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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第2章 あれ、人生やればできるかも。

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第13話 ベラドンナ


「今日の私は、美しい?」

「ええ。あなたの美しさに敵う者など、この世にいませんよ」


その部屋にある大きな鏡台は、全身を映す。

バスローブに身を包んだ一人の女性の姿。胸元から伸びる少し赤みを帯びた首元は、陶器のように白い。爪の先まできっちりと整えらた指に掌が絡むと、熱い吐息が漏れる。


(そうよ。私は美しい…誰よりも)


「ところで…奥様」

「何?…その質問は今必要なこと?」

「はい。旦那様が、青い印章の手紙を秘密裏に受け取ったとか」

「…誰の情報かしら」

「先日入った、キッチンに努める下っ端の下女です…おっと」


ぐ、と身体を押しのけ、ロザベーリは上から見下ろした。


「随分親しいのね?その娘と」

「いやあ、金に困っていたので、ちょいと餞別をくれてやっただけですよ」

「……そう」

「それと…どうやら、お嬢さんと旦那様、随分と仲良くなっているみたいですね」

「リッハシャル…」


生まれながらにして整った容姿持つ、異国の血を引く下賤な娘。

絹のような黒い髪も、あの瑠璃の瞳も、あの子が大人になれば誰もが魅了されることだろう。


(でも、私は年齢を重ねていく…)


「…美しくなければ、意味はない?」

「!………そうよ」

「ロザベーリ、あなたは正しい」

「美しさは武器、美しさは手段…私は、【完璧】でなければならない…そうじゃないと」


棄てられる。

あの男にも、家門にも。


「はは、何を弱気になっているのです。…いつもの『手段』を使えばいいでしょう?旦那様は、毎夜()()()でお休みだとか?」

「…あなたはそれでいいの?ラウ」

「ええ。あなたは苛烈であればあるほど、美しさが際立つ!この家も、あの方も…全てあなたの手の中に」

「………」


(そうよ。私が選んだ。あの人に…選ばれたわけじゃない…)





「うーん……」


(ベラドンナの効用は、接種の仕方にもよるけど…一番は直接身体に取り入れる事、美容の悪魔と言われる所以はそこにある)


瞳孔が開いて目が大きく見えたり、肌が良くなったり、と色々効果はあるようだ。

でも、問題なのは「過剰摂取」


(夢で見る限り、お香もなんかありそうだし…やっぱり)


あの、窓辺に置いてある琥珀色のものだろう。


「お嬢様、今日はいつにもまして上の空、ですね」

「え?…あっ」


しまった、忘れてた…今はまだ、先生が来ている時間だ。


「ごめんなさい…」

「全く…何か気になることでも?」

「あ…ええと、あの」


ええい、ここは一度、思い切って見よう!


「コレ…」

「?…小さな、小瓶 ですね」

「……お母さまの、部屋にあった」

「奥様の…?」


きつく締められた蓋を取ろうとし、ジェンナは慌てて手を止めた。


「本当に、奥様の部屋に…?!」

「ま、待って!」

 

ぱっ、とどこかに行こうとした先生を引き止める。


「今すぐ旦那様に…」

「ダメ!!…まだ、まだダメ!!まだそろってないのっ」

「揃ってって…」


ぎゅうっと、目いっぱい力を込めて腕をつかむと、やっと止まってくれた。


「ソレ…よくないものなんでしょ?…お母さまは」

「!お嬢様…それは」

「お願い先生!…力を貸して!ずっと、ずっと…お母さまが苦しんでるの」


もう、どう思われても別にいい。

だって、実際リア―ネはそこにいて…ロザベーリをずっとにらんでいる。


(このままじゃ絶対良くないことが起きる。みんな幸せになれない気がする)


「…ふう、わかりました。では」


そう言うと、先生はくるりと踵を返し、ドアをガチャリと開く。


「わ?!」

「バレたか…」

「フォーレ、ケディ?」


まるで雪崩のように転がってきたのは…エイデン兄弟。


(あ、今日は二人とも男のこっぽい服装だ)


「盗み聞きとは感心しません…が、お嬢様を心配なさっての事でしょう?」

「う、うん…箱見つけたのは僕だし」

「開けたのは俺だよ!」


そんな二人の様子を見て、私もジェンナ先生と一緒に腰に手を当て、ため息をつく。


「仕方ありません…これで下手に動いて大ごとになったら大変ですし。ひとまず、授業は中断して、お茶をいただきましょう」


2人を部屋に招き入れて、私は一度外を確認する。


(…誰も、いないよね)


パタン、と扉が閉まられるがリッハシャルは気が付かなかった。


「……ふうん」


壁の向こう、死角の場所に人が隠れていることを。


「つまり…シャルのお母さんは……」

「……シャル」


案の上、二人は言葉を失っていた。

(うまく…説明できてれいばいいけど)


