの事を、フォーレスの事を…どう見るんだろう?そう、思ったんだ」

「…それで、どうだった?」


一瞬迷った風だったが、ケディは私の方をしっかりと見た。…その表情は、どこか大人びていて、ちょっとカッコイイ、なんて不覚にも思ってしまった。


「想像以上だった!変な格好しなくても、シャルは…ちゃんと、僕たちを見てくれてる。なんかそれがすごくうれしい。だから、さ」


突然周りをきょろきょろしだしたと思ったら、ケディは私の手を取り、テラスの方に連れ出した。


「僕の事、目が離せなくなるくらいもっともっと格好良くなってやる!…だから、かくごしろよ!」

「え…」


まるで宣戦布告のようにそれだけ言うと、ケディは顔を真っ赤にして、ぱっと顔をそむけた。

あれ、これってもしかして実質プロポーズになるのかな?…なんて。


「ま、毎月手紙書くし…だから、返事くれよな!」

「…うん!!絶対、忘れない!」

「あ!ケディ、シャルと二人で何話してるんだよ!」

「べっつに!」

「俺だって、手紙書くから…忘れないでよ?」

「忘れないよ、ケディ、フォーレ!…また、逢おうね」


きっとこの子たちは、将来すごくかっこよくなるんだろうな。

その頃は、私の事を忘れてるかもしれないけど。


(私は、絶対忘れない。…この世界に来て、初めての友達だから)


こうして――エイデン一家は、次の日…自分たちの領地に帰っていったのだった。

そして。


しん、と静まり返る部屋に、高らかとノックの音が三度、響く。


「…いるよね、そこに。…ロザベーリ」


返答はない。でも、私は続けた。


「聞きたいことがあるの。お母様を…リア―ネを死に至らしめたのは、あなた?」


これも返答はない。

でも、扉の向こうに、彼女はいる。


「ベラドンナを栽培していたのは、死んだメイド。それを採取していたのは、ラウ。そして…あなたは、採取したベラドンナを使って、何か知らの方法でリア―ネに幻覚を見せ、孤立するように仕向けた…これであってる?」


私がそう言うと、少し間があいて…ドアが開いた。

――立っていたのは、ローブドレス姿の、ロザベーリ。少しやつれているように見えるが、立ち姿は依然として凛として、落ちぶれた様子はない。


(彼女の…プライドがそうさせてるのかな)


「…随分と、大人びた子供ね。お前、何者?」

「どうでもいいでしょ、そんなこと。ここから少し離れたところに、護衛の騎士がいてくれるから…私に何かしようとしても、無駄だよ」

「……何が目的?」

「知りたいだけ。あなたがベラドンナの薬をどこで作ったのか…を。それと」


そう言って見せたのは、例の飾り箱に入っていた小さな瓶と、白いハンカチ。


「この、花の意味」

「……」


あの後、ジェンナ先生と調べて、一つ分かったことがある。

それは…小瓶の蓋と一緒に会った布、それは少し歪な白い花の刺繍がされたハンカチだった。

私は何も気が付かなかったけど…そのモチーフを見た瞬間、ジェンナ先生の顔が強張った。


「…ヴァラモ家」

「え?」

「……奥様の御実家、アズレアで最も力ある一族、ヴァラモ家で使われることがある印章です。私の母も…そうでした」

「先生…」

「この左右非対称の花と一緒に…このベラドンナの薬を強要されたのでしょう」

「どういう、意味?」


私が聞くと、先生は困ったようにうつむいた。

そして、小さく…ごめんなさい、とだけつぶやき、それ以上何も教えてくれなかった。


「利口な先生ね…お前は、それを知ってどうするの?」

「…知りたいの。あなたが何を思って、リア―ネを追い詰めて…リア―ネはどんな思いでその生涯を終えたのか」

「……なぜ?」

「未来のリッハシャル=ルドヴィガの為に」


こんな理由、ロザベーリは一生理解できないと思う。

でも、リッハシャルはこれから起きた未来で、ロザベーリに追い詰められ、母を亡くしたことで果てのない孤独を思い知り、静かに息を引き取る結末になる。


(今から全部変えるからその未来はなくなるだろう。でも、私だけは覚えていたい)


「美しいものにこそ、価値がある。それが、あの家の全て」

「…何、それ?」

「だって、あの家は呪われているから」


ヴァラモ、という名前を彼女は口にしない。


「あの家の娘はね、他家に嫁ぐまでその白い花をモチーフとして使うのよ」

「…他家に、嫁ぐまで…?」

「その花に名前はない。ただ何色にも染まり、完ぺきではない形で、いくらでも姿を変えられる。死ぬまでそれを持ち、最後まで誰にも渡さない…実りを紡ぐまで」

「……どうしてそれを、リア―ネに」


ロザベーリはふっと、笑う。


「――使い古された花だから、よ。賢いお前なら、わかるでしょう」


ゾッとした。

【何色にもなれない、不完全のままの死】

ただ花のまま、母親にもなれず、虚ろな愛だけを胸に、夢の中で眠りについたまま枯れる事すら許さない―――そう言うことだ。


「リッハシャル…お前が何者か、どうでもいいわ。けれど、一つだけ断言できる。お前は国一つ傾ける程美貌を持っている。その美貌は、大人になった瞬間周囲を惑わし、男たちを狂わし、みんな競ってお前に愛を乞う……」

「…っ」


私の髪を強く引っ張り、ロザベーリは嗤った。


「よく覚えておきなさい。お前の存在は、望まぬ望まざるに関わらず、その美貌で周囲を不幸にするでしょう」

「そんなこと…しない!」

「美を呪いにするか、祝福にするか…私の言葉を、忘れないことね」

「忘れないよ…!私は、絶対に祝福にする!!」


―――その日を最後に、ロザベーリと顔を合わすことはなかった。そして三日後…

彼女は颯爽と、馬車に乗り込む。一度も振り返ることなくロザベーリという女性は、ルドヴィガの家から去っていた。


(…美しくなるために、ロザベーリを頼り、薬を与えられ…その美しさを“祝福”されて死んだ)


「…どうして、そんな孤独を抱えたんだろう。お父様はあなたを愛していたのに、リア―ネ…」


過去、私が使っていた部屋にある「ベラドンナ」の文字。

それをそっとなぞると、ヒヤッと背中に寒気を感じた。


「…リア―ネ?」

『……』


そこには、とても穏やかな表情のリア―ネがいた。


「…ロザベーリの夜這いから、お父様の事、助けたでしょ?やるじゃん!」


それに、多分私の事も。


『あなたのおかげで、わかったわ』

「…?」

『レイドックは…本当に私を愛してくれていたのね』


ロザベーリが去った後から、お父様は薬指に指輪をしている。

それは、結婚指輪にしては珍しい黒い石だったんだけど…今、リア―ネも同じ指輪をしているってことは。


(意外と情熱的でロマンチストだよなあ…お父様って)


「私は、別に何もしてないよ…」

『…もうそろそろ、行くわ』

「!」


ゆらり、とリア―ネの姿が揺らめく。


「あ…そうだ!あのね、枕元に立てば、お父様にきっと会えるよ!だから…!」

『ありがとう、律葉。…シャルの事、よろしくね』


そして…消えていった。



お読みいただき、ありがとうございます!

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