「あまり、お嬢様達に見せるものではありませんが」


そう言って見せてくれたのは、「植物図鑑」。

ずっしりと重く分厚い本は、幾つものしおりが挟んであり、ページを開いて…目がちかちかする。


「もじがびっしり…」

「専門書、ですから。…こちらに、ベラドンナの効用があります」

「悪魔…美…なんか、怖いね、その植物」


あらぬ方を見て、読むのを辞めたケディに対し、フォーレはたどたどしいながらも、一つずつ文字を確認して読み上げる。


「少量なら問題ないけど、取り過ぎたり、しちゃいけない使い方をしたら…確かに。それが、あの箱に入っていたの?」

「うん。…でも、なんの薬かわからなくて」


すると、ジェンナ先生が眼鏡を一度クイ、と上げてゆっくりと説明してくれた。


「…ベラドンナは、ある工程を使って、昔は「香水」の一つとして使われていたんです」

「香水?」

「この薬自体調べてみないと何も言えませんが…ただ、香りが」

「匂い?」

「アカデミーにいた時、研究過程で一度授業で実物を見た…その時と同じ香りがします」


私が匂いを嗅ごうとすると、すっと遠ざけられてしまった。


「いけません。…草を潰した時、なんとも言えない不快な臭気と、少しだけ空気が冷え込むような…そんな独特の匂いがありました」

「…なあ、シャル。匂いで空気って冷たくなるのか?」

「わ、わかんない…」

「…うーん、でもさ、そんなやばそうな薬、なんで気が付かなかったのかな」

「確かに…たまには賢そうなこと言うな、ケディ」

「うるせえよ」

「…確かなことはわかりませんが、奥様はキアルーン地方の出身とお聞きしました。…キアルーンは砂漠の向こうにある【ランザ王国】の一つですが…あちらの国は「お香」が盛んなのです」

「お香…?」


そう言えば、夢の中でも、故郷の国のお香の話をしていた。

…ランザ王国?って、砂漠にあるんだ…今度世界地図を見てみよう。


「ですが…こちらのアズレア王国ではその技術は伝わっていません。一部の高名な貴族であれば、交易で入手することもできます。でも、本物によく似た劣悪な香モドキは、ひどい中毒症状、幻覚を引き起こすような有害なものが市場に流通しています。それを香と偽れば…」


すっかり、探偵モードになった先生は、はっと我に返ったように赤面した。


「…ルルが言ってた、お母様はいつも…心が遠くに、ずっと夢を見てたって。もう、全部を忘れちゃったんじゃないかな」

「それは…でも、全てが憶測です…けれど」


すると、ずっと黙っていたフォーレがケロリと言った。


「…伯爵夫人の部屋に、何か隠してないかな」

「え?!で、でも…ずっとあの人、部屋にいるし」

「こっそり行けばバレないんじゃない?」


こういう時はやはり双子だから?

フォーレとケディが意気投合している。


「お母さま…夫人とお話ししたい、とか言っていたね」

「ここはさあ…格上の僕らの家門からのお誘いだし、断れないんじゃない?!」

「よし、じゃあ僕がお母さまにそれとなく交渉してみようかな?」

「それいいじゃん!()()()()()()のはフォーレの得意技だし!」

「言いくるめるって…」

「お嬢様、真似してはいけません」

「で、できないよ、そんなの」


きっと頭がいいんだろうなあ、フォーレは。


「じゃあ早速行ってみようぜ!」

「うん。…俺たちがいる間に、解決しないと」

「あ…そっか」


この子たちはいつまでもここにいるんじゃないんだっけ。

二週間の予定だから…あと七日もない。


「…うん、お願い。…フォーレ、ケディ」

「おうともよ!」

「まかせて。…あ、それと」


先を行くケディを見送ると、フォーレがそっと私に近づいて耳打ちした。


「この間の話、考えておいて?」

「この間??」

「うん。……僕か、ケディか。どっちかが君のお婿さんになるって話」

「え?!」


一気に顔が熱くなる…こ、子供のたわ言じゃなかったの?!


「…シャルだったらいいな。それじゃ!」

「……っもお…」


すると、なんとも言えない笑みを浮かべる先生と目が遭った。


「ふふ…それじゃ、今は少し待ちましょうね。勝手に行動したらダメですよ?」

「し、しないよ!…そんな」

「今日はここまで、ですね。…また、明日」

「うん!先生、またね!」


そう言えば…もう一つ、私の中では疑惑がある。

ロザベーリと、あの厨房の金髪男…あいつとの不倫だ。


(…厨房に行ってみようかな?)


――調査であって、これは、決して甘いお菓子を貰いに行くわけじゃないんだから!

この間教わった通りに地下に降りていく。…つもりが、厨房の裏側に出てしまったようだ。


「あれ?間違えちゃった」


どうやらハーブや野菜が植えられている庭園に直結しているらしく、風に乗ってなんだか少し変わった香りを感じた。


(ハーブ…)


ちょっとだけ。

そう思い覗こうとして…出会いがしら、誰かにぶつかった。


「あ!」

「わ…」


結構強烈にぶつかったらしく、私は尻餅を、もう一方は…ばらばらと草が床に散らばってしまう。


(ありゃ…メイドさん?)


「す、すみません!すみません!すみません!!」

「え…あ」


(…この人)


あ、なんだかこの小柄な人…前世を思い出す。

人は或る極限に達すると、謝り癖が付いて目線を上にあげられなくなる。

自分に自信がなくて、何か後ろめたいことがあるとき…そう、今の彼女のように。


「だ、大丈夫だよ」

「すみません、すみません!!!」

「あ―あ…ダメじゃないですかあ」

「!」


ざり、と床に散らばった薬草を大きな足が踏みにじる。

なんとも腐った土みたいな、妙なにおいが一瞬香り、思わず鼻を抑えた。


(この、無礼な声は)


「ラ、ラウ様…」

「いいよ、君。帰んな。あとは俺がやっておくから、さ」

「は、はい…すみません…」

「あ…」


…ロザベーリの不倫疑惑の金髪の男の登場だ。





お読みいただき&ブックマーク、ありがとうございます。精進しますので、よろしくお願いします

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